上 下
1 / 9

アタシが美少女に転生したわよ

しおりを挟む
――なんで、こんなことになったのかしら――



 魔王城、目の前には魔王。両脇には配下たちが整列しているなか、中央で正座をさせられている。



 ことの発端は、操が新宿歌舞伎町でいつものようにオカマバー『ホルモン罪』での接客を終え、いつものように同僚の玉未ちゃん(男)と馴染みの店で気を失うまで飲み、いつものように路上で寝ていた。

  災難だったのは寝ゲロをしてそのまま窒息死をしてしまったことだ。



 操が目を覚ました時には、見たこともない中世ヨーロッパ調の街並みの中の路上で、大の字になっていた。

 目覚めたのは体中がズキズキ痛かったからだ。操は上半身を何とか持ち上げた。



「なに? これ? 体中痛いじゃない」



 そう言った声が、いつものカエルの鳴き声のような声では無かったことに気付く。



「まだ元気があるんだな、姉ちゃん」



 言ったのは、目の前にいる体格のガッシリした大男だった。



――まぁ、嫌いじゃないかも――



 そう思っていたが、明らかに向こうは敵意を向けている。



「ちょっと、どうゆうことかわからないけど。おじさまは何でアタシに敵意を向けているのかしら? 記憶がないんだけど」



――やっぱりアタシの声変よ。なに、今頃声変わり? それにしても何このどっかの女性シンガーが綺麗な歌を歌っているかのような声は――



「姉ちゃん何言ってんだ? 姉ちゃんが俺の金を盗みやがったから半殺しにしてんじゃねえかよ。殴られすぎて記憶が飛んだか?」



――何言ってるのかしら? アタシがこのタフガイのお金を盗んでボコボコにされているですって? 確かに記憶はないけど……歌舞伎町では、絡まれたヤツ全員玉無しにしてやったこの操ちゃんが、大男とはいえ負けるわけないじゃない――



「ごめんなさい、全く覚えてないのよ。でも、このアタシをボコボコにしたのはおじさまなのね?」



 確認のため尋ねる。



「そう言ってるだろ。姉ちゃん綺麗だから、初めは身体で許してやろうとしたんだぜ。けど、『アンタの相手をするくらいならオーガの相手のほうがマシ』だとぬかすからこんなことになったんだろ」

「あら、アタシが綺麗だなんてことはアタシが一番理解してるけど、ほかの人から言われたことは今の今までなかったわ。悪い気はしないわね」



  ――何ならワンナイトラブくらい考えても良かったかしら。けど――



 「けど、アタシをここまでボコボコにしてくれたんだから、こっちもお礼をしなきゃね」



  倒れそうになりながらも膝に手をつき操は立ち上がった。



 「あぁ? 今頃お礼だぁ? まぁそっちがその気なら考えないわけじゃねえ」



  男は下品な笑いをこぼしている。

  操はゆっくり男の前に歩いていくと、右腕を大きく振りかぶり男の顔面目掛けて拳を入れようとした。

 だが、男は読んでいて、左手で飛んでくる拳を掴んだ。



  「残念だったな。不意打ちは悪く――」



  男がしゃべり終わる前に、操の右足は男の股間を思いっきり蹴り挙げた。



  「がっ……」



  男は両膝をついて崩れ落ちた。



  「どう? アタシの必殺『玉落とし』よ。おネエをなめんじゃないわよ」



  男に吐き捨てると周りの野次馬たちから一斉に歓声が上がった。



  「あらやだ、こんなに観客がいたのね。それにしても体中痛くて仕方ないわ。どこかで少し休まないと。ってアタシの身体おかしくない?」



  操は自分の異変に気付いた。手や腕は全然ゴツくなく、細くスベスベしている。髪は、従来のゴワゴワした天パーではなく水色髪ストレート。胸も、胸筋むき出しのボリューム満点なものではなく両胸に申し訳程度に丘があるだけ。



  「何よこれ!? アタシどうかしちゃったの?」



  ――まったく意味がわからないわ。確かに周りの街並みも見たことないし何なのよこれ――



  そして建物の窓に映る自分の顔を見て驚愕した。



  「きゃああああああぁぁぁぁぁー。何この美少女。これがアタシなの!?」



  目はパッチリ二重、鼻は小さくシャープに整い、スタイルも抜群。



  「全身整形でも骨格的にここまでは無理よ。意味わかんない」



  自分の姿に驚いていると、後ろから一人の男が操に近づいてきた。



  「いや~姉ちゃん、華奢で美人なのに強えなぁ。ケガしてるとこ悪ぃけど冒険者ギルドに入らねえか? 姉ちゃんならガッポリ稼げるぜ!」
しおりを挟む

処理中です...