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島国の戦士
第147話 修復 ~塚本 1~
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麻乃が調理場から出て食堂へ向かっていくのを、塚本は市原と一緒に稽古場の入口からのぞいていた。
「おいおい……突然、雰囲気が変わったな。ずっと棘のある感じだったのに」
「高田先生が面白いものを見られると言ったのは、洸のほうじゃなくて実はこっちか?」
「これはもしかすると豊穣が終わったら、この道場に目出たいことが一つ増えるかもしれないな」
市原がニヤリと笑って言い、二人で連れだって高田の部屋に向かった。
「失礼します」
「ああ、入れ」
中に入ると、高田は机に向かい、手紙を手にお茶を飲んでいた。
「様子はどうだ?」
「驚くほど、険が取れていましたね」
高田の問いに、市原が答える。
「そうか。多香子をあいだに入れて和らげるつもりだったのだが、具合を悪くしたからな。どうなることかと思ったが……」
「一体、どういうことですか?」
含み笑いをしながら手紙を読み返している高田を、市原が不思議そうに眺めて問いかけると、その手紙を寄越した。
「麻乃の様子がおかしかったのには、いくつか原因がありそうだが、そのうちの一つは彼が握っていたようだ」
「俺はてっきり、例の人の気配云々が原因かと思っていましたが……」
市原はそう言い、読み終えた手紙を塚本にも回してくれた。
「あれはシタラさまに視ていただいて、なにもないと言われただろうが」
その手紙に目を通しながら憮然としてそう言うと、高田は小さくうなずいた。
「ところがな、どうも麻乃に対して、なにかが働きかけているようではあるのだよ」
「なにかが、ですか?」
思わず市原と顔を見合わせた。
「みんなを信用するな、そう言われたのだと麻乃は言っていた」
「誰がそんなことを……」
「それが、わからんらしい」
ブルッと体を震わせた市原が、真顔でつぶやく。
「なにかに憑かれている、そうお考えですか?」
「それは私にはどうにもわからん。が、しかし……先日の敵襲のことも、このところ麻乃の身の回りで起きていることも、なにかおかしいのはわかる」
「確かに俺たちにもわかります……」
「本当ならこのまま大陸へやるのは賛成しかねるのだが、どうやら落ち着きを取り戻したようだからな、向こうへ渡っても修治といるかぎりは安心だろう」
「先生、麻乃は今年の豊穣は修治とではないようですが……」
「ええ。先ほど二人の様子をうかがっていたときに耳にしたのですが、今年は彼と一緒にロマジェリカへ渡るようです」
高田は塚本と市原の顔を交互に見た。
「それは確かか!」
「ハッキリとは……ただ、豊穣があんな組み合わせになって、とか、自分のことは気に入らないだろうが、少し我慢してくれ、とか、そんなことを彼が言っていました」
腕を組んで聞いていた高田の表情はひどく険しかった。
窓にとどまっていた若草色の鳥が何度かさえずり、飛び去っていったのを、その目が追っている。
「急ぎ確認をしておいてくれ。ただし、くれぐれも自然にな。私は近所まで出かけてくるが、すぐに戻る」
高田は立ちあがると羽織を手に支度を始めた。
市原も高田の様子に不安を覚えたのか、塚本に視線を送ってくる。
高田が道場を出ていくのを見送る塚本の耳に、小さなつぶやきが聞こえた。
「どちらかが揺れたらまずいことになる……」
「おいおい……突然、雰囲気が変わったな。ずっと棘のある感じだったのに」
「高田先生が面白いものを見られると言ったのは、洸のほうじゃなくて実はこっちか?」
「これはもしかすると豊穣が終わったら、この道場に目出たいことが一つ増えるかもしれないな」
市原がニヤリと笑って言い、二人で連れだって高田の部屋に向かった。
「失礼します」
「ああ、入れ」
中に入ると、高田は机に向かい、手紙を手にお茶を飲んでいた。
「様子はどうだ?」
「驚くほど、険が取れていましたね」
高田の問いに、市原が答える。
「そうか。多香子をあいだに入れて和らげるつもりだったのだが、具合を悪くしたからな。どうなることかと思ったが……」
「一体、どういうことですか?」
含み笑いをしながら手紙を読み返している高田を、市原が不思議そうに眺めて問いかけると、その手紙を寄越した。
「麻乃の様子がおかしかったのには、いくつか原因がありそうだが、そのうちの一つは彼が握っていたようだ」
「俺はてっきり、例の人の気配云々が原因かと思っていましたが……」
市原はそう言い、読み終えた手紙を塚本にも回してくれた。
「あれはシタラさまに視ていただいて、なにもないと言われただろうが」
その手紙に目を通しながら憮然としてそう言うと、高田は小さくうなずいた。
「ところがな、どうも麻乃に対して、なにかが働きかけているようではあるのだよ」
「なにかが、ですか?」
思わず市原と顔を見合わせた。
「みんなを信用するな、そう言われたのだと麻乃は言っていた」
「誰がそんなことを……」
「それが、わからんらしい」
ブルッと体を震わせた市原が、真顔でつぶやく。
「なにかに憑かれている、そうお考えですか?」
「それは私にはどうにもわからん。が、しかし……先日の敵襲のことも、このところ麻乃の身の回りで起きていることも、なにかおかしいのはわかる」
「確かに俺たちにもわかります……」
「本当ならこのまま大陸へやるのは賛成しかねるのだが、どうやら落ち着きを取り戻したようだからな、向こうへ渡っても修治といるかぎりは安心だろう」
「先生、麻乃は今年の豊穣は修治とではないようですが……」
「ええ。先ほど二人の様子をうかがっていたときに耳にしたのですが、今年は彼と一緒にロマジェリカへ渡るようです」
高田は塚本と市原の顔を交互に見た。
「それは確かか!」
「ハッキリとは……ただ、豊穣があんな組み合わせになって、とか、自分のことは気に入らないだろうが、少し我慢してくれ、とか、そんなことを彼が言っていました」
腕を組んで聞いていた高田の表情はひどく険しかった。
窓にとどまっていた若草色の鳥が何度かさえずり、飛び去っていったのを、その目が追っている。
「急ぎ確認をしておいてくれ。ただし、くれぐれも自然にな。私は近所まで出かけてくるが、すぐに戻る」
高田は立ちあがると羽織を手に支度を始めた。
市原も高田の様子に不安を覚えたのか、塚本に視線を送ってくる。
高田が道場を出ていくのを見送る塚本の耳に、小さなつぶやきが聞こえた。
「どちらかが揺れたらまずいことになる……」
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