蓮華

鎌目 秋摩

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待ち受けるもの

第131話 合流 ~レイファー 2~

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「私たちにとっては重要なことだったんですよ、今後のためにね」

「重要……? まさかおまえら、便乗してくる気じゃねーだろうな?」

 サムと二人、顔を見合せると鼻で笑ってしまった。
 その笑いをどう受け止めたのか、安部と長谷川の表情がわずかにこわばる。

 こちら側がロマジェリカに加担されたら困ると思うのと同じで、泉翔側もこちらが組むのを恐れているのかもしれない。
 いくら異様な防衛力を誇るとはいえ、四国をまとめて相手にするとなると、話しは違ってくるだろう。

「なにがおかしいってんだよ? 大陸じゃ、大層な数の兵を動かしていやがったじゃねーか」

 長田が苛立ちを隠さずに怒鳴った。
 レイファーは国を出てくるときに、幹部たちに指示を出して各国の国境沿いに出兵させている。
 どうやって大陸からここへやってきたのかはわからないが、ジャセンベルを通るルートで、長田はそれを目にしたんだろう。

「……あれを見たのか? 期待に添えなくて申し訳ないが、俺たちはそんなに小さくまとまるつもりはない」

「私たちは大陸でなにを成すべきか、それを知った……そのために動くことは確かですがね」

 安部が長谷川になにかを言うと、長谷川は長田の腕を取ってこちらと距離を置いた。
 長田は段々と感情を昂らせてきている。
 また話しの途中で暴れられるのも面倒だと思ったのだろう。

「あんたたちがロマジェリカの企みに乗ろうが反ろうが、俺たちの知ったことじゃない。どう来ようが全力で防衛する」

「まぁ、そう身構えずとも……私たちの目的に、もはや泉翔侵攻はあり得ませんよ」

 サムは安部に対して柔らかな口調でそう言うと、それよりも、とつぶやいて真顔で一歩、安部に寄った。

「三国は半数以上の兵を引き連れてくるつもりでいるようです、その辺りを良く踏まえておくといい」

「半数以上……?」

「それから紅い髪の女……あれは異常です。なにしろ私の仲間の三分の一は、あの女一人に倒されてしまったのですから」

 そこまで情報を流すとは思わなかった。
 サムはどうやら安部と長谷川を気に入っているようだ。
 それとも単に、事がうまく運んだあとの繋ぎのための種蒔きだろうか?

「あんたたち……もしかして、大陸が手薄になったところを狙って、制覇する気ッスか?」

「俺たちは大陸を変える。そのためにも、きさまたちには精々ここで、やつらを足止めしてもらいたいものだ」

「てめぇ――!」

 長田がとうとうこらえ切れなくなったのか、刀に手をかけ、安部がそれを押さえた。
 レイファーもつい、また剣を握る。

「なにしろ同盟三国には紅い髪の女がいる……簡単に泉翔が落ちるようなことになれば、この島を拠点にやつらは大陸へ戻ってくるだろう」

「そうなれば、私たちの成すべきことも無駄に終わってしまう」

「そっちのヘイトの人はともかく、あんたは王族とはいえ王はまだ健在なんだろう? 変えると言って簡単に叶うものなのか? これまでのジャセンベルの動きからいっても、とても国を挙げて事を起こそうとしているようには感じられない」

 安部の問いかけに、サムがレイファーを見た。
 それについては散々考えたうえで、自分なりの答えを出した。
 今、言うべきことなのかどうか迷う。

「――大陸には、いや、正確に言うと我が国には泉翔がまだ大陸の一部だったころの伝承が残っている」

 それがなんだと言わんばかりの顔をしている安部と長谷川とは別に、長田のほうはあからさまに顔色が変わった。
 二人と違って長田はロマジェリカ人のようだ。
 大陸にまつわる伝承のいずれかを、耳にしたことがあるのかもしれない。

「その中には四つの能力を持ったものが記されている。大地をまとめあげるもの、大地の再生を図るもの、大地のすべてを燃やし尽すもの、そして、それらいずれかの意志に添うものだ」

「そのほかにも、大陸には各国において、著しく能力の長けたものの伝承がいくつも残っているんです。あなたたちも、そういった血筋を目の当たりにしていますよね?」

 サムの問いかけに三人はただ黙ったままだ。

「意志に添うもの、それは紅き華と呼ばれている。容姿は深く燃えるような紅い髪……それこそが、この国のあの女だ」

「私たちは庸儀の女とこの国の女を同時に見た。どちらが本物なのか悩むまでもなくわかりましたよ」

「添うものが出た以上、ほかの三つのいずれか……あるいはすべてが既に存在しているだろう。そして、その中のどれに添うかによっては、すべてが終わる」

 風のせいで波音が激しくなってきた。
 両手を広げたサムが、真っ黒な空を見あげている。
 ポツポツと足もとの砂が濡れ、砂浜が濃い灰色へ変わっていった。
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