訳有り少年と少女の珍道中

そらのあお

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第一章

始まりと旅立ち

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ここファマメルンは人族、獣人族、エルフ族、ドワーフ族など様々な種族が住む世界。遥か昔、彼等は自分達こそが最も優れた種族だと主張し、長い間争いが続いていた。しかし、その争いは『彼の者』が現れたことにより終息することになった。

人は『彼の者』を『正義』だと言った。
人は『彼の者』を『悪』だと言った。
人は『彼の者』を『希望』だと言った。
人は『彼の者』を『絶望』だと言った。
『彼の者』は人々に敬われ恐れられ、やがて永い眠りについた。

それから数百年後、人の寄り付かない険しい山を駆ける者達がいた。先を走るのはフードを被る女とその腕に抱かれた赤子。それを武器を持った男達が追いかけている。

(速く!もっと速く!捕まる訳にはいかない!この子だけはっ……この子だけは守ってみせる!)

「追い込め!奴等を逃がすな!」
「おのれ【禍人】ども、逃がすな殺せ!」

(追い付かれるっ……どうすれば良いの!)

「いたぞ!」
「捕まえろ!」
「どうすっ!?キャー!」

男達が女を視界に捕らえたとき突如、女の姿が消えた。

「とこ行きやがった!」
「止まれ!崖だ!」
「うおっ!……どうやら落ちたみたいだな」
「この高さから落ちれば、いくら【禍人】でも助かるまい。行くぞ」

男達は女が落ちたであろう、底の見えない崖下を見ると山を立ち去った。一方、崖に落ちた女は衝撃で気を失っていたが、数分後に目覚めた。

「……ここは……っ!?ヴィヴィ」
「あ~……あぅ」
「はぁ~良かった……とは言えないな」

女は辺りを見回し、最後に自分の腹部を見ると、そこには大きな石が深々と刺さり、大量の血が流れていた。

「さすがにっ……これは助からないわね。ごめんっ……ごめんねヴィヴィ!貴女を守れなくてっ……ごめんね!」
「あぅ~……」

女は赤子を抱き締め涙を流した。その時、女の目に不思議な光景が見えた。自分の流した血が、何処かへ流れて行っていたのだ。その流れは徐々に速くなっていく。

「何?何なの……いったい何が……」
《ーーだ》
「え?だ、誰!?」
《貴様こそ誰だ。何故、俺を呼び起こした?》
「呼び……起こす?」

女は残った力を振り絞り体を起こすと、声の聞こえた方を睨み付けた。すると足音が響き、1人の男が姿を表す。黒く長い髪に赤い瞳の少年だった。

「こ、子供?わたし達と同じ……赤い瞳。嘘…まさか、あれは伝説で……でも、この場所は……」
《何をブツブツ言っている。さぁ、俺を呼び起こした理由を言え》
(理由なんて無いわよ!でも、わたしはもう助からない。この子だけでも………ん?もしかしたら!)
《お~い》
「ちょっと待って!」
《いや……あの……》
「決まったわ!」
《決まったって……まぁ良い。理由は何だ》
「貴方を呼び起こした理由は、ーーー」
《良かろう。貴様のその願い、聞き届けよう》
「貴様じゃないわ!わたしはアンバー、アンバー・レーヴェンよ!」
《レーヴェン……偶然…いや、必然か…運命か。俺の名はーー》

人は『彼の者』を『正義』だと言った。
人は『彼の者』を『悪』だと言った。
人は『彼の者』を『希望』だと言った。
人は『彼の者』を『絶望』だと言った。
『彼の者』は人々に敬われ恐れられ、やがて永い眠りについた。そして今、『彼の者』は目覚めた。『彼の者』の名はーー

《俺の名は、オズウェル・ロード・レーヴェン》

それから七年後、青く澄みわたる空に輝く太陽を、黒髪に赤い瞳の幼さの残る少年が仁王立ちで見上げていた。その隣には少年の膝より少し高い身長で白髪に赤い瞳の幼女が、少年のズボンを掴みボ~と正面を見ている。

「さぁ、旅の始まりだ!行くぞヴィヴィ」
「………………」
「心配すんなって!俺達・・がいるだろ?」
「………………」
「心配性だな~。ほら行くぞ!」

少年は幼女を肩車すると濃い霧で下が何も見えない崖から・・・飛び降りた。急なことに驚いたのか、幼女が少年の髪を掴む。

「あっこら 、髪引っ張んなっ……叩くなよ!地味に痛い!」
「……………」
「何だ~?もしかして怖いっ!止めろ剥げる!」
「…………」

少年と幼女は攻防を続けながら落下して行った。

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