眠りし魔女は未来に生きる

甲斐 結城

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体感数日ぶりのご飯

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「いやー、美味しかった。ご馳走さま。竜の肉は本当に美味しいよ。うっ、と危ない。危うく口から空気が漏れるところだった」

 地底湖の部屋の内の半分以下しかない陸地の殆どが水竜だったものであふれており、中央では水竜の肉を綺麗に洗った水竜の鱗を皿代わりとして食していた。その身体からは考えられないほどの量を食べたリオンだったがそれでも限度はあり、満腹感を満喫している目の前には山のように大量の肉が積まれていた。

「残りの肉と残骸はどうしようか?実験に使えそうな面白そうなものはあまりなかったしなぁ」

 大量の水竜だったものをみてリオンはそうごちる。

 そのまま思考し始めたリオンは、全く汚れていなかった。食べた後に魔法で全身を清潔にしたので、血や埃、はては水飛沫すらかかった跡は残っていなかった。

 そして数分間の長考の末リオンはおもむろに立ち上がり、魔法を発動させる。

「やっぱり持っていくのは面倒だからここに保存しておくのが一番かな」

 発動された魔法は昨日まで自身にかかっていた封印の魔法。それを地底湖の空間全てにかけあらゆる存在の介入を阻み、自身の場合とは違い水竜だったものすべての時を止めて劣化を防ぐ。

 安定した食を得られない育ちを経たリオンにとって、空腹だったとはいえとても美味しいと感じたこれらの肉への対応は、傍目から見て例え竜の素材といえど過剰であるといえるほどに厳重に封印してようやく安心できるようになる。リオンにとって水竜の素材の価値はとても美味しい肉という一点のみだった。

 そしてこの規模での封印はリオンであっても大変だったのか、封印に込めたもう一つの魔法、転移を使って中の肉のうち手軽に食べられるように骨に刺して調理した串のようなものを取り出してそれを頬張る。

「あー、美味しい。これで飢えには当分困らないね。残骸はリディアードへのお土産にでもしよっか」

 骨にさしていた肉をすべて食べた後彼女は首にかかっているペンダントを服の中から取り出して先についている飾りの、リオンの瞳のような色の宝石に魔力を送り込む。すると宝石は至近距離のリオンの身体のみをほのかに紅くてらし、中の魔法陣が起動する。

 そしてリオンは目の前に現れた弾性のある液状物質、スライムを抱きかかえる。

「やぁ、ソーちゃん。久しぶり。相変わらずぷにぷにして柔らかくて真っ黒で可愛いねぇ」

 リオンはその真っ白なローブ越しにわかるほどの大きな胸に真っ黒なスライムを、互いを潰し合わせるほど強く、しかしとても愛しそうに抱きしめていた。

「今までひとりぼっちにさせてごめんね。でも大丈夫。私はもう目覚めたからね、これからは一緒に新しいものを沢山見て回ろうね」

 撫でて揉んで癒された後、リオンは先ほどの食事の残りの骨をスライムに突き刺しながら話す。

「ソーちゃん、この骨あげるからまたすこし身体くれないかな?前回の半分ぐらいでいいからさ。せっかくソーちゃんで作ったローブが真っ白になっちゃったんだよね。封印の結晶に魔力でも吸われたのかな」

 無遠慮に突き刺された水竜の骨を消化したスライムは自身の体の一部を切り離してリオン骨を持っていた方の手にのせる。

「ありがとう、ソーちゃん。それじゃああわせますか」

 リオンは手に持つ真っ黒な球体に軽く魔法をかけて服に触れさせる。すると球体は触れた点を起点として真っ白なローブを黒く侵食していく。ローブが完全に塗り潰されるまでに一分もかからなかった。

「やっぱり黒が落ち着くよ。ソーちゃんともお揃いだしね!」

 それからくるくるとまわりながら服を確認した後スライムに向かって話しかける。

「じゃあソーちゃん。またいつも通りお願いね。道に迷っちゃった」
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