たんぽぽ学園は、今日も平和(じゃない)です。

kuro.

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2年生編

第26話「春の保健室は花ざかり。」

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「聞け、聞くのだ、花咲ゆい!」

 朝の教室。

 小鳥のさえずりが聞こえる穏やかな時間を、いきなりその男がぶち壊した。

「ふぇっ!? な、なに? レイくん、また始まったの?」

「またとは失礼な! これは緊急案件だ。我が魂が震えている!」

 レイは机を叩いて立ち上がり、ぐいっと身を乗り出す。

「我が名は鏡音レイ!選ばれし中二の覇者、運命の歯車を回す者……!」

「また始まった……」と、つかさがため息混じりに教科書を閉じた。

「聞け、ゆい!この学園には“第二の世界の鍵”が存在するのだ!」

「ふぇっ!? また鍵!?じゃあ、わたしって第一号だったの?」

「うむ。我が千里眼が見抜いた通り、きみの持つ“天然の混沌”こそが、世界を揺るがす力の源なのだ!」

「ほめられてる……のかな?」

 レイはおもむろにポケットから、謎の結晶がぶら下がった自作の振り子を取り出した。

「思い出すのだ。始業式の日……体育館の壇上に立ったひとりの少女。あの威厳、あの眼差し……間違いない、彼女こそ鍵候補第二号!!」

「壇上?ああ、生徒会長のこと?」

「そう!名は──高円寺ももか!この学園の秩序を守る者にして、裏の運命を握る者ッ!!」

 ゆいは振り子の動きをぼんやり見ながら「ももかちゃん……あんまり話したことないけど」とぽつり。

「世界はすでに動き出している……!そして今日!ついにその鍵と邂逅する予兆が……!」

 そのとき、校内放送が鳴り響いた。

『本日、校内の安全確認のため、生徒会が巡回を行います。該当エリアへの立ち入りはご遠慮ください。』

 レイの目がギラリと光る。

「来たな、世界の鍵!!」

「うわ、ほんとに何か起こる気がしてきた……」

 その日の昼休み──

 保健室の前には、いつになく騒がしい人だかりができていた。

「ねえ、なんか……騒がしくない?」

「……またレイ、何かやった?」

「可能性は……高い」

 ゆい、つかさ、りんの三人は顔を見合わせ、そっと保健室を覗く。

 ──そこには、天井まで伸びるツルと、咲き誇る大輪の花たち。

「これ……保健室の観葉植物だったよね……?」

「えっ!?あれってそんなに育つやつだったっけ!?」

「ふふ……ふふふふふ……」

 廊下の向こうから、不気味な笑い声が響く。

 現れたのは、例の中二病転校生・鏡音レイだった。

「成功した……ついに、“光合成ブースター”が……っ!」

「レイくん!また変なもの作ったの!?保健室がお花畑どころかジャングルになってるよっ!?」

「ふっ、これはほんの序章に過ぎない。次はもっと……」

 ──バンッ!

 そこへ、足音と共に現れたのは、スカーフをきっちり締めた凛とした少女。

「ここで何をしているのっ!」

 その声に、場がピタリと静まり返る。

「ももかちゃん!?」

 たんぽぽの丘学園の風紀の守護者、生徒会長・高円寺ももかの登場である。

 スリッパの音を響かせながら保健室に踏み込んだももかは、あたりを見回し、目を細める。

「この非常事態……見逃すわけにはいかないわ!」

「フフフ……あれは、我が手により生み出された“緑の精霊解放装置(グリーン・リヴァイアサー)”。自然との共鳴を促し、生命の鼓動を高める──はずだったが……!未完成のまま起動した結果、理の枷が外れ、暴走状態に入ったようだ……」

「要するに、調整ミスったんでしょ!」

 つかさが冷静にツッコむ。

「このままだと保健室が……緑に飲まれちゃうよ~っ!」

「いい加減にしなさいっ!」

 ももかが鋭く叫ぶ。

「これは……一人では対処しきれないかも……」

 その呟きに、つかさがそっと声をかける。

「手伝うよ。ちゃんと後始末するから」

「うんっ。みんなで、なんとかしよっ!」

 一瞬驚いたように目を見開いたももかだったが、すぐに小さくうなずいた。

「……わかったわ。協力して、この異常事態を収束させるわよ!」

「ってことは、これって共闘っ!?」

 ゆいがきらきらした目でぐいっと近寄る。

「ち、近寄らないでっ!」

「こ、怖くないよ……?」

「な、何よその無防備な距離感っ!私はまだあなたたちのこと、全然信用してないんだからねっ!」

「えぇー、でも一緒に頑張るんでしょ?」

「だ、だからって……簡単に懐かないでって言ってるでしょっ!」

 つかさとりんは顔を見合わせて、くすっと笑った。

 保健室の植物は依然として暴れ、ツルが天井を這い、室温はじっとりと上昇していく。

「酸素濃度……高すぎじゃない?」

 つかさが額の汗をぬぐう。

「筋肉が湿気でぷるぷるになるーっ!」

 りんがツルをちぎりながら騒ぐ。

 そんな中、レイがマントをひるがえして立ち上がった。

「この混沌は、我が未熟さが生んだ災厄……だが今、調律の儀をもって封印する!」

 彼はポケットから自作のコントローラーを取り出し、呪文のような言葉を唱えながら操作を始める。

「……ホントに大丈夫?」

 ゆいが心配そうにのぞきこむ。

「信じよ。自然との対話を──!」

 ピピっ──!

 光が広がり、暴れていたツルがぴたりと静止。

 花々も、ぱたぱたと花びらを閉じていく。

「……止まった!?」

「やった……やったぞ!!世界は救われたぁあああ!!」

「「「「できるなら最初からやれよ!!」」」」

 全員のツッコミが保健室に響いた。

「フフ……だがそれでは“イベント感”が足りないではないか」

「いらんわ、そんな演出!!」

 つかさが容赦なくツッコむ。

「とりあえず収まってよかったけど……あなたには後で“反省文”を書いてもらうから。二千字。手書きで」

「なっ……!? 手書きぃ!?」

「魔導書っぽくて似合うと思うけど?」

 つかさがニヤリ。

「ぐぬぬぬ……まさか、闇の制裁がこんな形で……!」

 レイがぐったりと項垂れる横で、ももかはゆいたちに目を向ける。

「あなたたちも……巻き込まれたにせよ、ちゃんと対応したのは事実。少し見直したわ」

「えっ、それって褒められた!?」

 ゆいがぴょこんと跳ねる。

「べ、別に褒めたつもりは──」

 ももかが口ごもった瞬間、りんがにっこり笑って肩をポンッ。

「素直でよろしい! ツンデレ認定~♪」

「だ、だからツンデレじゃないって言ってるでしょぉおおっ!!」

 バタバタとスリッパを鳴らして、ももかは顔を真っ赤にして去っていった。

「うーん、やっぱり……ツンデレだね」

「だね」

「完全にね♪」

 植物の後始末はまだ残るけれど──

 心なしか、保健室の空気はほんのり和らいでいた。

 こうして、たんぽぽの丘学園の春は、今日もやっぱり波乱万丈だったのだった。
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