たんぽぽ学園は、今日も平和(じゃない)です。

kuro.

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2年生編

第28話「春風と先輩。」

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 ──プリントを拾ってくれた、春風みたいな“先輩”。

 その笑顔がまだ頭に残っている中、ゆいはそっと紙を受け取った。

「あ……ありがとうございますっ!本当に助かりました……!」

 ぺこっと深く頭を下げるゆい。

 後ろから駆け寄ってきたつかさとりんも、そろってお辞儀をする。

「いやー、めっちゃ走ったー……まさかプリントがあんなに逃げるとは思わなかったよ~」

「私たち、3人でけっこう頑張ったよね」

 ちょっと息を切らしながら、つかさが笑う。

 それを見て、先輩がやわらかく微笑んだ。

「ふふ、にぎやかね。紙ひとつで、こんな大騒ぎになるなんて」

 その声に、3人の視線がぴたりとそろう。

 初対面なのに、なぜかほっとするような、不思議な空気。

 ──セミロングの髪に、リボンの形が特徴的なブレザー。

 制服のデザインが、私たちとはほんの少しだけ違っていた。

(あ……三年生の制服だ……)

ゆいの心の中に、ひとつの疑問が浮かぶ。

「あの……さっき、どうしてプリントの動きが読めたんですか?」

 ゆいが首をかしげて尋ねると、先輩は「うーん」と口元に指をあてて、ちょっとだけ考え込む。

「どうしてかなぁ~……なんとなく、“風がこっちだよ~”って、いたずらっぽく教えてくれた気がして~」

「風が……しゃべるの……?」

 つかさの眉がほんの少しだけ上がり、りんも「それ、どんなスキル!?」と真顔でツッコむ。

「えへへ~、しゃべってるわけじゃないけど~。風って、ふいっといたずらしてきたり、急に止まったりするでしょう? だから、気まぐれさんだな~って、いつも思ってて~」

 先輩はそう言って、廊下の窓の外に視線を向ける。

 そこには、春の陽気に誘われるように、やさしい風が枝を揺らしていた。

「風を読めるって、なんか……かっこいい……」

 りんがぽそっとつぶやく。

「わたしなんか、風に遊ばれて終わっただけだったのにー……」

「いや、あれはもう“遊ばれてる”っていうより“巻き込まれてた”だったよね」

 つかさの冷静なツッコミに、ゆいとりんが同時に「うぅっ」と肩を落とした。

 そんな3人を見て、先輩はくすくすと笑う。

「ふふっ、仲良しさんたちだね~」

「えへへっ、今日は一緒に掃除してたんですー!」

「いや、そこは“友達”って言おうよ……」

「でも、今日の掃除、ちょっとした冒険だったよねっ」

 胸を張るゆいに、つかさは半分あきれたようにため息をつく。

 でも、その顔にはどこかやさしさがにじんでいた。

「冒険かぁ~。いいね~、青春だね~。わたし、そういうの好きだよ~」

 ぽやっと微笑みながらそう言って、先輩はふと思い出したように「そうそう」と声を上げた。

「そういえば、まだ名乗ってなかったよね~。わたし、三年生の朝比奈ひよりっていいます~」

「朝比奈先輩……!」

 3人の声が重なり、先輩──朝比奈ひよりは「えへへ~」と照れくさそうに笑う。

「じゃあ、またどこかで会えるといいね~。プリント、ちゃんと届けてあげてね~」

 そう言って、朝比奈ひより先輩は手をふりながら、廊下の向こうへと歩いていった。

 その背中を、やさしい春風がふわりと追いかけていく。

「……なんか、すごい人だったね……」

 りんがぽつりとつぶやく。

「うん。風みたいな人だった……」

 ゆいの声に、つかさもそっと頷いた。

 朝比奈ひより先輩の姿が昇降口の奥へ消えていくのを、3人はしばらく見送っていた。

「……ねえ、あの先輩……なんか、すごく不思議な感じじゃなかった?」

 ゆいがぽつりとつぶやくと、

「うん。ふわふわしてるのに、なんだろ……ちゃんと全部、見透かされてるような気がした」

 つかさがめずらしく感情を込めてうなずいた。

 ──と、そのとき。

「ゆい、そのプリント……」

 つかさの視線の先に、ゆいの手の中の紙があった。

「あっ、わっ……すっかり忘れてたっ!これ、掲示板から飛んできたやつだよね!」

「……いったん、生徒会に届けようか」

 つかさが冷静にそう言って、ゆいとりんがうなずく。

「うん。あたしたちが拾ったってこと、ちゃんと伝えなきゃだよねっ」

「それに、あの先輩……“朝比奈先輩”が、ああやって助けてくれたってことも」

 りんの言葉に、つかさがふと立ち止まる。

「朝比奈先輩、か……」

「うん。名前、聞けてよかったよね。あの時、ゆいが声かけてくれてさ」

「へへ……気になっちゃって」

 ゆいが少し照れくさそうに笑うと、風がまたそよいで、ゆいの髪をふわりと揺らした。

 ゆいは紙を大切そうに持ち直す。

 3人はしばらく無言で歩きながら、さっきの出来事を反芻する。

 完璧なキャッチ、春みたいな笑顔、ふわりとした空気。

「……でもさ、あの人、ただの“ふわふわ系”じゃないよね」

 ふいに、りんがつぶやく。

「観察力とか……なんか、全部見透かされてた気がした」

「わかる。ぼーっとしてるようで、芯がありそうな感じ……というか、“読まれてる”感あった」

 つかさも同意しながら、少しだけ眉を寄せる。

「それってつまり……ただ者じゃない、ってことかもね」

「いや、別にバトルじゃないからね!?」

 ゆいが慌ててツッコミを入れると、3人は小さく笑い合う。

「でも、また会えるかな……朝比奈先輩に」

 ゆいがぽつりと呟くと、りんがにこっと笑った。

「絶対会えるよ。だって、なんか“また会おうね”って風が言ってた気がするもん」

「風、万能すぎない?」

 つかさが呆れたように笑って、3人はそのまま昇降口へ向かって歩いていく。

 ──春風が、彼女たちの背を、やさしく押していた。
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