7 / 14
其の五:悪鬼、夜会で動く!?
しおりを挟む
※ウィル視点(?)
ウィルは大の苦手な夜会にいる。シモンズ辺境伯の次男坊で男爵位を譲り受けたウィルには参加する資格はある。あるが───
「ギリアムの従者として王宮来るんじゃ駄目なのかよ」
「従者は大広間に来れない。頭を使え、脳筋め」
「……時間外の手当てを払え」
ふん、と鼻で笑われた。
「おっ、姫様だ」
上半身は細めにスカートをふんわりとさせたドレスの色は錦糸と銀糸で織られた布地に青紫の薔薇が刺繍されている。装飾品は「群青の空の色」と呼ばれるラピスラズリ。
(すげぇ独占欲? いや、威嚇?)
どこからどうみても、マリオン公爵嫡男の色に塗れている。すべてがエレノア王女を満足げに眺めるギリアムが送ったものだ。
「ご挨拶に行くとしよう」
ふわふわの巻き毛をふんわりと結った王女は、まさしく妖精姫。
「あら、ウィル、ご機嫌よう!」
可憐な笑顔に眉が寄ってしまった。俺に先に声をかけないでね? 隣の男が物騒な殺気発してるからね?
「………何やってるんですか、王女様……」
そんなことを考えながら、つい訊いてしまった。
「隠してますの!」
うん。わかる。でも、あんた何処に隠してます? 胸の谷間に隠すなよ、ガサゴソするな! やばい、淑女でしょうが!
「──ウィル、反転して壁になれ」
冷気漂う言葉に、慌てて王女様が死角になる位置にずれる。視界の端に、さりげなく王女様の胸元に手を伸ばすギリアムが入った。
「紳士物の……カフスですか。………私がお預かりいたしましょう、ね」
ね、に悪寒が走る。
「助かりますわ、ギリアム様!」
「エレノア王女様、ドレスはお気に召していただけましたか」
「ええ。ギリアム様と同じ色でとても素敵ですわ。ジェラルド様もそのようにおっしゃってましたわ」
「……ははは、うん、完全にギル色だね……こわいぐらい」
気がつけば同じようにエレノア王女を隠すように、間近に微妙に引き攣った笑顔で王太子殿下がいた。
「……それで、これは?」
「先ほど拾いましたの。慌ててらしたようで呼び止める間もなく行かれてしまいましたの。場所が場所でしたから誤解されてはかわいそうですから、わたくしが拾って差しあげたの。でも時間がなくてここに隠してましたのよ」
つまり、落とし物のカフスを胸の間にしまいこんだが違和感でガサゴソと胸元をいじっていた……と。
遠い目になるウィルの背後で、ギリアムがさらに殺気。きっと「私のエレノアの胸に触れるとは」などと悋気で満ちているのだろう。
「貴女様の肌に守られる男が憎いですねぇ──」
心底憎悪してるんだろうな……と憐れな持ち主に同情しつつ、耳を澄ます。場所が場所と、確か王女は云ったからだ。
「しかし、場所とは?」
「マリオン公爵様の休憩室ですわ」
「「「────!?」」」
夜会のために割り当てられた休憩室の、高位貴族、しかもマリオン公爵家用の部屋から慌てて逃げ去ったとは聞き捨てならない。
「ジェラルド王太子殿下、持ち主を探して返して差しあげたいのですが、よろしいでしょうか?」
心なしか声を弾ませ、取っ捕まえて洗いざらい吐かせたいんだが──と言外に云うギリアムに、
「エリーは任せてくれ。丁重に返してあげるといいよ、持ち主見つけてあげてね」
犯人見つけて企んでることを聞き出しておいで──と王太子も実に貴族的に応じる。
人目があるが故の紳士的会話だが、ようは「ぶっ潰す」ことの宣言と許可だ。
……俺、今日は非番なのに。
厄介ごとの匂いにがっくり来つつも、ありあまる体力を使える機会に、すっかり機嫌よくなるのだった。
ウィルは大の苦手な夜会にいる。シモンズ辺境伯の次男坊で男爵位を譲り受けたウィルには参加する資格はある。あるが───
「ギリアムの従者として王宮来るんじゃ駄目なのかよ」
「従者は大広間に来れない。頭を使え、脳筋め」
「……時間外の手当てを払え」
ふん、と鼻で笑われた。
「おっ、姫様だ」
上半身は細めにスカートをふんわりとさせたドレスの色は錦糸と銀糸で織られた布地に青紫の薔薇が刺繍されている。装飾品は「群青の空の色」と呼ばれるラピスラズリ。
(すげぇ独占欲? いや、威嚇?)
どこからどうみても、マリオン公爵嫡男の色に塗れている。すべてがエレノア王女を満足げに眺めるギリアムが送ったものだ。
「ご挨拶に行くとしよう」
ふわふわの巻き毛をふんわりと結った王女は、まさしく妖精姫。
「あら、ウィル、ご機嫌よう!」
可憐な笑顔に眉が寄ってしまった。俺に先に声をかけないでね? 隣の男が物騒な殺気発してるからね?
「………何やってるんですか、王女様……」
そんなことを考えながら、つい訊いてしまった。
「隠してますの!」
うん。わかる。でも、あんた何処に隠してます? 胸の谷間に隠すなよ、ガサゴソするな! やばい、淑女でしょうが!
「──ウィル、反転して壁になれ」
冷気漂う言葉に、慌てて王女様が死角になる位置にずれる。視界の端に、さりげなく王女様の胸元に手を伸ばすギリアムが入った。
「紳士物の……カフスですか。………私がお預かりいたしましょう、ね」
ね、に悪寒が走る。
「助かりますわ、ギリアム様!」
「エレノア王女様、ドレスはお気に召していただけましたか」
「ええ。ギリアム様と同じ色でとても素敵ですわ。ジェラルド様もそのようにおっしゃってましたわ」
「……ははは、うん、完全にギル色だね……こわいぐらい」
気がつけば同じようにエレノア王女を隠すように、間近に微妙に引き攣った笑顔で王太子殿下がいた。
「……それで、これは?」
「先ほど拾いましたの。慌ててらしたようで呼び止める間もなく行かれてしまいましたの。場所が場所でしたから誤解されてはかわいそうですから、わたくしが拾って差しあげたの。でも時間がなくてここに隠してましたのよ」
つまり、落とし物のカフスを胸の間にしまいこんだが違和感でガサゴソと胸元をいじっていた……と。
遠い目になるウィルの背後で、ギリアムがさらに殺気。きっと「私のエレノアの胸に触れるとは」などと悋気で満ちているのだろう。
「貴女様の肌に守られる男が憎いですねぇ──」
心底憎悪してるんだろうな……と憐れな持ち主に同情しつつ、耳を澄ます。場所が場所と、確か王女は云ったからだ。
「しかし、場所とは?」
「マリオン公爵様の休憩室ですわ」
「「「────!?」」」
夜会のために割り当てられた休憩室の、高位貴族、しかもマリオン公爵家用の部屋から慌てて逃げ去ったとは聞き捨てならない。
「ジェラルド王太子殿下、持ち主を探して返して差しあげたいのですが、よろしいでしょうか?」
心なしか声を弾ませ、取っ捕まえて洗いざらい吐かせたいんだが──と言外に云うギリアムに、
「エリーは任せてくれ。丁重に返してあげるといいよ、持ち主見つけてあげてね」
犯人見つけて企んでることを聞き出しておいで──と王太子も実に貴族的に応じる。
人目があるが故の紳士的会話だが、ようは「ぶっ潰す」ことの宣言と許可だ。
……俺、今日は非番なのに。
厄介ごとの匂いにがっくり来つつも、ありあまる体力を使える機会に、すっかり機嫌よくなるのだった。
6
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
すべてはあなたの為だった~狂愛~
矢野りと
恋愛
膨大な魔力を有する魔術師アレクサンダーは政略結婚で娶った妻をいつしか愛するようになっていた。だが三年経っても子に恵まれない夫妻に周りは離縁するようにと圧力を掛けてくる。
愛しているのは君だけ…。
大切なのも君だけ…。
『何があってもどんなことをしても君だけは離さない』
※設定はゆるいです。
※お話が合わないときは、そっと閉じてくださいませ。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
誰でもイイけど、お前は無いわw
猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。
同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。
見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、
「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」
と言われてしまう。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる