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悪鬼の迷惑な愛情(その後の日々)
その一 悪鬼の愛息子
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※急にギリアムが書きたくなりました。不定期ですがたまに更新します。
マリオン公爵ギリアムに息子が誕生した。
赤児の名はエリオット。
前マリオン公爵夫妻が苦笑いするほど、どこからどう見ても、逆さにしても斜めにしても──生き写しなまでにギリアムの遺伝子しか見つけられない赤ん坊だ。
王都のマリオン公爵邸家臣への初お目見えで領地から連れて来られた生後半年のエリオットを目にし、
「……うわぁ」
わざわざ王宮を抜け出して来た王太子ジェラルドは、父親譲りの青銀の髪、父親譲りの青紫色の瞳、父親譲りの迫力を持った美々しい赤ん坊を見下ろして絶句していた。
「……ねぇ、赤ん坊ってもっと純粋無垢だよね? ……なんでエリオットから腹黒さが漂ってるんだろうか?」
目力というのか。
ジェラルドに向けられる視線に、初めて相まみえる人間への敵愾心を感じてしまうジェラルドがおかしい。
……おかしいのだが。
「……ねぇ、この子、私のことを獲物と認識してる? なんか、殺気?」
もう一度言う。
赤ん坊は腹黒さは纏わないし、殺気も放たない。ジェラルドはおかしい。
……おかしいのだ。
「王太子殿下……これは悪鬼の息子です。普通の赤ん坊と同じにしてはなりません」
ギリアムの側近に選ばれてしまった不幸なウィル・シモンズは、自身とまったく同じ反応を示す王太子へ深い同情と共感を覚える。
「……そうだよね。普通は赤ん坊の寝台に玩具代わりに刃を潰した剣とか、盾とか、弓とか……無いよね」
「何を与えても喜ばず、洒落で武器を置いて見たそうです。あの悪鬼が」
「あはは…剣を洒落で?」
「非常に喜んだらしくって、怪我をしないように細工して与える次第です」
「──あはは」
王太子とギリアムの部下。身分も立場も異なる男たちは、キラキラと瞳を輝かせ執拗に彼らを凝視するエリオットに空恐ろしさを覚え、それはそれは深く重いため息をついた。
ギリアムは息子を見下ろし、考えこむ。どうやら最愛のエレノアが生んだ愛息子は、玩具の趣味まで受け継いだようだ。
何から何まで似ていると両親から言われるほどよく似た息子。
まだ生後半年の赤ん坊ではあっても、容赦するつもりはギリアムにはない。似ているならば、いずれ母エレノアに執着するかもしれない。たとえ息子でも、エレノアを共有することは我慢ならない。
「──エレノアは渡さないと覚えておくように」
それ以外ならマリオンなりの楽しみをたくさん与えてやろう──囁けば、
「あううっ」
エリオットはとても嬉しそうに笑う。
「良い子だ」
それは、後に悪鬼と恐れられる親子の間に、確かな絆が生じた瞬間であった。
マリオン公爵ギリアムに息子が誕生した。
赤児の名はエリオット。
前マリオン公爵夫妻が苦笑いするほど、どこからどう見ても、逆さにしても斜めにしても──生き写しなまでにギリアムの遺伝子しか見つけられない赤ん坊だ。
王都のマリオン公爵邸家臣への初お目見えで領地から連れて来られた生後半年のエリオットを目にし、
「……うわぁ」
わざわざ王宮を抜け出して来た王太子ジェラルドは、父親譲りの青銀の髪、父親譲りの青紫色の瞳、父親譲りの迫力を持った美々しい赤ん坊を見下ろして絶句していた。
「……ねぇ、赤ん坊ってもっと純粋無垢だよね? ……なんでエリオットから腹黒さが漂ってるんだろうか?」
目力というのか。
ジェラルドに向けられる視線に、初めて相まみえる人間への敵愾心を感じてしまうジェラルドがおかしい。
……おかしいのだが。
「……ねぇ、この子、私のことを獲物と認識してる? なんか、殺気?」
もう一度言う。
赤ん坊は腹黒さは纏わないし、殺気も放たない。ジェラルドはおかしい。
……おかしいのだ。
「王太子殿下……これは悪鬼の息子です。普通の赤ん坊と同じにしてはなりません」
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「……そうだよね。普通は赤ん坊の寝台に玩具代わりに刃を潰した剣とか、盾とか、弓とか……無いよね」
「何を与えても喜ばず、洒落で武器を置いて見たそうです。あの悪鬼が」
「あはは…剣を洒落で?」
「非常に喜んだらしくって、怪我をしないように細工して与える次第です」
「──あはは」
王太子とギリアムの部下。身分も立場も異なる男たちは、キラキラと瞳を輝かせ執拗に彼らを凝視するエリオットに空恐ろしさを覚え、それはそれは深く重いため息をついた。
ギリアムは息子を見下ろし、考えこむ。どうやら最愛のエレノアが生んだ愛息子は、玩具の趣味まで受け継いだようだ。
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「──エレノアは渡さないと覚えておくように」
それ以外ならマリオンなりの楽しみをたくさん与えてやろう──囁けば、
「あううっ」
エリオットはとても嬉しそうに笑う。
「良い子だ」
それは、後に悪鬼と恐れられる親子の間に、確かな絆が生じた瞬間であった。
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みながみはるか様。
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男⇨ギリアムクローン(恐るべし悪の遺伝子。最愛に出逢うと更にミューテーションします😭)
女⇨エレノアとギリアムのまともな部分
猫丸が思いつくといつも妙な話になるのは何故でしょう……
みながみはるか様、今夜はどうぞギリアム異常増殖の悪夢をご覧ください😀
エレノアさまって、本能&天然お姫様だから、腹黒なギリアムからしたら、暖簾に腕通し的な生き物なのかもしれなーいw( ̄▽ ̄;)
ギリアムからなの執着的で激重な愛でも、エレノアなら軽々持ち上げちゃいそうですね……(;゜∀゜)
いや、重いって気が付かないかもσ( ̄∇ ̄;)
みながみはるかさま。
ありがとうございます!
エレノアはギリアムの笑い袋です。
腹筋をひくつかせてくれる唯一です。
マリオン公爵家で最強となるのです!
両作品読んでます。両方面白いですが、こちらの方が個人的には好きです。母としてのエレノアも強烈な感じでしたが、若い頃も可愛く強烈そうですね(^^)
更新楽しみにしています。
たまきさま、ありがとうございます。マリオン公爵愛故に同時進行して書き始めてしまいました本作。ちまちまと続けますのでよろしくお願いします♪エレノアさんのギリアムを落とす魅力を書けるように頑張ります!