ヤマアラシのジレンマ

宇流

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「あの時、俺がヒートを起こしてお前を抱いて
頸を噛んだと理解した時俺は怖いと思ったんだ。
でも心のどこかではお前と番になれた喜びもあった」
「…」
「それでも俺はお前を思う気持ちよりも恐怖心の方が勝った。
お前と番契約を解除した時もういっそ嫌われてしまいたい。そう思う様になった。
だからお前からの再三の電話も無視したし
学校ですれ違っても知らぬふりや悪態をついたをついた」
「…」
「俺はお前に嫌われる事で俺を保とうとしたんだ。」
「…嫌われたいなら最後までそれを貫いて下さいよ。
いつもそう大和さんは中途半端に俺を甘やかす。
今だって嫌われたいと言いながら何故俺にそんなすがる様な顔をするんですか。
鬼になりたいなら鬼になりきってください。
じゃないと俺はいつまでもあなたから抜け出せない」
「自分でも自分が卑怯だと思う。
俺を嫌いになれなんて言って離れようとしても
結局俺もまだお前が好きで嫌われたくないと思っている」
「苦しい」
「え?」
「俺は大和さんを思うといつも苦しくなる
あの日ヒートを起こした大和さんが自我を
失っているのにはすぐに気づきました。
それでもΩの俺ではαの大和さんに争うことは出来ず
そのまま番になった。噛まれた瞬間俺は嬉しかった
これで大和さんともっと一緒に居れる。そう思っていた。だから目が覚めた時横に居るはずの大和さんが居なくて俺は辛かったし恨んでやるって思いました。
でもその後番を解除させられた時に会った
大和さんの顔を見て俺は恨むに恨めなかった。」
「…」
「子供だったんです。俺達は」
「…」
「俺達は互いを好きだと言いながら
本当は自分が1番大事で臆病だったんです」
その言葉を聞いて大和さんはまた頭を抱えて泣いてしまった。
初めて見る大和さんの涙
あの時、両親を連れての話し合いの時
大和さんは目を真っ赤に腫らし
ただ抜け殻の様にずっと下を向いていた。
俺の言いたい事を溜めていた口は
その状況を見て全て飲み込んでしまった。
きっとこの人もこの先俺と同じ様に
苦しむのだと一瞬で分かってしまったから。
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