カオスサーガ〜残されし者達の誓い〜

ロブレス

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第5話「香りの奥に残るもの」

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レイナス王国王都、ギルド本部。

ホークスは受付にギルドカードを提示して尋ねる。

「カトレアは今、神界に来ているかわかるか?」



受付嬢は慣れた様子で答える。

「神界側の境界線視察です。今はジャスの村に滞在中だと」

ホークスは短く礼を言い、そのまま踵を返した。



神界側の境界線へ向かう途中――

王都と境界線の中間にある小さな村。

ジャスの村。

薬草と香草の産地として知られる、穏やかな村だ。

村に入った瞬間、爽やかな香りが鼻をくすぐる。



「……土産でも買うか」

ウィンの好きだった紅茶の葉も、この村にはある。

ホークスはハーブショップの扉を押した。



■ ハーブショップ

店内には乾燥させた薬草が吊るされ、柔らかな香りが満ちている。



棚の前に立つ長身の女性。

168センチほどのすらりとした体躯。

艶のある髪が肩に流れている。

カトレアだった。

真剣な顔でハーブティを選んでいる。

ホークスは一瞬だけ見惚れ、そして声をかける。

「久しぶりだな」



カトレアが振り向く。

約四ヶ月ぶりに会い、軽く微笑む。

「お久しぶり、ホークス」

その声音は柔らかい。



「魔法の相談に来た」

その一言に、カトレアの笑みがわずかに細くなる。

「……あら」



少しだけ間を置き、

「久しぶりに会ったレディに、買い物中いきなり用件ですの?」

意地悪そうに目を細める。

「無粋じゃなくて?」



ホークスはわずかに視線を逸らす。

「悪い。買い物が終わったら、近くのカフェで奢る」



カトレアはくすりと笑った。

「冗談よ。そんな顔しないで」

再び棚に向き直る。

だが内心では、小さく息を吐く。

(レオンに会った後で、用事が出来たから来たのね……)

聞こえない声で、不満をこぼす。



■ カフェ

店員に案内され、窓際の席へ。

ホークスは店員に言う。

「ジャスの村の特産ハーブティを」

カトレアも同じ物を頼む。



静かな時間。

香りが運ばれてくる。

カトレアが先に口を開く。

「で? 何を聞きたいのかしら」



ホークスは正面を見据える。

「近々、アルクと一騎打ちをする」



カトレアの瞳が僅かに動く。

「レオンと戦法を詰めた。魔法で崩しを入れることになった」

一拍置いて。



「魔法なら、お前以外に適任はいない」

その言葉に、カトレアの胸がわずかに揺れる。



だが表情は理知的なまま。

「……アルクはどんな相手?」



ホークスは語る。

魔界での共闘。

薙ぎ払う槍。

近接最強の身体強化型。

そして。



「この戦争で、六魔将の先代氷魔将を一騎打ちで討ち取った」



カトレアの表情がわずかに曇る。

「氷魔将は……一流よ」

魔法使いとして断言する。

「氷特化とはいえ、理論も精度も高い使い手だった」

静かな怒りにも似た感情。



ホークスは低く言う。

「俺の魔法じゃ、太刀打ちできないか」

「……いいえ」

少し考え、

「崩しに特化する考えは正しいわ」

カトレアの言葉を聞いてホークスは返答する。

「でも決定打にはならない」

カトレアはホークスを諭すように。

「決定打にしなくていいのよ」

カトレアは微笑む。



「足しになるかは分からないけれど……少し急ぎ足で、使えそうな魔法を教えるわ」

ホークスが礼を言う。



ハーブティが運ばれてくる。

カトレアはカップを手に取り、香りを楽しむ。

一口含み味わいながら飲み込み目を細める。

「……これ、カリンも好きだったわね」



ホークスの表情がわずかに翳る。

「……ああ」



カトレアはその顔を見て、静かに問う。

「お墓参りには行ったの?」



「まだだ」

視線を逸らす。

カトレアは優しく、しかし強く言う。

「早めに行きなさい」

そして少し笑う、続けてカトレアは語る。

「このお茶、ウィンはあまり好きじゃなかったけど」



ホークスの顔が曇る、そしてカトレアに尋ねる。

「最近、会ったか?」

「一ヶ月前に」

カトレアは柔らかく続ける。

「元気にやってるわ。あなたが魔界で生きてると伝えたら……ほっとしてた」

そして少しだけ笑う。

「会いたがっていたわよ」



ホークスは顔を逸らす。

「……まだ、向き合う決心がつかない」

カトレアの声が低くなる。

「いつ誰が死ぬかわからないのよ」

静かな言葉。



ホークスはカップを取り、一口飲む。

「この村で、ウィンの好きだった紅茶を土産に買うつもりだ」

その言葉に、カトレアは安堵する。

同時に、ほんの少しだけ胸が疼く。

だが笑みを崩さない。

「……私へのお土産は?」

意地悪そうにホークスに尋ねる。



「何か買ってやる」

「私への贈り物は選んでくれないのかしら?」

ほんの一瞬、切なさがよぎる。

だがすぐに消す。

「じゃあ村で一番高い物を買ってもらおうかしら」

ホークスは懐を気にする。

「魔法の授業料としては安い」

カトレアはにやりと笑う。

「授業料は別にいただくわ。私の授業は高いの」

ホークスは苦笑する。



「また今度、奢る」

カトレアはハーブティを飲み干す。

「全然足りないわよ」

立ち上がる。

「貸し一つ、ね」

「高い貸しになりそうだな」



窓の外、穏やかな光。

戦いの前の静かな時間。

香りは、まだ残っている。



――第5話 終

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