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第7話 「分身の魔法」
しおりを挟む森の奥。
木漏れ日の中で、ホークスは腕を組みながら唸っていた。
「……カトレア。少し相談がある」
名を呼ばれたカトレアは静かに振り返る。
「分身魔法についてかしら?」
「さすがだな。ちょっとアドバイスが欲しい」
カトレアは小さく肩をすくめた。
「分身系統は専門外よ。正直、詳しくはないわ」
ホークスは少し考え、それから続ける。
「なら……闇魔法の観点からはどうだ?。」
カトレアは首を傾げた。
「そもそもその分身は闇魔法なの? それに、私自身も闇魔法は得意じゃないの。求めている助言は出来そうにないわ……ごめんなさい」
ほんの少しだけ申し訳なさそうな声音だった。
「いや、聞いてばかりで悪いのは俺の方だ」
ホークスは深く息を吐くと、両手を軽く合わせる。
まずは――チャクラ。
火の里で学んだ、魔力と闘気を練り上げた特殊な力。
火の里の特殊な魔法を使うアサシンが魔力探知をすり抜けるために生まれた、忍術という魔法用の異質なエネルギー。
ホークスは静かにチャクラを練り上げる。
やがて、彼の隣に分身が現れた。
「……よし。詠唱してみろ」
分身に魔法を唱えさせようとする。
しかし――
分身は口を開くことなく、霧のように消えた。
「無理そうかしら?」
「……まだ他の手がある」
再びチャクラを練り、分身を召喚。
今度は分身が魔法陣を描く動きを見せる。
だが何も起きないまま、また消える。
「今、何をしたの?」
「分身に意識を集中させて、視点を共有して操作した」
カトレアは目を細める。
「随分器用なことをするのね。それなら……魔力を多めに使って分身を作ってみたら?」
ホークスは首を振る。
「闘気と魔力のバランスが崩れるとチャクラにならない」
「……魔法陣は魔力でできているわ。そもそも、その分身は魔力を持っていないのかもしれない」
その言葉に、ホークスは少し考える。
「チャクラで作った分身はそうかもな。なら……魔力だけでやってみる」
「魔力だけで分身を作れるの?」
カトレアの声に、明らかな驚きが混じる。
「よく分からない。そもそも分身も魔界で教わった魔法だ、それを試しに無理矢理気味に魔力だけで唱えてみたら成功してな、忍術とも詠唱とも違うと言われた」
「……本当にあなたって」
カトレアは小さくため息をつく。
「特殊な天才型の魔法使いね」
ホークスは苦笑する。
「原理の分からない魔法は本当は使いたくない。暴発の可能性もある、だが……危険を承知で進まないと追いつけない奴らがいる」
ギルドのランクXの同僚たち。
父親や親友の背中と剣技が脳裏に浮かぶ。
カトレアは一瞬、緊張を帯びた声で問う。
「……その“追いつけない奴ら”の中に、私も入っているの?」
ホークスは少しだけ目を逸らし、それから真っ直ぐ彼女を見る。
「その中でも……カトレアには追いつけるか分からない」
憧れを滲ませた声だった。
カトレアの頬が、わずかに赤くなる。
「……なら、少しでも追いつけるように厳しく行こうかしら?」
カトレアは少し機嫌よく冗談気味に言う。
「これ以上は勘弁してくれ、冗談抜きで」
「わかってるわ」
彼女は咳払いをして表情を整える。
「とりあえず、魔力だけで作るところを見せて」
ホークスは頷き、魔力のみを練り上げる。
詠唱はない、だが空間が歪み、分身が現れた。
チャクラの分身より存在時間は短い。
「詠唱していないわよね? 何をしたの?」
「分からない、魔界で教えてくれた人も原理がわからないと言っていた」
「詠唱を使わない魔法は知っている。でも流れが違う……多分、あなた独自の魔法として構築されている可能性が高いわ」
「少し不安だが今は使えればそれでいい」
再び分身を作り、魔法陣を描かせる。
しかし失敗。分身は先程より早く消える。
「……今、ほんの少しだけ魔力の流れを感じたわ」
「魔力の流れ?」
「魔法を使う予兆よ」
ホークスは目を細める。
「分身が魔法陣を作れるだけの魔力を持てば……撃てる?」
「その仮定は妥当ね。分身生成時の魔力を増やしてみては?」
ホークスは深呼吸する。
「分身のバランスを保てる限界まで魔力を注ぎ込む」
カトレアはふと、昔を思い出す。
ホークスがまだランクAだった頃、二人で相談しながら魔法を教えていた日々。
今の彼は、あの頃よりずっとたくましい。
――男性として、少しだけ意識してしまう。
ホークスが魔力を増やして分身を作ろうとする。
一瞬、形ができるがすぐ崩れる。
「形を保つ魔力が足りなかったか……」
惜しそうな独り言。
カトレアは顔を逸らす。
赤い頬を見られたくなくて。
ホークスは繰り返す。
1体目、3体目、6体目……。
7体目で、ついに安定。
「成功だ。魔力多めの分身だ」
ホークスは嬉しそうな声でカトレアに報告する。
「そ、そう……良かったわね」
上ずった声で返すカトレア。
「どうした?」
「何でもないわ!」
カトレアは息を整えてからホークスに指示する。
「その分身で魔法陣を試して」
ホークスは操作する。
魔法陣が――途中まで完成する。
だが、分身が消えてしまった。
「……コツは掴んだ」
ホークスは再挑戦しようとするが反応がない。
「魔力不足ね」
「……マナポーション忘れた」
ホークスはバツが悪そうに言う。
「今日はここまでにしましょう。村に戻るわ」
ホークスは少し悔しそうに頷く。
「……ああ」
こうして二人は、ジャスの村へと戻る。
分身に魔法を撃たせるという、初の試み。
確かな手応えを残しながら――。
第7話――終
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