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第2話 いつかくるあの日の為に
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「…………ー。ですから新しい環境で、よく学び、これからの皆様の将来の……今日この日4月2日、皆様の新たな」
ぼーっとする頭の中に、聞き覚えのある声が流れてくる。
しばらく声に耳を傾けているとだんだんと頭のモヤモヤが取れていった。
ここは?
「どうした?春佳?珍しいな春佳が居眠りなんて。?……大丈夫か?」
誰かがキョロキョロと周囲を見渡す私に、心配そうに耳打ちする。短い黒髪に整った優しい表情。
「そう…ちゃん?」
「おいっ。寝ぼけてんのか?外ではそう呼ぶなって。恥ずいだろ」
小声で怒る颯ちゃん。
颯真くん……。
自然と涙が頬を伝う。私はそっと眼鏡を上にずらして涙を拭った。
今まで長い夢を見ていたかのような、そんな感覚。
周りを見れば、ここがどこなのかどういう状況なのかは、すぐに分かった。
整然と並べられたパイプ椅子。そしてスーツに身を包んだ多くの学生を前に、聞き覚えのある声で、学校長が新入生へ向け式辞を述べている。
覚えている。たしかに覚えている。これは確かに私の記憶にある光景だ。
何故今この場にいるのかは分からない。でもこれだけははっきりしている。
私の運命はあと1年で終わる。
不思議な事に、それだけは何故だかはっきりと確信が持てた。確かな後悔の念とともに。
これは、あの桜の樹。
100年目の大樹桜が起こしてくれた奇跡。
私はもう後悔したくない。
その想いと共に、意識がはっきりしてくる。
「おい春佳。大丈夫か?外出るか?」
颯ちゃんの心配そうな声に余計涙が溢れそうになる。
「ううん。大丈夫だよ。なんだか嬉しくて颯ちゃんと入学式に出られて」
溢れる涙をもう一度軽くハンカチで拭い、心配かけまいと笑顔で応えた。
「だーかーらー。呼び方な。変な春佳だな」
「うん」
***
入学式の会場を出ると、強い風に乗って桜の花が舞い散る。
「やっぱり過去に戻ってきたんだ」
ちょうど一年前と同じ風を肌に感じながら、スーツに付いた桜の花びらを1枚、指で摘み呟く。
「あっいたいた。なんだよトイレの前にいると思ったのに」
「ごめんね。人が多くて先に外でてきたの。携帯に連絡したよ?」
「あっホントだ。まあトイレ前じゃなければ、春佳なら外にいると思ったからな」
トイレに行った颯ちゃんが、私を探して外に出る。
何も変わらない。これも私の記憶の通り。
やっぱりこの先も、たぶん私が何もしないでこのまま1年を過ごせば、同じ未来を辿るのだろう。
そのままただ淡々と。
そして私は……。
「おーい。そうまー。はーるかちゃーん!こっちで写真撮ろうぜ」
「あっ克哉《かつや》が呼んでるわ。行こうぜ春佳」
「うん」
そう言って歩きだす颯真くんの少し後ろを追いかけるようについて行く。
『桜華大学入学式』
と書かれた看板の前で、順番待ちをしていた高校時代からの2人の共通の友人、茶色の髪に片耳ピアスの軽い感じの男の子。克哉くんがこちらに手を振っている。
「うっし。じゃあ撮ろうぜ。えっとー……」
携帯片手に克哉くんが周囲を見渡す。
「あっすみません。写真撮ってもらえますか?」
そして同じようなスーツ姿の女性に声を掛けた。
そしてその女性をみた瞬間思い出す。これは避けられない運命だったんだ。
「いいですよ。じゃあ撮りますね。3 2 1 チーズ。」
合図とともに、携帯のシャッター音が何度か連続して響いた。
「何枚か撮ったので確認して見て下さい」
2人の長身の男の子に挟まれ、精一杯の笑顔で二回目の記念撮影を撮る。
そう二回目。
「おぉ完璧。ありがとね。俺。経済学部の真崎克哉。で、こいつが松笠颯真で、この子が七瀬春佳ちゃん。よろしくね」
「うん。よろしくね。私は……
知ってるよ。高嶺 雪那さん。
私達の新しい友達になる女の子。
そして颯真くんの……。恋人になる人。
***
「「「「「「かんぱーい!」」」」」」
互いの両親が、上機嫌でビールのグラスを鳴らす。
入学式に卒業式。その度に繰り返されるお決まりのイベント。
この日ばかりは、お母さんもお父さんを止める事はせず、颯真くんのお母さんとワインをあけながら、楽しそうに料理を運ぶ。
「いやー。とうとう大学まで一緒かぁ。颯真、春佳ちゃん。本当におめでとう!」
「んだよ。親父飲み過ぎだって」
そう颯ちゃんに止められながらも、お父さんとおじさんは今日何度目かの乾杯をする。
「いいんだよ。普段は飲まないんだから。こう言う時くらい。次は卒業式だ4年分飲み溜めだ!」
「そうだぞ!颯真君。今日は飲む!4年分とことん飲む!」
「もう。お父さん……」
でもごめんね。お父さん。おじさん。私、卒業式を迎える事が出来ない。
おかしいな。私の思い出の中では、本当に楽しい思い出なのに。
どうしてこんなに悲しいの?
どうしてこんなにも笑顔がぎこちないの?
「春佳?大丈夫か?」
そんな事を考える横顔を、颯ちゃんが心配そうに覗き込んだ。
「うん。大丈夫。なんだか疲れちゃったみたい。家帰って休もうかな」
「人多かったしな。親父。ちょっと春佳送ってくるわ」
「おっ?春佳ちゃん大丈夫かい?ん。颯真。しっかり送るように。道草食うなよ」
「わーてるよ。てかどこに食えるほどの道草があるんだよ。玄関出て3秒で着くわ」
悲しい気持ちの中で、おじさんと颯ちゃんのいつものやりとりに少しホッとする。
「うし。行こうか。春佳」
「うん。じゃあおやすみなさい」
「「「「おやすみー」」」」
***
「親父達相変わらずだな」
「うん」
宣言通り、松笠家の玄関を出て3秒で着いた七瀬家の玄関前。
「一人で大丈夫か?何か手伝うか?」
ああやっぱり優しいな。
「ううん。大丈夫。少し休めば。じゃあね颯ちゃん。おやすみ」
「あぁ。おやすみ」
玄関ドアを開け、パタンとドアが閉まると、私の動きに反応した廊下の電気が点灯する。
「ふー」
玄関ドアに寄りかかり、大きな溜め息をつく。
その瞬間
「あれ?おかしいな。何で?何でこんな……」
溢れ出す涙を止める事が出来ずに、自動点灯のライトが消えた真っ暗闇の中、膝を抱えてうずくまる。
「なんで!なんでこんな感情に⁈折角もう一度やり直すチャンスなのに!私が何もしていないから?このままだと同じ事をこんな気持ちで繰り返さなきゃいけないの?」
嫌!嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ
あの時、大樹桜の下で颯ちゃんに抱かれたとき、気持ちを伝える事も出来ず私は後悔したんだ。
だからっ
同じ後悔を繰り返さないために、同じ未来にならないために。
私は今のままじゃ駄目なんだ!
ぼーっとする頭の中に、聞き覚えのある声が流れてくる。
しばらく声に耳を傾けているとだんだんと頭のモヤモヤが取れていった。
ここは?
「どうした?春佳?珍しいな春佳が居眠りなんて。?……大丈夫か?」
誰かがキョロキョロと周囲を見渡す私に、心配そうに耳打ちする。短い黒髪に整った優しい表情。
「そう…ちゃん?」
「おいっ。寝ぼけてんのか?外ではそう呼ぶなって。恥ずいだろ」
小声で怒る颯ちゃん。
颯真くん……。
自然と涙が頬を伝う。私はそっと眼鏡を上にずらして涙を拭った。
今まで長い夢を見ていたかのような、そんな感覚。
周りを見れば、ここがどこなのかどういう状況なのかは、すぐに分かった。
整然と並べられたパイプ椅子。そしてスーツに身を包んだ多くの学生を前に、聞き覚えのある声で、学校長が新入生へ向け式辞を述べている。
覚えている。たしかに覚えている。これは確かに私の記憶にある光景だ。
何故今この場にいるのかは分からない。でもこれだけははっきりしている。
私の運命はあと1年で終わる。
不思議な事に、それだけは何故だかはっきりと確信が持てた。確かな後悔の念とともに。
これは、あの桜の樹。
100年目の大樹桜が起こしてくれた奇跡。
私はもう後悔したくない。
その想いと共に、意識がはっきりしてくる。
「おい春佳。大丈夫か?外出るか?」
颯ちゃんの心配そうな声に余計涙が溢れそうになる。
「ううん。大丈夫だよ。なんだか嬉しくて颯ちゃんと入学式に出られて」
溢れる涙をもう一度軽くハンカチで拭い、心配かけまいと笑顔で応えた。
「だーかーらー。呼び方な。変な春佳だな」
「うん」
***
入学式の会場を出ると、強い風に乗って桜の花が舞い散る。
「やっぱり過去に戻ってきたんだ」
ちょうど一年前と同じ風を肌に感じながら、スーツに付いた桜の花びらを1枚、指で摘み呟く。
「あっいたいた。なんだよトイレの前にいると思ったのに」
「ごめんね。人が多くて先に外でてきたの。携帯に連絡したよ?」
「あっホントだ。まあトイレ前じゃなければ、春佳なら外にいると思ったからな」
トイレに行った颯ちゃんが、私を探して外に出る。
何も変わらない。これも私の記憶の通り。
やっぱりこの先も、たぶん私が何もしないでこのまま1年を過ごせば、同じ未来を辿るのだろう。
そのままただ淡々と。
そして私は……。
「おーい。そうまー。はーるかちゃーん!こっちで写真撮ろうぜ」
「あっ克哉《かつや》が呼んでるわ。行こうぜ春佳」
「うん」
そう言って歩きだす颯真くんの少し後ろを追いかけるようについて行く。
『桜華大学入学式』
と書かれた看板の前で、順番待ちをしていた高校時代からの2人の共通の友人、茶色の髪に片耳ピアスの軽い感じの男の子。克哉くんがこちらに手を振っている。
「うっし。じゃあ撮ろうぜ。えっとー……」
携帯片手に克哉くんが周囲を見渡す。
「あっすみません。写真撮ってもらえますか?」
そして同じようなスーツ姿の女性に声を掛けた。
そしてその女性をみた瞬間思い出す。これは避けられない運命だったんだ。
「いいですよ。じゃあ撮りますね。3 2 1 チーズ。」
合図とともに、携帯のシャッター音が何度か連続して響いた。
「何枚か撮ったので確認して見て下さい」
2人の長身の男の子に挟まれ、精一杯の笑顔で二回目の記念撮影を撮る。
そう二回目。
「おぉ完璧。ありがとね。俺。経済学部の真崎克哉。で、こいつが松笠颯真で、この子が七瀬春佳ちゃん。よろしくね」
「うん。よろしくね。私は……
知ってるよ。高嶺 雪那さん。
私達の新しい友達になる女の子。
そして颯真くんの……。恋人になる人。
***
「「「「「「かんぱーい!」」」」」」
互いの両親が、上機嫌でビールのグラスを鳴らす。
入学式に卒業式。その度に繰り返されるお決まりのイベント。
この日ばかりは、お母さんもお父さんを止める事はせず、颯真くんのお母さんとワインをあけながら、楽しそうに料理を運ぶ。
「いやー。とうとう大学まで一緒かぁ。颯真、春佳ちゃん。本当におめでとう!」
「んだよ。親父飲み過ぎだって」
そう颯ちゃんに止められながらも、お父さんとおじさんは今日何度目かの乾杯をする。
「いいんだよ。普段は飲まないんだから。こう言う時くらい。次は卒業式だ4年分飲み溜めだ!」
「そうだぞ!颯真君。今日は飲む!4年分とことん飲む!」
「もう。お父さん……」
でもごめんね。お父さん。おじさん。私、卒業式を迎える事が出来ない。
おかしいな。私の思い出の中では、本当に楽しい思い出なのに。
どうしてこんなに悲しいの?
どうしてこんなにも笑顔がぎこちないの?
「春佳?大丈夫か?」
そんな事を考える横顔を、颯ちゃんが心配そうに覗き込んだ。
「うん。大丈夫。なんだか疲れちゃったみたい。家帰って休もうかな」
「人多かったしな。親父。ちょっと春佳送ってくるわ」
「おっ?春佳ちゃん大丈夫かい?ん。颯真。しっかり送るように。道草食うなよ」
「わーてるよ。てかどこに食えるほどの道草があるんだよ。玄関出て3秒で着くわ」
悲しい気持ちの中で、おじさんと颯ちゃんのいつものやりとりに少しホッとする。
「うし。行こうか。春佳」
「うん。じゃあおやすみなさい」
「「「「おやすみー」」」」
***
「親父達相変わらずだな」
「うん」
宣言通り、松笠家の玄関を出て3秒で着いた七瀬家の玄関前。
「一人で大丈夫か?何か手伝うか?」
ああやっぱり優しいな。
「ううん。大丈夫。少し休めば。じゃあね颯ちゃん。おやすみ」
「あぁ。おやすみ」
玄関ドアを開け、パタンとドアが閉まると、私の動きに反応した廊下の電気が点灯する。
「ふー」
玄関ドアに寄りかかり、大きな溜め息をつく。
その瞬間
「あれ?おかしいな。何で?何でこんな……」
溢れ出す涙を止める事が出来ずに、自動点灯のライトが消えた真っ暗闇の中、膝を抱えてうずくまる。
「なんで!なんでこんな感情に⁈折角もう一度やり直すチャンスなのに!私が何もしていないから?このままだと同じ事をこんな気持ちで繰り返さなきゃいけないの?」
嫌!嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ
あの時、大樹桜の下で颯ちゃんに抱かれたとき、気持ちを伝える事も出来ず私は後悔したんだ。
だからっ
同じ後悔を繰り返さないために、同じ未来にならないために。
私は今のままじゃ駄目なんだ!
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