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数多の猛者

32.帰宅

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「おかえり。お兄ちゃん」

「ただいま」


 家に帰った龍也を迎えたのは、だらしない格好でテレビの前のソファーに寝転がっている妹の穂乃香であった。
 母の薫はPTAにいっている。父の鉄也は仕事でいない。


「高校にもPTAってあるんだね」

「ああ、らしいな」

「それよか。お兄ちゃん。部活決めた?」

「......」


 龍也は妹の質問に口を閉ざす。

 龍也の家はルールでゲームを禁止していた。それにも関わらず龍也はeスポーツ部という、ゲームをする部活にはいることを決めてしまっていた。

 そのため、龍也は今。妹に嘘を言うべきか、本当の事を言うべきか悩んでいた。


「目星ぐらいは付けたんでしょ」

「まあな」

「教えてよ」

「別にいいが、母さんと父さんには言うなよ」

「えっ!?。それって」

「eスポーツ部だよ」

「ハハハ。マジ?。あのお兄ちゃんがeスポーツって」


 穂乃香は笑いながら話す。


「全然。イメージができないんですけど。何じゃあ、大会とかも行くの?」

「おそらくな」

「アハハっ。最っ高。面白すぎ」

「そんなに可笑しいか?」

「そりゃあそうでしょ。今までゲームしてるの見たことないもん」

「まあいい。言うなよ」

「わかってるよ。こんなにおもしろいこと、言うわけ無いでしょ」


 龍也は笑う妹を尻目に自身の部屋へと向かった。





 その日の晩。


「龍也。部活動はもう決めたのか?」

(きた)


 家族で食事をしている中、父が切り出した。ちなみに母である薫はまだ帰ってきていないため出前をとっていた。


「いや、まだ悩んでるよ」


 龍也はそう父に嘘をつく。それを見た妹は、どこか呆れたようにため息をつく。


「そうか、まあ、勉強が大変になるような部活は選ばないようにな」

「うん」

「それとな、母さんにはもう言ってあるんだが、父さん出張に行くことになった」

「えっ!?」


 龍也と穂乃香が驚き声を出す。そして、穂乃香が質問する。


「どこに?」

「北海道だ」

「めっちゃいいところじゃん。お土産期待してるね」

「ああ。わかったよ」


 父はにこやかに妹の質問に答える。


「どれくらい?」

「今な、父さんの会社で新しく北海道に支社を作ったんだ。それでそこが落ち着くまでと言われているから、一年は向こうに行くことになるかもしれん」

「長いね」


 父である鉄也は今までも出張に行くことはあったが、一番長いときでも3ヶ月ほどであった。


「家族のことはお前に任せたからな。龍也」

「わかった」






 夜。龍也が部屋にいるとドアがノックされる。


「お兄ちゃん。入るよ」


 ドアを開け妹が入ってくる。


「どうした?」

「いやぁ、パパが出張に行くってことは一年間は騙し通せるってことでしょ?。良かったじゃん」

「なんだ。そんな事言いに来たのか?」

「うん。実はね、私もお兄ちゃんが入ってる高校行きたいなって、今思ってて」

「お前の偏差値だと、ギリだな」

「そうなの。だから..ね。わかるでしょ」

「はあ、わかったよ。教えてやるから。もってこい」

「ありがとう。お兄ちゃん」


 妹が部屋を出たとき、一通メッセージが届く。


「ん?。明日、徹の家に集合?」
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