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第三章 ~学院と盟友~

第五十六話 ~上流貴族~

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 神発暦3515年


 『時のダンジョン』への扉の中に続々と魔導士達が入っていく。僕は魔法石の入った袋を持った冒険者風の魔導士が仲間達と共に扉に入るのを確認し終える。


「さてと、とりあえず直近の目的はこれで果たしたから良いとして、、、戻ろう」


 僕がそう言って、パーティ会場に戻ろうとした時だった。


「おおぉお?!」


 『時のダンジョン』に入る人達を見送っていた人達から突如驚きの声が響き渡った。


「嘘だ。。。速すぎる」


 僕はその光景を見て驚愕していた。そこには魔法石によって映し出されたローブを着た魔導士の姿があった。顔は隠れており見ることは出来ないが、映し出された魔導士は先ほど『時のダンジョン』に入った魔導士の中にはいなかった人物であった。

 いなかったのがわかる理由として2つあり、一つはその身に包んでいるローブがあまりに豪華な装飾が施されており、宝石が魔力に反応し白銀に輝いていた。『時のダンジョン』に入る魔導士でそれほど豪華な物を着ている人物はいなかったし、現代において魔導士の着るローブは、魔力効率の観点から魔法石が埋め込まれていることはあるが、魔法石の光はそれほど強くなく闇夜に薄っすらと光を放つ程度である。だが、その魔導士のローブに付いている石は間違いなく宝石であり、魔力と反応し眩い光を発していた。

 二つ目は、その人物が持つ杖である。その杖の先端には大きな眼球が付いていたが、現代の魔導士の杖は素材は様々ではあるが、眼球が付いているような品は数えるほどしか存在していない。

 理由としては魔獣の眼を触媒にして効果があるのは、元の魔獣の眼が魔力の供給により特殊な力を発揮するものである必要がある。

 例えば、眼から熱線を出したり、目が合った者に幻覚を見せたりする力があったりなど。だが、そう言った魔獣は危険度が高く、容易には出現しないし討伐も難しい。さらに言えば魔獣は生き物である以上、死ねば腐り始めるためメンテナンスも非常に大変だと聞く。因みに魔物の眼は、死んで時間が経てば魔素に還ってしまうため使いようがない。


 『時のダンジョン』に入った者の中にそのような魔導士はいなかった。つまり、あの魔法石によって映し出されている人物は、


「いやはや、いつぶりだろうか。私宛に魔法石を送ってくる人物が現れたのは、、、いや、こちらでは実はそれほど時は経っていないのかな?。
 まぁ、どちらでも良いか。して、私に録音の魔法石を送った人物に回答しよう。
 答えはイエスである。楽しみに待っておるぞ。使徒よ」


 僕は、その魔導士が短い言葉を告げながら、自分の方を見ているように感じていた。


(まさか、見てる?、、、そんなわけはないか)

「あなたは大賢者なのですか?」

「使徒とはどういう意味なのですか?」


 魔法石によって映し出された人物が短い言葉を言うと、大衆の問いに反応することなく、魔法石が砕け散りその姿は消えていった。


「返答の速さは予想外だったけど良かった。これで自信を持って前に進める。『古のダンジョン』への手掛かりは『時はダンジョン』の中にある」


 僕は魔導士の、いや、大賢者フルー・マーシェナルの伝言を聞き確信した。

 突然の出来事に『時のダンジョン』で見送りをしていた人たちは未だに騒然とし混乱している。


「『時のダンジョン』か、中ではどれくらいの時間がもう経っているのか。そう考えると、少し怖いけど、あの化け物に追いつくためには一番の近道のはず」


 僕はそう独り言を言うと、パーティ会場へと戻った。




場所:???


「ようやく、この長い時の狭間での生活も終わりを迎える時が来たのか。楽しみに待っているぞ。3人目の使徒よ」




 僕がパーティ会場に戻ると、そこでは何やら騒ぎが起こっていた。


「十分もいない内に何が、、、」


 騒ぎの中心を確認するとそこには、貴族三大派閥の子息、その3人の御供が今にも戦いが始まりそうな緊張感を作り出していた。


「戻ってきたのね」

「わっ、びっくりした」


 僕は突如横から声を掛けてきたハリベルに驚く。


「ねえ、まさか。さっきダンジョンでも見に行ってた?」

「よく、分かったね」

「鐘の音が『時のダンジョン』の扉が開く時間ってことくらい。常識でしょ。で、なんでわざわざ見に行ったわけ?」

「それは、内緒かな」

「あなたから私の方に来て、勝手にどっかに言ったのだけど?」


 ハリベルは軽くに僕ににらみを利かせる。


「うっ、、、。そ、そんなことより、どうしたの、これ?」

「そんなこと!?。まぁ、良いわ。いつか必ず教えてもらうから。見ての通りよ。誰のご主人様が一番偉いかってことで喧嘩中」

「因みに、そのご主人様たちは止めるつもりはないのかな?」

「そのご主人様たちが先にやり合って、連れていかれたばかりよ」

「うわぁ」


 僕はハリベルの言葉を聞いた。貴族として生まれて始めて、上流貴族とはどんな生き物かを知った気がした。


「いつまで、言い争っていてもキリがありませんわ。そもそもの原因を作ったあなたが謝罪するというなら。今回だけ特別に許しましょう」


 そう言っているのは、西部派閥トップの娘、ハーミリア・ジンジャーのお付きであろう女の子であった。


「クレバス家のような田舎貴族を御付きにするような女に、このマクベスト家のぼくが謝るだと、ふざけるな!。女の分際でこの俺に頭を下げろだと。身の程をわきまえろローラ・クレバス」

「謝罪という意味で言うなら、君たち二人の主人の争いを止めていた所為でグロック様も連れていかれたんだ。その事について考えを改めるつもりはないのか?」

「「黙(りなさい)れ」」

「野蛮な貴族に発言権は無くてよ。ウォッカ・マートン」

「なんだと、ぶっ殺す!」


 3人の貴族の魔力が一気に高まりを見せ、ほとんどの貴族の生徒は距離を取り、親達はなぜか静観を決め込んでいる。恐らく、ここで下手に介入して自分の家との遺恨が残ることを避けたいのだろう。


「止めないとまずいよね。これ」

「止めたほうがまずいと思うけど」


 僕はこの状況の正解を知らないため、どうするか悩んでいると。


「ハハハッ、いやぁ、結構結構。若い者はそうでなくてはな」


 会場の奥から、渋めの低い声で笑いながら、皇帝陛下が姿を現した。その脇には、三大派閥の子息3人が並んでいた。

 皇帝陛下を突然の来訪にその場にいた全員が膝をつき膝まづく。先ほどまで一触即発であった3人も同様であった。
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