小説家と少女

ぐり

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少女と誘拐

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「ちょっと歩かないか?」
「・・・いいよ」
 
 夕陽が煌びやかな光を放つ道の中二人で歩く。その間、少年は私から半歩ほど離れた距離におり、なおかつ車道側を歩いてくれた。少年なりに私に気を遣っているのだろう。
 
 小さな公園について夕陽を見ながら話をした。

「お前さ。大富豪のとき、本当は何考えてたんだ?」
「え?」
「とぼけんなよ。あのとき考えてたのはカードを出す順番なんかじゃないんだろ?」
「・・・」
「俺、まだガキだし頼りないかもしんないけどさ。本気でお前のことが好きで役に立ちたいと思ってるだから何か役に立てることがあればなんでも言ってくれ!」
 
 そうか。これが純粋な好意というやつか。彼は本気で私のことを心配してくれていて、本気で役に立ちたいと思ってるんだ。彼の目からそれは窺える。けど、私の過去を凄惨たる人生を、まだ、話す気にはなれない。だが、もしかしかたらこの少年にならいつか話せるときが来るかもしれない。私の心の奥にある闇を。
 
 先生に買われてから色々なことがあった。デパートに行ったり海に行ったり学校に行って友達ができたり。私には一生縁のないと思っていた日常がやってきた。だからこの胸の苦しみもいつかは晴れる日が来るのかもしれない。

「そっか。気づいてたんだね。でもごめん。まだ話せそうにないの」
「そっか。わかった」
 
 少年はそれ以上詮索することはなかった。

「無理に話さなくていい。だけど、もし俺が必要になったときはいつでも頼ってくれ。必ず役に立ってみせる!」
「ふふっ、ありがとう」
 
 話しているうちにすっかり暗くなってしまった。冬だからというのもあり、暗くなるのも早い。

「すっかり暗くなっちゃったね。そろそろ帰ろっか」
「俺送ってこっか?」
「大丈夫だよ。家すぐそこだし。それじゃあまたね」
「あぁ、またな」
 
 私たちはそれぞれ帰路に着いた。
 
 帰り道。私の前に急に車が止まった。完全に油断していた。最近は警戒心も薄れていて反応に遅れた。車から出て来た目隠し帽の人間に手を抑えられ、拘束されて、車に乗せられた。

「乗せた?」
「乗せた!早く出せ!」
 
 男性と思われる低い声と女性と思われる高い声が聞こえたかと思うと、そのまま車が発車してしまった。
 
 しかし、この声聞き覚えがある。いや私は確実にこの声を知ってる。この声は

「誰にも見られてないでしょうね」
「そんなヘマはしないよ」
 
 目隠し帽を二人が取りこちらを向く。

「悪いわね。母さんたちまた大きな借金を抱えちゃって。このままあなたを誘拐してまた売り飛ばすから」
「ごめんね。本当に申し訳ないと思ってる。でも、子どもなら親に奉公するのが務めだよね?親孝行だと思って大人しく売られてくれるかい?」
 
 まさかここまで落ちていたとは。呆れて物も言えない。

「ママ、パパ。悪い事は言わない。やめた方がいい」
「もうここまで来ちゃったんだ。引き返せないよ」
「先生は」
「ん?」
「先生は必ず私を奪い返しに来る!どんな手段を使ってでも!」
 
 それを聞いた二人は高笑いをする。

「何?脅しのつもり?」
「違う!そんなんじゃない!先生は約束してくれた!保護者としての務めを果たすって」
「あんなただの小説家に何ができるっていうの?無駄よ無駄。諦めなさい」
 
 車に揺られる事、数時間。今はもう廃墟と化したビルに着いた。
 
 私は両手を縛られながら、その中を歩かされた。
 
 さっきはあぁ言ったが先生が助けにきてくれる保証なんてどこにもない。
 
 私の身体を人身売買グループに渡される。
 
 このまま、またあの地獄に戻るのか?そんなの嫌だ!誰か、誰か助けて!先生!

「やぁ、待っていたよ」
 
 暗闇の中、聞き慣れた声が聞こえた。
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