ひまわり

Itsuki9

文字の大きさ
6 / 6

第五章

しおりを挟む
薬品の匂いが鼻の奥を突き刺す。

僕は彼女に保健室へ連れて行かれていた。

保健室では、先生は留守のようで僕は彼女に手当してもらっていた。

手当が終わり、どちらとも無言で気まずいと僕が思った時、無言の空間を先に壊したのは彼女だった。

「ごめんね」

彼女はもう一度その言葉を言った。

「本当にごめんなさい…」

彼女は何度も何度も僕に謝る。

意味がわからない。

彼女は何に対して、謝っているのか。

彼女の言う『ごめんなさい』は、僕の知っているごめんなさいとは意味が違う。

僕の知っているのは、悪いことをしたら謝るのが『ごめんなさい』だ

彼女は何一つ悪いことをしていない。

「なんで…。なんで晴矢さんが謝るの?」

「だって…」

その時、彼女の目からは涙が一粒、二粒とこぼれた。

「だって…私と付き合ったせいで、こんな風に小野くんが傷つけられた。私、もうこんなの嫌だ」

初めて見る彼女の涙だ。

クラスの中心的な人物である彼女の涙を、クラスメイトの中で見たことある人はどれくらいいるのだろう。

彼女は止まらない涙を制服の袖でふく。

「こんなことになるなら…小野くんに告白しなきゃよかった…。小野くんが痛い思いしてまで私、小野くんに特別扱いされたいと思わない…!」

僕は彼女を泣かせてしまった。

よく笑う、笑顔が良く似合う彼女を泣かせてしまった。

僕は、蹴られた時の痛みなんかより、ずっと胸が痛くなった。

僕はこういう時どうしたらいいのか分からないはずだった。

でも、体がこうしろと言っているかのように、手が彼女の頭に伸びる。

「え…?」

僕は彼女の頭をそっと僕の胸へ寄せる。

「僕の方こそごめん。彼に、川越くんに言われたんだ。『お前は何も見えていない』って。そして晴矢さんの様子がおかしいと。僕には、そんな風には見えなかった。僕と付き合う以前の晴矢さんのようで、楽しそうに友達と喋ったり、遊んだりしているところを見て、僕は安心していた」

僕は彼女の頭を少し撫でる。

「距離をとって正解だったって」

「…やっぱり私、小野くんから避けられてたんだ」

「うん。ごめん。それが晴矢さんのためだって。それが一番いい選択だって思ってた。でも違ったんだ」

僕はこれより先の言葉を、他人に対して初めて言う。

顔が熱くなるのがわかる。

「僕は晴矢さんのことを考えるすぎていて、見落としていたものがあった。それは僕自身だ。僕は、晴矢さんと一緒にいて、遊んで、楽しかった」

僕のその言葉を聞き、僕の胸に顔をうずめていた彼女は、顔を上げる。

顔が近くて、僕の顔がさらに熱くなるのがわかる。

心臓の音聞こえているのではないだろうか。

「君と付き合ってから、僕の真っ暗だった日常は壊れ、色鮮やかで輝く日常となった。君がくれるたくさんの初めてが嬉しくて、楽しかった」

僕は彼女からの視線を外し、これからいうことに備える。

「だからごめん。僕は自分に嘘をついて、晴矢さんのためだと思って距離をとった。でも僕は、僕自身は、もっと晴矢さんと一緒にいたい!一度距離をとってしまった僕だけど、もう晴矢さんから離れないから」

僕は今どんな顔をしているのだろう。

今までにしたことのない顔をしているのかな。

わかるのは、目元も含む顔が全体が熱くなっていることだけ。

彼女はなんて言うだろうか。

断られたらどうしようか。

彼女の腕が僕の背中の方へ、そして抱き合うような形となる。

「ううん。絶対に許さない。でも、これからも私と一緒にいてくれるなら、許してあげる。わかっててよね。小野くんより、私の方がずっと寂しがり屋で、小野くんと一緒にいたいって思ってるんだから」

「ありがとう…」

「もう、なんで小野くんが泣くの?」

僕の目からは涙がこぼれていた。

人の言葉で泣くのは、初めてだ。

やっぱり彼女から貰う初めては嬉しい。

「わからない…。晴矢さんとやること全てが、僕にとって初めてだから」

「もう…、なにそれ」

晴矢さんは笑っていた。

僕の涙の意味をわかるものは、ここにはいない。

でも、僕には分かりそうでわからないというもどかしい気持ちが残る。

でも、そんなの関係ない。

久々に彼女の笑顔を見て、僕はいい気分になった。

泣いたせいかわからないが、保健室の薬品の匂いが鼻を突き刺す。

彼女のおかげかどうかわからない。

さっきまで降ってはずの雨は、すっかり晴れて、まるで夏の始まりを告げているようだった。

僕はこの夏、彼女と過ごす最初で最後の夏が楽しみでとも思うが、同時に来て欲しくないとも思ってしまった。
しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

oosso
2017.07.16 oosso

とても面白いです!続きが気になります!

2017.07.16 Itsuki9

ありがとうございます!
引き続き読んでいただけると幸いです!

解除

あなたにおすすめの小説

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

一条さん結婚したんですか⁉︎

あさとよる
恋愛
みんなの憧れハイスペックエリートサラリーマン『一条 美郷(※超イケメン)』が、結婚してしまった⁉︎ 嫁ラブの旦那様と毒舌地味嫁(花ちゃん)....とっ!その他大勢でお送りしますっ♡ ((残念なイケメンの一途過ぎる溺愛♡))のはじまりはじまり〜 ⭐︎本編は完結しております⭐︎ ⭐︎番外編更新中⭐︎

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。