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第五章
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薬品の匂いが鼻の奥を突き刺す。
僕は彼女に保健室へ連れて行かれていた。
保健室では、先生は留守のようで僕は彼女に手当してもらっていた。
手当が終わり、どちらとも無言で気まずいと僕が思った時、無言の空間を先に壊したのは彼女だった。
「ごめんね」
彼女はもう一度その言葉を言った。
「本当にごめんなさい…」
彼女は何度も何度も僕に謝る。
意味がわからない。
彼女は何に対して、謝っているのか。
彼女の言う『ごめんなさい』は、僕の知っているごめんなさいとは意味が違う。
僕の知っているのは、悪いことをしたら謝るのが『ごめんなさい』だ
彼女は何一つ悪いことをしていない。
「なんで…。なんで晴矢さんが謝るの?」
「だって…」
その時、彼女の目からは涙が一粒、二粒とこぼれた。
「だって…私と付き合ったせいで、こんな風に小野くんが傷つけられた。私、もうこんなの嫌だ」
初めて見る彼女の涙だ。
クラスの中心的な人物である彼女の涙を、クラスメイトの中で見たことある人はどれくらいいるのだろう。
彼女は止まらない涙を制服の袖でふく。
「こんなことになるなら…小野くんに告白しなきゃよかった…。小野くんが痛い思いしてまで私、小野くんに特別扱いされたいと思わない…!」
僕は彼女を泣かせてしまった。
よく笑う、笑顔が良く似合う彼女を泣かせてしまった。
僕は、蹴られた時の痛みなんかより、ずっと胸が痛くなった。
僕はこういう時どうしたらいいのか分からないはずだった。
でも、体がこうしろと言っているかのように、手が彼女の頭に伸びる。
「え…?」
僕は彼女の頭をそっと僕の胸へ寄せる。
「僕の方こそごめん。彼に、川越くんに言われたんだ。『お前は何も見えていない』って。そして晴矢さんの様子がおかしいと。僕には、そんな風には見えなかった。僕と付き合う以前の晴矢さんのようで、楽しそうに友達と喋ったり、遊んだりしているところを見て、僕は安心していた」
僕は彼女の頭を少し撫でる。
「距離をとって正解だったって」
「…やっぱり私、小野くんから避けられてたんだ」
「うん。ごめん。それが晴矢さんのためだって。それが一番いい選択だって思ってた。でも違ったんだ」
僕はこれより先の言葉を、他人に対して初めて言う。
顔が熱くなるのがわかる。
「僕は晴矢さんのことを考えるすぎていて、見落としていたものがあった。それは僕自身だ。僕は、晴矢さんと一緒にいて、遊んで、楽しかった」
僕のその言葉を聞き、僕の胸に顔をうずめていた彼女は、顔を上げる。
顔が近くて、僕の顔がさらに熱くなるのがわかる。
心臓の音聞こえているのではないだろうか。
「君と付き合ってから、僕の真っ暗だった日常は壊れ、色鮮やかで輝く日常となった。君がくれるたくさんの初めてが嬉しくて、楽しかった」
僕は彼女からの視線を外し、これからいうことに備える。
「だからごめん。僕は自分に嘘をついて、晴矢さんのためだと思って距離をとった。でも僕は、僕自身は、もっと晴矢さんと一緒にいたい!一度距離をとってしまった僕だけど、もう晴矢さんから離れないから」
僕は今どんな顔をしているのだろう。
今までにしたことのない顔をしているのかな。
わかるのは、目元も含む顔が全体が熱くなっていることだけ。
彼女はなんて言うだろうか。
断られたらどうしようか。
彼女の腕が僕の背中の方へ、そして抱き合うような形となる。
「ううん。絶対に許さない。でも、これからも私と一緒にいてくれるなら、許してあげる。わかっててよね。小野くんより、私の方がずっと寂しがり屋で、小野くんと一緒にいたいって思ってるんだから」
「ありがとう…」
「もう、なんで小野くんが泣くの?」
僕の目からは涙がこぼれていた。
人の言葉で泣くのは、初めてだ。
やっぱり彼女から貰う初めては嬉しい。
「わからない…。晴矢さんとやること全てが、僕にとって初めてだから」
「もう…、なにそれ」
晴矢さんは笑っていた。
僕の涙の意味をわかるものは、ここにはいない。
でも、僕には分かりそうでわからないというもどかしい気持ちが残る。
でも、そんなの関係ない。
久々に彼女の笑顔を見て、僕はいい気分になった。
泣いたせいかわからないが、保健室の薬品の匂いが鼻を突き刺す。
彼女のおかげかどうかわからない。
さっきまで降ってはずの雨は、すっかり晴れて、まるで夏の始まりを告げているようだった。
僕はこの夏、彼女と過ごす最初で最後の夏が楽しみでとも思うが、同時に来て欲しくないとも思ってしまった。
僕は彼女に保健室へ連れて行かれていた。
保健室では、先生は留守のようで僕は彼女に手当してもらっていた。
手当が終わり、どちらとも無言で気まずいと僕が思った時、無言の空間を先に壊したのは彼女だった。
「ごめんね」
彼女はもう一度その言葉を言った。
「本当にごめんなさい…」
彼女は何度も何度も僕に謝る。
意味がわからない。
彼女は何に対して、謝っているのか。
彼女の言う『ごめんなさい』は、僕の知っているごめんなさいとは意味が違う。
僕の知っているのは、悪いことをしたら謝るのが『ごめんなさい』だ
彼女は何一つ悪いことをしていない。
「なんで…。なんで晴矢さんが謝るの?」
「だって…」
その時、彼女の目からは涙が一粒、二粒とこぼれた。
「だって…私と付き合ったせいで、こんな風に小野くんが傷つけられた。私、もうこんなの嫌だ」
初めて見る彼女の涙だ。
クラスの中心的な人物である彼女の涙を、クラスメイトの中で見たことある人はどれくらいいるのだろう。
彼女は止まらない涙を制服の袖でふく。
「こんなことになるなら…小野くんに告白しなきゃよかった…。小野くんが痛い思いしてまで私、小野くんに特別扱いされたいと思わない…!」
僕は彼女を泣かせてしまった。
よく笑う、笑顔が良く似合う彼女を泣かせてしまった。
僕は、蹴られた時の痛みなんかより、ずっと胸が痛くなった。
僕はこういう時どうしたらいいのか分からないはずだった。
でも、体がこうしろと言っているかのように、手が彼女の頭に伸びる。
「え…?」
僕は彼女の頭をそっと僕の胸へ寄せる。
「僕の方こそごめん。彼に、川越くんに言われたんだ。『お前は何も見えていない』って。そして晴矢さんの様子がおかしいと。僕には、そんな風には見えなかった。僕と付き合う以前の晴矢さんのようで、楽しそうに友達と喋ったり、遊んだりしているところを見て、僕は安心していた」
僕は彼女の頭を少し撫でる。
「距離をとって正解だったって」
「…やっぱり私、小野くんから避けられてたんだ」
「うん。ごめん。それが晴矢さんのためだって。それが一番いい選択だって思ってた。でも違ったんだ」
僕はこれより先の言葉を、他人に対して初めて言う。
顔が熱くなるのがわかる。
「僕は晴矢さんのことを考えるすぎていて、見落としていたものがあった。それは僕自身だ。僕は、晴矢さんと一緒にいて、遊んで、楽しかった」
僕のその言葉を聞き、僕の胸に顔をうずめていた彼女は、顔を上げる。
顔が近くて、僕の顔がさらに熱くなるのがわかる。
心臓の音聞こえているのではないだろうか。
「君と付き合ってから、僕の真っ暗だった日常は壊れ、色鮮やかで輝く日常となった。君がくれるたくさんの初めてが嬉しくて、楽しかった」
僕は彼女からの視線を外し、これからいうことに備える。
「だからごめん。僕は自分に嘘をついて、晴矢さんのためだと思って距離をとった。でも僕は、僕自身は、もっと晴矢さんと一緒にいたい!一度距離をとってしまった僕だけど、もう晴矢さんから離れないから」
僕は今どんな顔をしているのだろう。
今までにしたことのない顔をしているのかな。
わかるのは、目元も含む顔が全体が熱くなっていることだけ。
彼女はなんて言うだろうか。
断られたらどうしようか。
彼女の腕が僕の背中の方へ、そして抱き合うような形となる。
「ううん。絶対に許さない。でも、これからも私と一緒にいてくれるなら、許してあげる。わかっててよね。小野くんより、私の方がずっと寂しがり屋で、小野くんと一緒にいたいって思ってるんだから」
「ありがとう…」
「もう、なんで小野くんが泣くの?」
僕の目からは涙がこぼれていた。
人の言葉で泣くのは、初めてだ。
やっぱり彼女から貰う初めては嬉しい。
「わからない…。晴矢さんとやること全てが、僕にとって初めてだから」
「もう…、なにそれ」
晴矢さんは笑っていた。
僕の涙の意味をわかるものは、ここにはいない。
でも、僕には分かりそうでわからないというもどかしい気持ちが残る。
でも、そんなの関係ない。
久々に彼女の笑顔を見て、僕はいい気分になった。
泣いたせいかわからないが、保健室の薬品の匂いが鼻を突き刺す。
彼女のおかげかどうかわからない。
さっきまで降ってはずの雨は、すっかり晴れて、まるで夏の始まりを告げているようだった。
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とても面白いです!続きが気になります!
ありがとうございます!
引き続き読んでいただけると幸いです!