ダンジョン・イーツ! ~戦闘力ゼロの俺、スキル【絶対配送】でS級冒険者に「揚げたてコロッケ」を届けたら、世界中の英雄から崇拝されはじめた件~

たくみさん

文字の大きさ
8 / 72
第一章 ダンジョン・イーツ開業 編

8:命の特急便

しおりを挟む
 新居の生活にも慣れたある日、ママチャリの注油している時に配送の依頼が届いた。

『第38階層:パーティ全員が麻痺毒にやられました。解毒薬 5瓶、大至急! 報酬は3倍出します!』
『第42階層:不意打ちで明かりを失い、暗闇で脱出不可能。魔導ランタンと予備の魔石、大至急! 暗闇で一歩も動けません!』
『第25階層:耐火マントが焼け焦げました。氷結魔法のスクロールと予備のマント、大至急! 撤退ルートが火の海です!』
『第47階層:盾役の重装鎧が破損。接合用の魔導ハンダと簡易修理キット、大至急! 次のボス戦に間に合わせろ!』
『第17階層:もう疲れちゃって 全然動けなくてェ…』
『第30階層:食料袋が魔物に食われました。保存食10日分と水袋、大至急! 空腹で魔法が使えません!』

 営業時間になると一斉にアプリの通知が鳴り響く。開業した当初は、ネタにしたい輩たちや、物珍しさで依頼を出してくる連中ばかりだったが、ブラックリストに放りまくったお陰で、迷惑な客はかなり減った。
 安い依頼も、高い依頼も基本的には全て受け付ける。それが当社のポリシーです。

 依頼を片付けて昼飯を食って居た時、新規のお客さんだが、妙に気になる依頼に目に止まった。

『第45階層:ハハキトク、イマスグモドレ』
 なんだこれ、昔見た映画に出てきた電報みたいだな。今も電報ってあるのかな?

 母危篤、今すぐ戻れって事だよな。
 こういうのに弱いんだよな⋯⋯。本来なら内容不十分の依頼は受け付けないが、母というワードに釣られ、特例で連絡を取ってみることにした。

「もしもしー、ダンジョンイーツの天野《アマノ》蓮《レン》と申します。先程、配送の依頼を確認したのですが、不明な点が多かったので、詳しいお話をお伺いしても宜しいですか?」

「わざわざご連絡有り難うございます。……アプリの使い方も分からなくて、この依頼が可能なのはダンジョンイーツのレン様位だとお聞きしまして……」

 詳しく話を聞けば、彼の仕える家の奥様が急病で、今夜が山だという。 一人息子は第45階層の深部。通常の伝令では往復3日。だが、一度俺の常識外の配達速度を人伝に聞いた老紳士は、震える手で操作した結果、ああなったそうだ。

「分かりました。――大至急探して、連れてきます。」

 俺は愛用の自転車デリバリーランサーに跨り、迷宮へ向かった。スキル【絶対配送】によって、垂直な壁も天井も道に変え、最短距離を「弾丸」のように激走した。数時間後、駆けずり回って発見した息子を無理やり後部座席に乗せ、再び激走。
 地上の病院へ滑り込んだ時、息子は腰を抜かしていたが、なんとか母親の元に連れて行った。

 だが、病室のモニターは、無情にも彼女の命が消えかかっていることを示していた。 

「……母さん! 母さんッ!!目を覚ましてくれよ…」 

 泣き叫ぶ息子。俺は拳を握りしめ、自分の無力さに唇を噛んだ。俺には連れてくることしか出来ないのか…。いや、まずは誰かに相談してみよう。今俺には頼りになる友達がいるのだ。

「カグヤか?ちょっと聞きたいことがあるんだ……」
 ちょうどオフだと言うカグヤは、病院まで直接俺の話を聞きに来てくれた。
 そして、カグヤは老紳士から、母親の病名を聞くと、俺にひとつの提案をしてきた。

 彼女はスマホをぽちぽちっし、世にも珍しい花の写真を見せてきた。

「第56階層の極寒地帯に咲く氷蓮華《ひょうれんげ》の露があれば根治が可能よ。ただし、摘んだ瞬間から1分以内に服用させなければ毒に変わるわ」 

「1分!? 俺の絶対配送を使っても……往復で10分以上かかるか……デリバリーバッグの効果で使用期限が十分の1になったとしても、かなり際どいな……!」 

「私の魔法で、花を氷結封印して、あなたの自転車で運べばどうかしら?」
 氷結封印とは、一時的に凍らせた物の時間止める魔法らしい。

 カグヤは俺の目を見つめ、答えを待っている。その瞳には、彼女も病室で眠る母親を助けたいという純粋な優しさを感じた。

「ただ、万全を期すためには、私も現地に行くのが望ましいのだけど、レンの最高速に耐えられるかしら……」
「任せろ、人を安全に運ぶ技術も習得済みだ。乗り心地はイマイチだろうけど、チャリの後ろに乗ってくれ。」

 俺はニッと笑い、再び自転車に飛び乗った。 
「目標タイムは、全行程合わせて10分だ!行くぞカグヤ!!」
「お、落っこちないように頑張るわ!」

 デリバリーランサーが迷宮を駆け抜ける。第56階層、マイナス50度の極寒。カグヤの極寒から身を護る魔法がなければ、一瞬で凍り付いていたかもしれない。

 カグヤが指示する方向に進むと、一面凍りついた花畑のように見える場所にたどり着く。

「あの氷のような花が氷蓮華よ。」
 俺が『氷蓮華』を摘んだ瞬間、カグヤの声が響く。

『ミッションスタートよ!。レン、結界を発動したわ!残り九分五十秒!』

 復路、俺はもはや壁すら走らなかった。【絶対配送】の概念を拡張し、空気中の魔力粒子を足場にして、空中を一直線に突き抜ける。
  風圧でフレームが悲鳴を上げ、視界が白く染まる。だが、後部座席で俺にしがみつき、、結界を維持するカグヤの頑張りが、俺の限界を超えさせる。

「……あと、三十秒……!」

キキィイイイーーー!
 チャリのブレーキ音が病院の中庭に響く。
 チャリを乗り捨て、廊下を駆け抜け、病室のドアを蹴破った。 

「飲ませろ!! 今すぐ!!」

 デリバリーバッグから取り出した氷蓮華は、まだ瑞々しく輝くような露を含んでいた。
 それを母親の唇に流し込んだ。数秒の、無限にも感じる静寂。
 やがて――モニターの鼓動が、力強く刻まれ始め、母親の顔色が、血色をおびてくる。

「……お疲れ様。……最高の仕事だったわよ。レン」

 魔力を使い果たしたカグヤが、椅子に深く腰掛け、初めて俺を名前で呼んだ。 
「カグヤもな……、流石だよ。」
 俺もその場に、崩れ落ちた。

 俺の視線の先には、起きあがろうとしている母親と、それを止める老紳士、涙でグチャグチャになった顔で、俺たちに頭を下げる息子の姿があった。

 夕日に照らされた母親の笑顔は、大金を積まれた依頼の何倍もの達成があった。
 俺は、この笑顔が見たくて、この仕事をしているんだと改めて実感した。

 そして、親子の抱擁を眺め、涙するカグヤに、友情以上の気持ちを感じ始めていた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

異世界に迷い込んだ盾職おっさんは『使えない』といわれ町ぐるみで追放されましたが、現在女の子の保護者になってます。

古嶺こいし
ファンタジー
異世界に神隠しに遭い、そのまま10年以上過ごした主人公、北城辰也はある日突然パーティーメンバーから『盾しか能がないおっさんは使えない』という理由で突然解雇されてしまう。勝手に冒険者資格も剥奪され、しかも家まで壊されて居場所を完全に失ってしまった。 頼りもない孤独な主人公はこれからどうしようと海辺で黄昏ていると、海に女の子が浮かんでいるのを発見する。 「うおおおおお!!??」 慌てて救助したことによって、北城辰也の物語が幕を開けたのだった。 基本出来上がり投稿となります!

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

最弱無双は【スキルを創るスキル】だった⁈~レベルを犠牲に【スキルクリエイター】起動!!レベルが低くて使えないってどういうこと⁈~

華音 楓
ファンタジー
『ハロ~~~~~~~~!!地球の諸君!!僕は~~~~~~~~~~!!神…………デス!!』 たったこの一言から、すべてが始まった。 ある日突然、自称神の手によって世界に配られたスキルという名の才能。 そして自称神は、さらにダンジョンという名の迷宮を世界各地に出現させた。 それを期に、世界各国で作物は不作が発生し、地下資源などが枯渇。 ついにはダンジョンから齎される資源に依存せざるを得ない状況となってしまったのだった。 スキルとは祝福か、呪いか…… ダンジョン探索に命を懸ける人々の物語が今始まる!! 主人公【中村 剣斗】はそんな大災害に巻き込まれた一人であった。 ダンジョンはケントが勤めていた会社を飲み込み、その日のうちに無職となってしまう。 ケントは就職を諦め、【探索者】と呼ばれるダンジョンの資源回収を生業とする職業に就くことを決心する。 しかしケントに授けられたスキルは、【スキルクリエイター】という謎のスキル。 一応戦えはするものの、戦闘では役に立たづ、ついには訓練の際に組んだパーティーからも追い出されてしまう。 途方に暮れるケントは一人でも【探索者】としてやっていくことにした。 その後明かされる【スキルクリエイター】の秘密。 そして、世界存亡の危機。 全てがケントへと帰結するとき、物語が動き出した…… ※登場する人物・団体・名称はすべて現実世界とは全く関係がありません。この物語はフィクションでありファンタジーです。

ペットたちと一緒に異世界へ転生!?魔法を覚えて、皆とのんびり過ごしたい。

千晶もーこ
ファンタジー
疲労で亡くなってしまった和菓。 気付いたら、異世界に転生していた。 なんと、そこには前世で飼っていた犬、猫、インコもいた!? 物語のような魔法も覚えたいけど、一番は皆で楽しくのんびり過ごすのが目標です! ※この話は小説家になろう様へも掲載しています

処理中です...