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第二章 ダンジョン・イーツ転換期 編
24:溶けた心に、刻まれた傷痕
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翌日、初売りで最新のマウンテンバイクと、ママチャリ用の変速機などのパーツを大量に買い込み、帰宅した。
結論として、マウンテンバイクは、俺のスキルとの紐付けは出来なかった。ママチャリの強化は、問題なく反映され、ついに俺のママチャリに、変速機が取り付けられた。三段階しかない変速機だが、最高速度は格段に上がった。
その他のパーツは、後日取り付けをお願いした。
◆◆◆
祝杯から数日。
横浜ダンジョンの旧地下道には、場違いなほど華やかな空気が流れていた。
「ねえ、レン。この依頼が終わったら、次はどこへ行きましょうか?」
カグヤは、俺が引くリアカーの横を軽やかな足取りで歩きながら、楽しげに首を傾げた。
「カグヤ、仕事中だぞ。……それに、あまり俺に近づきすぎるな。自転車に巻き込まれる」
「あら、あなたが私を傷つけるはずがないわ。……そうでしょう?」
そう言って悪戯っぽく微笑む彼女は、明らかに浮かれていた。
一億の謝罪金を手にし、俺との「恋仲」を世間に知らしめた満足感が、氷の聖女から鋭い牙を奪っていたのだ。普段なら半径数十メートルの魔素の乱れさえも見逃さない彼女が、今は意識の半分を俺との会話に向けている。
『カグヤ様、完全にデート気分じゃんww』
『あんなにスキだらけな聖女様、初めて見たわ……』
浮遊魔眼の配信画面には、視聴者たちの温かい(あるいは嫉妬に狂った)コメントが流れていた。
「先輩、カグヤ様! 前方の通路、クリアです! ……って、あれ? おかしいな。センサーにノイズが……」
ユウキが首を傾げた、その瞬間だった。
天井の配管の隙間。光の届かない闇が、意思を持ったように膨れ上がった。
現れたのは、変異種の魔獣『シャドウ・ストーカー』。物理的な実体を持たず、影から影へと転移する、暗殺特化の個体だ。
「――っ!?」
カグヤが反応する。だが、その指先が魔導剣の柄に届くより、闇から伸びた漆黒の爪の方が、わずかに速かった。
カグヤが俺に微笑みかけた、その瞬間に生じた一筋の隙を、魔獣は見逃さなかった。
「カグヤ、伏せろッ!!」
俺は考えるより先に、自転車を放り出した。
【絶対配送】の感覚が、影の軌道を「最優先で排除すべき障害」として脳内に弾き出す。
ドゴォッ! という重い衝撃。
俺はカグヤの細い肩を抱き寄せ、自らの体を盾にして闇の爪を受け止めた。
「…………え?」
カグヤの困惑した声が、すぐ耳元で聞こえる。
直後、俺の左肩に焼けるような熱さが走り、鮮血が彼女の純白のドレスに飛び散った。
「が……っ!」
「レン!? あなた、血が……どうして……!」
カグヤの瞳が、驚愕と恐怖で見開かれる。
影の魔獣は一度の攻撃で仕留めきれなかったことを悟り、再び闇へと潜ろうとした。――だが、それは不可能だった。
周囲の空気が、一瞬で凍りついた。
それは先日の神々しい冷気ではない。
暗く、重く、底知れない怒りに満ちた、絶対的な死の拒絶。
「…………私の、レンに、何をしたの?」
カグヤの声は、震えるほどに低かった。
彼女の足元から放射状に広がった極低温の波動が、地下道の壁も、配管も、そして逃げようとした影の魔獣さえも、存在ごと氷の彫像へと変えた。
「ギ、ギギィッ……!?」
凍りついた影が、悲鳴を上げる間もなく粉々に砕け散る。
「先輩! 大丈夫ですか!? すぐに止血を――」
慌てて駆け寄ろうとするユウキを、カグヤの手が遮った。
「触らないで。……私が、やるわ」
カグヤは真っ青な顔で、俺の傷口に手を添えた。
あんなに傲岸不遜だった聖女が、今にも泣き出しそうな子供のように震えている。
「ごめんなさい、ごめんなさい……私が、浮かれていたせいで……あなたが傷つくなんて……!」
「よせ。かすり傷だ。お前が無事なら、それでいい」
俺は痛みを堪えて笑ってみせたが、カグヤは力強く首を振った。
「いいわけないわ! 傷跡一つ残したくないのに……っ! ……『万象固定・聖治の凍刻』!」
カグヤの魔力が俺の肩を包み込み、傷口の時間を止めるかのように出血が止まった。
彼女はそのまま俺の腕を自分の肩に回し、俺を支えるようにして立ち上がる。
「ユウキさん、荷物は適当に運んでおいて。……この人は、私が連れて帰るわ」
「えっ、あ、はい! お任せください!」
「カグヤ、俺はまだ歩ける……」
「黙って。……今日はもう、絶対に離さないから」
カグヤの瞳には、もう「浮かれ」など欠片も残っていなかった。
代わりに宿っていたのは、守られたことへの屈辱と、それを上回るほどの、狂おしいまでの独占欲。
俺はカグヤの肩に預けた体重の温かさを感じながら、彼女の独占欲の深さ、内心で苦笑した。
結論として、マウンテンバイクは、俺のスキルとの紐付けは出来なかった。ママチャリの強化は、問題なく反映され、ついに俺のママチャリに、変速機が取り付けられた。三段階しかない変速機だが、最高速度は格段に上がった。
その他のパーツは、後日取り付けをお願いした。
◆◆◆
祝杯から数日。
横浜ダンジョンの旧地下道には、場違いなほど華やかな空気が流れていた。
「ねえ、レン。この依頼が終わったら、次はどこへ行きましょうか?」
カグヤは、俺が引くリアカーの横を軽やかな足取りで歩きながら、楽しげに首を傾げた。
「カグヤ、仕事中だぞ。……それに、あまり俺に近づきすぎるな。自転車に巻き込まれる」
「あら、あなたが私を傷つけるはずがないわ。……そうでしょう?」
そう言って悪戯っぽく微笑む彼女は、明らかに浮かれていた。
一億の謝罪金を手にし、俺との「恋仲」を世間に知らしめた満足感が、氷の聖女から鋭い牙を奪っていたのだ。普段なら半径数十メートルの魔素の乱れさえも見逃さない彼女が、今は意識の半分を俺との会話に向けている。
『カグヤ様、完全にデート気分じゃんww』
『あんなにスキだらけな聖女様、初めて見たわ……』
浮遊魔眼の配信画面には、視聴者たちの温かい(あるいは嫉妬に狂った)コメントが流れていた。
「先輩、カグヤ様! 前方の通路、クリアです! ……って、あれ? おかしいな。センサーにノイズが……」
ユウキが首を傾げた、その瞬間だった。
天井の配管の隙間。光の届かない闇が、意思を持ったように膨れ上がった。
現れたのは、変異種の魔獣『シャドウ・ストーカー』。物理的な実体を持たず、影から影へと転移する、暗殺特化の個体だ。
「――っ!?」
カグヤが反応する。だが、その指先が魔導剣の柄に届くより、闇から伸びた漆黒の爪の方が、わずかに速かった。
カグヤが俺に微笑みかけた、その瞬間に生じた一筋の隙を、魔獣は見逃さなかった。
「カグヤ、伏せろッ!!」
俺は考えるより先に、自転車を放り出した。
【絶対配送】の感覚が、影の軌道を「最優先で排除すべき障害」として脳内に弾き出す。
ドゴォッ! という重い衝撃。
俺はカグヤの細い肩を抱き寄せ、自らの体を盾にして闇の爪を受け止めた。
「…………え?」
カグヤの困惑した声が、すぐ耳元で聞こえる。
直後、俺の左肩に焼けるような熱さが走り、鮮血が彼女の純白のドレスに飛び散った。
「が……っ!」
「レン!? あなた、血が……どうして……!」
カグヤの瞳が、驚愕と恐怖で見開かれる。
影の魔獣は一度の攻撃で仕留めきれなかったことを悟り、再び闇へと潜ろうとした。――だが、それは不可能だった。
周囲の空気が、一瞬で凍りついた。
それは先日の神々しい冷気ではない。
暗く、重く、底知れない怒りに満ちた、絶対的な死の拒絶。
「…………私の、レンに、何をしたの?」
カグヤの声は、震えるほどに低かった。
彼女の足元から放射状に広がった極低温の波動が、地下道の壁も、配管も、そして逃げようとした影の魔獣さえも、存在ごと氷の彫像へと変えた。
「ギ、ギギィッ……!?」
凍りついた影が、悲鳴を上げる間もなく粉々に砕け散る。
「先輩! 大丈夫ですか!? すぐに止血を――」
慌てて駆け寄ろうとするユウキを、カグヤの手が遮った。
「触らないで。……私が、やるわ」
カグヤは真っ青な顔で、俺の傷口に手を添えた。
あんなに傲岸不遜だった聖女が、今にも泣き出しそうな子供のように震えている。
「ごめんなさい、ごめんなさい……私が、浮かれていたせいで……あなたが傷つくなんて……!」
「よせ。かすり傷だ。お前が無事なら、それでいい」
俺は痛みを堪えて笑ってみせたが、カグヤは力強く首を振った。
「いいわけないわ! 傷跡一つ残したくないのに……っ! ……『万象固定・聖治の凍刻』!」
カグヤの魔力が俺の肩を包み込み、傷口の時間を止めるかのように出血が止まった。
彼女はそのまま俺の腕を自分の肩に回し、俺を支えるようにして立ち上がる。
「ユウキさん、荷物は適当に運んでおいて。……この人は、私が連れて帰るわ」
「えっ、あ、はい! お任せください!」
「カグヤ、俺はまだ歩ける……」
「黙って。……今日はもう、絶対に離さないから」
カグヤの瞳には、もう「浮かれ」など欠片も残っていなかった。
代わりに宿っていたのは、守られたことへの屈辱と、それを上回るほどの、狂おしいまでの独占欲。
俺はカグヤの肩に預けた体重の温かさを感じながら、彼女の独占欲の深さ、内心で苦笑した。
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