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第六章 その配送、安物につき群雄割拠 編
57:屋根裏の散歩者?
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新装開店した『ダンジョンイーツ銀座本部』は、連日大盛況だった。
銀座の一等地という立地もあり、直接窓口に依頼を持ち込む客も増えている。そんな中、俺はある「異変」に気づいた。
……アリスから不快な異臭がする。
アリスが通り過ぎるたびに、微かに漂う埃と湿気をともなう異臭。
ユウキが気を利かせてロストダンジョン内の温泉施設へ定期的に連れて行ってはいるのだが、翌日には、また異臭を放っている。
身なりを整えるのも仕事のうちだ。俺はアリスを面談室に呼び出した。
「アリス、単刀直入に聞く。お前、もしかして風呂に入ってないのか? 」
アリスは、どこか遠い目をして答えた。
「……実を言えばお館様、拙者、自宅というものが無いでござる。外国人ゆえ、保証人やら審査やらが難しくて……。でも問題ないでござる。拙者には夜の『任務』があるゆえ、家など不要!」
「任務……? なんだそれ」
「身辺警護でござる。……まぁ、身だしなみを整えるのも仕事と言われれば、善処するでござるが」
その場は適当に窘めて終わらせたが、どうにも腑に落ちない。そして、不気味な違和感が拭えなかった。
◆
その夜、俺はペントハウスに戻り、夕飯を囲みながらカグヤに相談した。
「アリスのやつ、家がないらしいんだ。どこかいい部屋、知らないか?」
「あら、このマンションの部屋なら空いてるわよ?」
カグヤは事もなげに言った。家賃が高すぎると難色を示す俺に、彼女は微笑む。
「ダンジョンイーツのメンバーならお友達価格でいいわ。実はユウキも、もう下の階に住んでいるのよ」
「初耳だぞ!?」
「あら、言っていなかったかしら? なんなら、レイ君や拓実さんの分も用意するわよ。福利厚生ということで」
翌日、アリスを呼んでその話をしようとすると、不思議な反応が返ってきた。
「お館様、マンションの件、かたじけないでござる!」
……まだ本人には話していないはずなのに。カグヤが先に伝えたのか? まぁ、いいか。
◆
さらにその夜。
カグヤが夕食のカレーを作っていたときのことだ。
野菜を切り、肉を切る。肉を炒め、野菜も炒める、水を入れブイヨンを二つ入れ火にかける。
丁寧に灰汁を取っていると、ダンジョン協会から緊急招集がかかり、彼女は慌てて飛び出していった。
「コンロの火、消したっけ……」
協会に着いた彼女は、不安に駆られたが、私が忘れるわけないわね、仮に忘れても安全装置がついているから、大事よね?
だが、レンと一緒に帰宅し、台所でカグヤが目にしたのは、ぞっとするような光景だった。
野菜と肉をカットしただけの状態だったはずの鍋が、完璧な完成度のカレーへと仕上がっていたのだ。なんなら、隠し味に何か入れたのか、普段より数段美味い。
そして、調理途中で洗っていなかったまな板や包丁が、洗われており、野菜の皮等が丁寧に袋に詰められ、ゴミとして捨てられていた。さらには、まもなくお米も炊ける状態だ。
だが、調理台には誰もいない。まるで、先ほどまで誰かが調理していたかのような、違和感を感じた。
「あら……私、いつの間に仕上げたのかしら?」
「いや、お前ずっと協会にいただろ!」
それだけではない。
「そういえば出る直前、紅茶をこぼしちゃったんだけど……」
カグヤが指差すテーブルの上は、ピカピカに磨き上げられ、ティーカップも綺麗に洗われていた。
家事が壊滅的に苦手なカグヤが、無意識にやるはずがない。
まるで、ダス○ンお掃除サービスに頼んだかのような清潔感だ。
その瞬間、俺の脳裏に、かつてカグヤと「北千住の女」のことで喧嘩した際の光景が蘇った。
『お館様はあの時間の○分にはあそこにいて……』と、誰にも知らせていない、詳細すぎる俺のスケジュールを、アリスが把握していた……あの時の違和感。
そして今日、俺が昼間に見ていた時代劇のワンシーンが、パズルの最後のピースを埋めた。
「……アリスのあの汚さ、夜の警護、俺たちの情報が筒抜けな理由……。
そして、勝手に仕上がるカレーと、綺麗な部屋……」
すべての答えがそこにあった!
俺はすっと立ち上がり、天井を見上げて、大きく手を二回叩いた。
「――影よ、出ろ!!」
ガササササッ!!
天井の点検口から、凄まじい勢いで、ピンク色の何かが飛び出してきた。
それは空中で一回転し、俺の目の前で見事な着地を決め、膝をつく。
「……お館様、ご命令を!!」
そこにいたのは、鼻の頭にススをつけ、髪に蜘蛛の巣を絡ませたアリスだった。
「お前……! ずっと、そこにいたのか!?」
「身辺警護でござる! 天井裏は、拙者の第二の自宅! カレーの灰汁取りも、忍びの嗜み! 紅茶の拭き取りは、日々の鍛錬!
お館様とカグヤ様のプライバシーは、決して覗かないという強い精神力は、拙者の誇りでござる!」
赤くなるカグヤ。
アリスが汚れていた理由、そして家事の苦手なカグヤの家が常に小綺麗だった理由。
それは――俺たちの生活を24時間体制で、天井裏から支えていたからだった。
「……お前、犯罪行為だぞ?」
俺は大きなため息をついた……。
その日以来、アリスは天井裏での任務を一時中断し、ダンジョンイーツの事務所で真面目に業務にあたっていた。
だが、時折天井を見上げては、何かを懐かしむような視線を送っている。
「アリス、お前にはこのマンションの一室を用意した。家賃は福利厚生で会社が持つ。もう天井裏生活は終わりにしろ」
レンがそう告げると、アリスは顔を上げた。
「……お館様のご配慮、かたじけないでござる!
しかし、屋根裏からの暗殺は定番でござる。
お館様とカグヤ様の生活を24時間監視……いえ、守護するのに必要な行為のです!」
「監視はダメだ! 天井裏は住む場所じゃない!」
「いやだ!!
天井裏は、拙者にとって最高の要塞! 緊急時にはすぐに現場へ急行できます!」
アリスは、天井裏での生活が、いかに使命に適しているかを熱弁し始めた。
レンは頭を抱える。どうやら、アリスの身辺警護は、もはや彼女の生活の一部でありらしい。
そんな攻防が数日続いたある夜。
疲労困憊でペントハウスに戻ったレンを、カグヤが優しい笑顔で出迎えた。
「レン、アリスにはちゃんとお部屋を使ってもらうように、私が説得したわ」
あの頑固なアリスを説得できるとは。
「彼女には新しい業務を与えたの。
彼女って、料理も上手だし、お掃除も丁寧なのよ。
彼女には、住み込みでメイドをやってもらうことにしたわ!」
合法的に俺たちの世話をし、監視?するのに、住み込みのメイドは合理的かもしれない。
「用意した部屋も気に入ってくれたわ。もうこれで安心ね!」
カグヤは満面の笑みで紅茶を淹れる。
レンは感慨深げに、天井をみつめた。まぁ、たまに出てくるカグヤの創作料理から開放されるのは、喜ばしいことかもしれないな。
◆
その翌日。
ダンジョンイーツ銀座本部のオフィスに、メイドカチューシャをした、ピンクの忍装束を着たアリスが俺の横に立っていた。
昨日までとは打って変わり、清潔感に溢れ、恭《うやうや》しくレンのデスクの横に立っている。
俺の事務仕事が一段落し、一息つこうとすると、すっとカップに入ったコーヒーがさしだされる。
自宅に帰ると既に食事の用意がされている。先ほどまで同じ職場にいたとは思えない……。
まるで俺の行動が分かっているかのように、常に先回りをして行動するアリスのメイド仕事ぶりに、若干の不気味さを感じるものの、彼女は嬉しそうに仕事をしている。
「メイドの仕事は、忍者の仕事に通じるものがあるでござるな……」
意味不明の言動のこし、部屋に戻るアリス。
「あいつ、自分の天職を見つけたんだな……」
思わずレンの目に涙が溢れるのだった。
銀座の一等地という立地もあり、直接窓口に依頼を持ち込む客も増えている。そんな中、俺はある「異変」に気づいた。
……アリスから不快な異臭がする。
アリスが通り過ぎるたびに、微かに漂う埃と湿気をともなう異臭。
ユウキが気を利かせてロストダンジョン内の温泉施設へ定期的に連れて行ってはいるのだが、翌日には、また異臭を放っている。
身なりを整えるのも仕事のうちだ。俺はアリスを面談室に呼び出した。
「アリス、単刀直入に聞く。お前、もしかして風呂に入ってないのか? 」
アリスは、どこか遠い目をして答えた。
「……実を言えばお館様、拙者、自宅というものが無いでござる。外国人ゆえ、保証人やら審査やらが難しくて……。でも問題ないでござる。拙者には夜の『任務』があるゆえ、家など不要!」
「任務……? なんだそれ」
「身辺警護でござる。……まぁ、身だしなみを整えるのも仕事と言われれば、善処するでござるが」
その場は適当に窘めて終わらせたが、どうにも腑に落ちない。そして、不気味な違和感が拭えなかった。
◆
その夜、俺はペントハウスに戻り、夕飯を囲みながらカグヤに相談した。
「アリスのやつ、家がないらしいんだ。どこかいい部屋、知らないか?」
「あら、このマンションの部屋なら空いてるわよ?」
カグヤは事もなげに言った。家賃が高すぎると難色を示す俺に、彼女は微笑む。
「ダンジョンイーツのメンバーならお友達価格でいいわ。実はユウキも、もう下の階に住んでいるのよ」
「初耳だぞ!?」
「あら、言っていなかったかしら? なんなら、レイ君や拓実さんの分も用意するわよ。福利厚生ということで」
翌日、アリスを呼んでその話をしようとすると、不思議な反応が返ってきた。
「お館様、マンションの件、かたじけないでござる!」
……まだ本人には話していないはずなのに。カグヤが先に伝えたのか? まぁ、いいか。
◆
さらにその夜。
カグヤが夕食のカレーを作っていたときのことだ。
野菜を切り、肉を切る。肉を炒め、野菜も炒める、水を入れブイヨンを二つ入れ火にかける。
丁寧に灰汁を取っていると、ダンジョン協会から緊急招集がかかり、彼女は慌てて飛び出していった。
「コンロの火、消したっけ……」
協会に着いた彼女は、不安に駆られたが、私が忘れるわけないわね、仮に忘れても安全装置がついているから、大事よね?
だが、レンと一緒に帰宅し、台所でカグヤが目にしたのは、ぞっとするような光景だった。
野菜と肉をカットしただけの状態だったはずの鍋が、完璧な完成度のカレーへと仕上がっていたのだ。なんなら、隠し味に何か入れたのか、普段より数段美味い。
そして、調理途中で洗っていなかったまな板や包丁が、洗われており、野菜の皮等が丁寧に袋に詰められ、ゴミとして捨てられていた。さらには、まもなくお米も炊ける状態だ。
だが、調理台には誰もいない。まるで、先ほどまで誰かが調理していたかのような、違和感を感じた。
「あら……私、いつの間に仕上げたのかしら?」
「いや、お前ずっと協会にいただろ!」
それだけではない。
「そういえば出る直前、紅茶をこぼしちゃったんだけど……」
カグヤが指差すテーブルの上は、ピカピカに磨き上げられ、ティーカップも綺麗に洗われていた。
家事が壊滅的に苦手なカグヤが、無意識にやるはずがない。
まるで、ダス○ンお掃除サービスに頼んだかのような清潔感だ。
その瞬間、俺の脳裏に、かつてカグヤと「北千住の女」のことで喧嘩した際の光景が蘇った。
『お館様はあの時間の○分にはあそこにいて……』と、誰にも知らせていない、詳細すぎる俺のスケジュールを、アリスが把握していた……あの時の違和感。
そして今日、俺が昼間に見ていた時代劇のワンシーンが、パズルの最後のピースを埋めた。
「……アリスのあの汚さ、夜の警護、俺たちの情報が筒抜けな理由……。
そして、勝手に仕上がるカレーと、綺麗な部屋……」
すべての答えがそこにあった!
俺はすっと立ち上がり、天井を見上げて、大きく手を二回叩いた。
「――影よ、出ろ!!」
ガササササッ!!
天井の点検口から、凄まじい勢いで、ピンク色の何かが飛び出してきた。
それは空中で一回転し、俺の目の前で見事な着地を決め、膝をつく。
「……お館様、ご命令を!!」
そこにいたのは、鼻の頭にススをつけ、髪に蜘蛛の巣を絡ませたアリスだった。
「お前……! ずっと、そこにいたのか!?」
「身辺警護でござる! 天井裏は、拙者の第二の自宅! カレーの灰汁取りも、忍びの嗜み! 紅茶の拭き取りは、日々の鍛錬!
お館様とカグヤ様のプライバシーは、決して覗かないという強い精神力は、拙者の誇りでござる!」
赤くなるカグヤ。
アリスが汚れていた理由、そして家事の苦手なカグヤの家が常に小綺麗だった理由。
それは――俺たちの生活を24時間体制で、天井裏から支えていたからだった。
「……お前、犯罪行為だぞ?」
俺は大きなため息をついた……。
その日以来、アリスは天井裏での任務を一時中断し、ダンジョンイーツの事務所で真面目に業務にあたっていた。
だが、時折天井を見上げては、何かを懐かしむような視線を送っている。
「アリス、お前にはこのマンションの一室を用意した。家賃は福利厚生で会社が持つ。もう天井裏生活は終わりにしろ」
レンがそう告げると、アリスは顔を上げた。
「……お館様のご配慮、かたじけないでござる!
しかし、屋根裏からの暗殺は定番でござる。
お館様とカグヤ様の生活を24時間監視……いえ、守護するのに必要な行為のです!」
「監視はダメだ! 天井裏は住む場所じゃない!」
「いやだ!!
天井裏は、拙者にとって最高の要塞! 緊急時にはすぐに現場へ急行できます!」
アリスは、天井裏での生活が、いかに使命に適しているかを熱弁し始めた。
レンは頭を抱える。どうやら、アリスの身辺警護は、もはや彼女の生活の一部でありらしい。
そんな攻防が数日続いたある夜。
疲労困憊でペントハウスに戻ったレンを、カグヤが優しい笑顔で出迎えた。
「レン、アリスにはちゃんとお部屋を使ってもらうように、私が説得したわ」
あの頑固なアリスを説得できるとは。
「彼女には新しい業務を与えたの。
彼女って、料理も上手だし、お掃除も丁寧なのよ。
彼女には、住み込みでメイドをやってもらうことにしたわ!」
合法的に俺たちの世話をし、監視?するのに、住み込みのメイドは合理的かもしれない。
「用意した部屋も気に入ってくれたわ。もうこれで安心ね!」
カグヤは満面の笑みで紅茶を淹れる。
レンは感慨深げに、天井をみつめた。まぁ、たまに出てくるカグヤの創作料理から開放されるのは、喜ばしいことかもしれないな。
◆
その翌日。
ダンジョンイーツ銀座本部のオフィスに、メイドカチューシャをした、ピンクの忍装束を着たアリスが俺の横に立っていた。
昨日までとは打って変わり、清潔感に溢れ、恭《うやうや》しくレンのデスクの横に立っている。
俺の事務仕事が一段落し、一息つこうとすると、すっとカップに入ったコーヒーがさしだされる。
自宅に帰ると既に食事の用意がされている。先ほどまで同じ職場にいたとは思えない……。
まるで俺の行動が分かっているかのように、常に先回りをして行動するアリスのメイド仕事ぶりに、若干の不気味さを感じるものの、彼女は嬉しそうに仕事をしている。
「メイドの仕事は、忍者の仕事に通じるものがあるでござるな……」
意味不明の言動のこし、部屋に戻るアリス。
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