ダンジョン・イーツ! ~戦闘力ゼロの俺、スキル【絶対配送】でS級冒険者に「揚げたてコロッケ」を届けたら、世界中の英雄から崇拝されはじめた件~

たくみさん

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最終章 東京ラビリンス/最後のデリバリー?編

70:いつでも貴方のそばに……ダンジョン・イーツ

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 チェーンが、小気味よい音を立てて回る。
 ユウキの手によって極限までチューニングされたママチャリ『デリバリー・ランサー』は、一切のロスなくレンの踏力を推進力へと変えていた。

 シュパァァァッ!!

 レンが漕ぐママチャリの前輪が、東京タワーの剥き出しになった鉄骨に吸い付くようにグリップする。
 角度はほぼ90度。自転車で走る道ではない。仮に走れたとしても、重力に負けてしまうだろう。
 しかし、レンの足取りは驚くほど軽い。

「……相変わらず、レンのスキルは常識外れね」
 思わず口にするカグヤ。
 スキル【絶対配送(デリバリー・ロード)】。この黄金のラインの上では、重力すらも装甲の妨げにはならない。
 レンがペダルを踏めば、車体はふわりと加速し、垂直な鉄骨を滑るように駆け上がっていく。

『警告。警告。物理法則の逸脱を検知』
 併走するプライムのドローンが、困惑したように明滅しながらついてくる。

『理解不能。
 その自転車には推進装置がありません。重力制御装置もありません。
 なぜ登れるのですか? なぜ落ちないのですか?』

 レンは鼻歌交じりにペダルを回し、涼しい顔で答えた。
「理屈? そんなの知らないよ。ただ、俺の届けたいという気持ちに、答えてくれただけだ。」
 ママチャリは鉄骨の側面を走り、螺旋を描きながら天を目指して加速していく。

「……レン。風が強くなってきたわ」
 背中のカグヤが、レンの腰に回した腕に力を込める。
 高度が上がるにつれ、吹き荒れるビル風が暴風へと変わっていた。

 タワーに絡みついた植物が、風に煽られて鞭のように襲いかかってくる。

「問題ない! 風くらい俺の根性で……」
「いいえ、レンは前だけを見ていて。
 ……露払いは私の役目よ」
 カグヤが片手を離し、優雅に指を振るった。

 『氷壁・展開』

 自転車の周囲に、流線型の氷の結界が展開される。
 それはエアロパーツのように空気抵抗を消し去り、襲いかかる蔦を凍結させて砕き散らした。

 だが、その時だった。

 ギギギギギ……バキンッ!!
 頭上で、鉄骨が悲鳴を上げる音が響いた。
 魔界植物の浸食と、強すぎる魔素の質量に耐えきれず、上部の展望台エリアの一部が崩落したのだ。

 降ってくるのは、バスほどのサイズがある巨大なコンクリート塊と、千切れた鉄骨の雨。

「――ッ! レン、危ない!」
 カグヤが叫ぶ。だが、彼女の『氷壁』は風と蔦の対処で対処が遅れる。
 再展開が間に合わない。

 回避できるか? いや、壁面走行中の今、急な横移動は落下の危険がある。

(くそっ、間に合え……ッ!)

 レンが覚悟を決めてペダルを踏み込んだ、その瞬間。

 ヒュンヒュンヒュンッ!

 青い残像が、レンたちの頭上に割り込んだ。
 それは、今まで警告を発し続けていたプライムのドローンたちだった。

 ドゴォォォォォンッ!!

 数機のドローンが、自らの機体を盾にして瓦礫に突っ込んだ。
 爆発音と共にドローンは粉砕されたが、その衝撃でコンクリート塊の軌道がわずかに逸れる。
 巨大な鉄塊は、レンたちの数メートル横を通り過ぎ、風切り音と共に遥か下界へと落ちていった。

「……は?」
 レンが呆気に取られて空を見る。
 黒煙を上げて墜落していくドローンの残骸。
 そして、生き残った一機のドローンが、レンの横でふらふらと飛んでいた。

『……エラー。エラー。ロジック・エラーを検知』
 その機械音声は、どこか混乱しているように聞こえた。

『対象の生存確率は0.00%。本ミッションの遂行価値は皆無。
 なのに、なぜ……私は貴方を守った?
 なぜ、損耗率100%の防御行動を選択した?
 ……理解不能。私の回路は破損しました』
 AIは、計算上「無駄」なはずのレンたちを守るために、自らを犠牲にしたのだ。
 その行動の理由が自分でも分からず、ドローンは戸惑っていた。

 レンは一瞬驚いた顔をしたが、すぐにニカッと笑った。
「おかしくなんかないさ!」
 レンはペダルを漕ぎながら、ドローンに向けて親指を立てた。

「人間の心は、計算じゃないんだよ。考える前に、体が動いてしまうものなんだ。
 お前らにも、少し人間の『心』が移っちまったみたいだな!」
『……心? これが……バグではなく?』
 ドローンは沈黙した。

 そして、再び明滅すると、今度は先導するようにレンの前へ出た。
『……前方の障害物を排除します。
 行きましょう、ダンジョン・イーツ。
 ……この謎のミッションを、完遂させてください』

「ああ、任せておけ!」
 ママチャリが更に加速する。

 グングンと高度が上がるにつれ、周囲の空気が重く、ねっとりと肌にまとわりつくような感覚に変わっていく。
 魔素が濃すぎるのだ。

「……変わってるな」
 タワーの頂上を見上げる。

「普通は、ダンジョンに潜り、地下に行くほど魔素は濃くなる。
 でも、この東京迷宮は逆だ。空へ登れば登るほど、濃くなる。
 それに迷宮と言う割に、道は一本道、ただ上に上るだけ。」
 当初俺は、東京迷宮の最深部は、地下深くにあるのだと考えていたが、実際には逆だったのだ。

「ええ。もともとは国が観光名所にしようとして、このご立派名前を付けたらしいわね。でも危険すぎたらしいわ」

「依頼主はこの上で何をしているのかな?」
「私たちが美味しそうに食事をしているのを眺めていて、お腹空いちゃったのかもね」
 カグヤは、笑いながら冗談のように言ったが、案外間違っていないかもしれない、俺たちダンジョンイーツの依頼者の大半は腹ぺこなのだから。

「飯ってのはな……ただの栄養補給じゃないんだ。
 『美味しい』って思った瞬間に……明日も生きていこうって思える……希望なんだッ!!」
 レンが咆哮し、限界を超えたペダリングが、更なる加速を生む。

「行っけえええええええッ!!」

 レンは黄金のラインに導かれ、垂直にそびえ立つタワーの先端――避雷針のさらに上へと飛び出した。

 バシュッ!!

 世界が反転する感覚。
 雲を突き抜けた先は、無限に広がるかのように見える平面、本来あるはずのない空間だった。

 空のようにも見え、水底のような静寂。
 瓦礫も魔物もいない、ぽっかりと開けた空間。
 
 そこには、古びたちゃぶ台が一つ、宙に浮いているように置かれている。
 あたかも、昭和の茶の間が空に切り取られたような光景。
 そのちゃぶ台の前で、白いワンピースを着た小さな少女が、下界を見下ろすように膝を抱えて座っていた。

 彼女は、突然飛び出してきた自転車を見て、ぽかんと口を開けた。
 俺はチャリを地面に着地させ、少女の目の前に歩み寄る。
 息一つ切らさず、ジャケットの埃を払う。

「お待たせしました……!」
 レンは背中のデリバリーバッグから、まだ湯気の立つ弁当箱を取り出し、ちゃぶ台に置いた。

「ダンジョンイーツです!
 ご注文の品お持ちしました!俺たちがいつも食べている『特製コロッケ弁当お届けに上がりました!」
 少女の瞳が、宝石のようにキラキラと輝いた。
 彼女のお腹が、可愛らしく「ぐぅぅ~」と鳴る音が、静寂の深淵に響き渡った。
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