フォノンの物語

KIM2

文字の大きさ
21 / 28
6章

世界樹の苗樹

しおりを挟む
 「シチューにされてたまるか」
 とローランドは笑いました。
 「ローランド!どうして?怪我をしてるの?」
 ハッカは急いでフォノンとローランドのそばに来ました。
 「この傷、斬られたの?」
 「話は後だ。まずは手当てしなくちゃ」
 「そうだね。ドラゴンから貰った軟膏を塗ろう」
 そう言ってハッカは袋から軟膏を取り出してローランドの傷に塗り、シャツを破いて包帯代わりに巻きました。
 「それで、何があったの?」
 とハッカが聞くので、フォノンはあらためてヤイリの事を話しました。ハッカはまだヤイリに会った事がありません。
 「また来るかな?」
 とハッカは不安気に言いました。
 「奴も手負いだからな。しばらくは大丈夫だろう」
 とローランドは言いました。
 確かにヤイリも右手を斬られていました。
 「そういえば、ユニとシンは?」
 「あの二人ならこの先の町にいるはずだ」
 とローランドは言いました。
 ローランドの話しによると、ローランド達も昨夜一晩かけてフォーコ火山を超えて来たようです。
 夜の下り道は危険ですが、フォノンとハッカが心配でユニとシンが夜を徹して急ぐ事を提案したそうです。
 そして明け方、山の魔王軍の気配が騒がしくなったのを感じて、急いでモート湖まで辿り着き、町に通じる道を見つけるとローランドはユニとシンと一旦別れ、様子を見に戻って来たそうです。そこでフォノンとヤイリの姿が見え、何とか剣を交える前に間に合った、とのことでした。フォノンにとってもまさに危機一髪でした。
 フォノン達は堅パンと水で簡単に昼食をすますと、先を急ぐことにしました。
 もう眠気はとんでいます。
 フォノンはローランドを抱っこして運ぶことにしました。ドラゴンの軟膏がいくら効き目が素晴らしくても、まだローランドは歩けませんでした。
 「やあ、負うた子に助けられたな」
 とローランドは言いました。
 フォノンは無言で歩き続けました。

 しばらく歩くと町が見えて来ました。
 その町はトランクィッロと言いました。モート湖の湖畔の小さな町です。
 宿も食堂を兼ねた一軒しかなく、ユニとシンとはすぐに再会できました。ユニとシンはローランドが怪我をしているのに驚き理由を尋ねました。
 フォノンはヤイリとの戦いを話しました。
 「あの男ね」
 「魔王軍とつながりがあるって言ってたけれど、魔王軍も追ってくるかな?」
 とシンとユニが不安がるので、フォノンはフォーコ火山の洞穴での出来事を話しました。
 「魔王軍は武器の運搬に出払ってるし、残りもミントがやっつけたから、すぐには追って来ないと思う」
 「フォノンもーすごかったーんだよー」
 とハッカが言いました。
 「そんなことより、お腹がすいたね」
 とフォノンは照れを隠すように言いました。
 「本当だわ」
 とシンも同意したので、夕食をとることにしました。
 夕食はポテトのサラダにモート湖特産の鱒の燻製、それにチキンの入ったシチューでした。
 ローランドには別にニンジンをもらいました。
 久しぶりのちゃんとした食事を堪能すると、皆眠くなってきました。
 ハッカは宿の女将さんに清潔な布をもらうと、応急処置で巻いたローランドの布をはずし、ドラゴンの軟膏をもう一度塗り清潔な布を巻き直しました。
 そして部屋に戻ると皆すぐに寝てしまいました。
 
 翌朝、全員朝寝坊です。
 少し細かい雨が降っていました。
 フォノンが起きるともう昼前でした。
 顔を洗い宿の主人にもう一泊したいと伝えて、部屋に戻るとハッカも目を覚ましていました。
 ユニとシンは別の部屋です。
 フォノンとハッカはローランドを抱いて、ユニとシンに声をかけて、朝食兼昼食を取ることにしました。
 昼食は女将さんが、鱒の塩漬けとオニオンを挟んだサンドウィッチと果実のジュースを出してくれました。
 ローランドにはまたニンジンをもらいました。
 「ローランドの怪我もあるし、今日は休んで明日出発しよう」
 とフォノンは提案しました。
 「モレンド山脈の麓まで後どのくらいかしら」
 「地図で見るとここから三日ってところかな」
 「でも北の魔女の棲家ってモレンド山脈の麓ってだけしか知らないよ」
 「有名人だから近くまで行けば知ってる人がいるさ。きっとすぐ見つかるよ」
 もうカルマートの森を出て二十三日経っていました。
 宿の女将が食器の片付けがてらに話しかけてくれました。
 「お前さん方どちらまで行くんだい?」
 「モレンド山脈の麓の北の魔女のところまで」
 「何だい?北の魔女の棲家だって?」
 と女将さんはぞっとしない感じで言いました。
 「噂じゃ、大きな大きな樹に住んでるって話だよ。でも不思議なことにその樹はあったりなかったり、見えたり見えなかったりするらしいのさ。化かされないように気をつけるこったね」
 「ありがとう。気をつけるよ」
 と言ってフォノン達はいったん部屋に戻りました。
 旅の準備をしなければなりません。
 雨は止んでいます。
 皆で気分転換もかねて町に出ました。
 村の店を回り食料と燃料とロープを買いました。
 靴も暖かいブーツを揃えました。
 ローランドはびっこをひきながら、歩けるまで快方しました。さすがはドラゴンの軟膏です。
 ですがハッカは気づいていました。ドラゴンの軟膏はどんな切り傷でもたちどころに治す効能があります。
 ヤイリの刀は妖刀ということでしたので、その影響が出ているようです。それでも普通よりも治りは早いのでこまめに傷口に軟膏を塗って布を巻き直します。
 夜ご飯になりました。
 今夜は、牛肉と野菜の串焼きに、豆とベーコンのスープ、チーズにパンとにんじんというメニューでした。
 晩御飯を平らげると眠くなってきました。
 明日に備え皆ぐっすり眠りました。

 翌朝、早朝は湖面に霧が降りていましたが、天気は良くなりそうです。
 新しいブーツを履き、フォノン達は出発しました。ローランドとミントは仔馬の背に乗っています。
 モレンド山脈までの道は比較的平坦で、フォノン達の他にも旅人が何人か歩いていました。
 野営を二日繰り返すと小さな村に着きました。
 フォノン達は村の大きな農家に泊めてもらえることになりました。
 「北の魔女の棲家に行きたいんだけれど。どこへ行けばいいですか?」
 と主人に聞くと主人は首を振ってこう言いました。
 「北の魔女はこちらに用事がある時しか姿を見せない。探すのは無理だ」
 女将さんはヒントをくれました。
 「けれどモレンド山脈の麓の森で見かけた事があると聞くよ」
 「ありがとう。明日、森に行ってみます」
 そう言ってフォノン達は農家で休み、次の日の朝、森へ向かって出発するのでした。

 その森はカランドの森と言われ、古い森でした。
 フォノンは動物や小鳥に挨拶をして北の魔女の棲家を聞きます。「右の方にだよ」「いや左だ」みんな言ってることがバラバラでどこにあるのかわかりません。
 ハッカは森を歩き回ります。
 森には大きな樹も多く、植物が生い茂っています。
 呼吸するだけで濃い生命の力を感じます。
 「この森は古いだけあって精霊が多く集まってるし、モレンド山脈からの神気もたっぷり受けるので植物が大きく成長するんだな。世界樹の苗樹の植樹にもよさそうだ」
 そこでハッカはハッと気がつきました。
 ドラゴンから貰った古代仗で地面を突きます。
 トントトーン、トントン、トントトーン。
 不思議なリズムです。
 トントトーン、トントン、トントトーン
 トントトーン、トントン、トントトーン。
 ハッカの体が揺れ始めました。
 そのうちハッカの体も透けたり元に戻ったり
 トン。と杖を突き呪文を唱えます。
 「姿を現せエンファニゾマイ
 するとそこにあった草木の姿が徐々に薄れて消えていきました。
 草木が消えた後に現れたのは、大きな大きな大きなとても大きな樹が現れました。カルマートの森のグラーヴェの樹の何十倍もの大きさです。
 「世界樹の苗樹だね。この杖も世界樹の梢で作られているから感じ取ることが出来た。」
 とハッカは言いました。
 「ここがきっと北の魔女の棲家だ」
 「世界樹って何?」
 「世界樹っていうのは、一言で言うとこの世界を支えている大きな大きな樹のことだよ。この世界そのものと言っても良い。世界樹はもっと高次の世界にあるから目にすることは出来ない。この樹はきっとその苗樹の一つだと思う。まだとっても小さくて普通の樹のように大地の養分をとって成長しているから、現世にでも相を合わせてこんな風に出現できるのだと思う。」
 「これでとっても小さいの?」
 とシンも目を丸くして言いました。
 「そうだね。人で言ったら小指爪の先よりもっと小さいくらい」
 「ほえー」
 と皆樹の上を見上げました。
 「でも、どうやって中に入るんだろう」
 
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

あだ名が242個ある男(実はこれ実話なんですよ25)

tomoharu
児童書・童話
え?こんな話絶対ありえない!作り話でしょと思うような話からあるある話まで幅広い範囲で物語を考えました!ぜひ読んでみてください!数年後には大ヒット間違いなし!! 作品情報【伝説の物語(都道府県問題)】【伝説の話題(あだ名とコミュニケーションアプリ)】【マーライオン】【愛学両道】【やりすぎヒーロー伝説&ドリームストーリー】【トモレオ突破椿】など ・【やりすぎヒーロー伝説&ドリームストーリー】とは、その話はさすがに言いすぎでしょと言われているほぼ実話ストーリーです。 小さい頃から今まで主人公である【紘】はどのような体験をしたのかがわかります。ぜひよんでくださいね! ・【トモレオ突破椿】は、公務員試験合格なおかつ様々な問題を解決させる話です。 頭の悪かった人でも公務員になれることを証明させる話でもあるので、ぜひ読んでみてください! 特別記念として実話を元に作った【呪われし◯◯シリーズ】も公開します! トランプ男と呼ばれている切札勝が、トランプゲームに例えて次々と問題を解決していく【トランプ男】シリーズも大人気! 人気者になるために、ウソばかりついて周りの人を誘導し、すべて自分のものにしようとするウソヒコをガチヒコが止める【嘘つきは、嘘治の始まり】というホラーサスペンスミステリー小説

運よく生まれ変われたので、今度は思いっきり身体を動かします!

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞」重度の心臓病のため、生まれてからずっと病院のベッドから動けなかった少年が12歳で亡くなりました。両親と両祖父母は毎日のように妾(氏神)に奇跡を願いましたが、叶えてあげられませんでした。神々の定めで、現世では奇跡を起こせなかったのです。ですが、記憶を残したまま転生させる事はできました。ほんの少しだけですが、運動が苦にならない健康な身体と神与スキルをおまけに付けてあげました。(氏神談)

独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。

猫菜こん
児童書・童話
 小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。  中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!  そう意気込んでいたのに……。 「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」  私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。  巻き込まれ体質の不憫な中学生  ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主  咲城和凜(さきしろかりん)  ×  圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良  和凜以外に容赦がない  天狼絆那(てんろうきずな)  些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。  彼曰く、私に一目惚れしたらしく……? 「おい、俺の和凜に何しやがる。」 「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」 「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」  王道で溺愛、甘すぎる恋物語。  最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。

【3章】GREATEST BOONS ~幼なじみのほのぼのバディがクリエイトスキルで異世界に偉大なる恩恵をもたらします!~

丹斗大巴
児童書・童話
 幼なじみの2人がグレイテストブーンズ(偉大なる恩恵)を生み出しつつ、異世界の7つの秘密を解き明かしながらほのぼの旅をする物語。  異世界に飛ばされて、小学生の年齢まで退行してしまった幼なじみの銀河と美怜。とつじょ不思議な力に目覚め、Greatest Boons(グレイテストブーンズ:偉大なる恩恵)をもたらす新しい生き物たちBoons(ブーンズ)とアイテムを生みだした! 彼らのおかげでサバイバルもトラブルもなんのその! クリエイト系の2人が旅するほのぼの異世界珍道中。  便利な「しおり」機能を使って読み進めることをお勧めします。さらに「お気に入り登録」して頂くと、最新更新のお知らせが届いて便利です! レーティング指定の描写はありませんが、万が一気になる方は、目次※マークをさけてご覧ください。

【もふもふ手芸部】あみぐるみ作ってみる、だけのはずが勇者ってなんなの!?

釈 余白(しやく)
児童書・童話
 網浜ナオは勉強もスポーツも中の下で無難にこなす平凡な少年だ。今年はいよいよ最高学年になったのだが過去5年間で100点を取ったことも運動会で1等を取ったこともない。もちろん習字や美術で賞をもらったこともなかった。  しかしそんなナオでも一つだけ特技を持っていた。それは編み物、それもあみぐるみを作らせたらおそらく学校で一番、もちろん家庭科の先生よりもうまく作れることだった。友達がいないわけではないが、人に合わせるのが苦手なナオにとっては一人でできる趣味としてもいい気晴らしになっていた。  そんなナオがあみぐるみのメイキング動画を動画サイトへ投稿したり動画配信を始めたりしているうちに奇妙な場所へ迷い込んだ夢を見る。それは現実とは思えないが夢と言うには不思議な感覚で、沢山のぬいぐるみが暮らす『もふもふの国』という場所だった。  そのもふもふの国で、元同級生の丸川亜矢と出会いもふもふの国が滅亡の危機にあると聞かされる。実はその国の王女だと言う亜美の願いにより、もふもふの国を救うべく、ナオは立ち上がった。

生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!

mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの? ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。 力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる! ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。 読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。 誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。 流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。 現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇 此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。

【完結】またたく星空の下

mazecco
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 君とのきずな児童書賞 受賞作】 ※こちらはweb版(改稿前)です※ ※書籍版は『初恋×星空シンバル』と改題し、web版を大幅に改稿したものです※ ◇◇◇冴えない中学一年生の女の子の、部活×恋愛の青春物語◇◇◇ 主人公、海茅は、フルート志望で吹奏楽部に入部したのに、オーディションに落ちてパーカッションになってしまった。しかもコンクールでは地味なシンバルを担当することに。 クラスには馴染めないし、中学生活が全然楽しくない。 そんな中、海茅は一人の女性と一人の男の子と出会う。 シンバルと、絵が好きな男の子に恋に落ちる、小さなキュンとキュッが詰まった物語。

きたいの悪女は処刑されました

トネリコ
児童書・童話
 悪女は処刑されました。  国は益々栄えました。  おめでとう。おめでとう。  おしまい。

処理中です...