疑心暗鬼

玉城真紀

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寂しい?

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次の日。
私の晴れの門出を祝うかのように気持ち良く晴れた日だった。
両親が駅まで送ってくれて、東京までは母がついて来た。本当は東京まで一人で行きたかったが、断ると行けなくなるのではと思い言わなかった。
母は、余程心配なのか「変な人について行っては駄目よ。早く寝なさい」等、色々な注意事項を何度も繰り返し言っていたが、浮ついた私の耳には届いていない。

電車と新幹線を乗り継ぎようやく東京へ入る。大きな荷物を抱えた私と母は田舎者丸出しで、この東京の地にはそぐわないのではないかと、恥ずかしくなった。二人で早足にバスに乗りアパートに到着。
二階建てアパートで、私の部屋は二階の一番左の部屋だ。お気に入りのキーホルダーを付けた鍵でドアを開け中に入る。何回か両親と来た部屋だったが、改めて部屋の中を見て回る。家具などは必要最低限でそろえ、他の細かい荷物は先に送っておいたので今日届く予定になっている。

(ここで・・・今日から一人で暮らせるんだ)

母親が繰り返し話す注意事項を耳にしながら、これからの生活の事をワクワクしながら想像する。夕方になり、さっきまで何かとうるさかった母が玄関先で突然黙り私を見る。

「どうしたの?」

「・・・・本当に大丈夫?」

「大丈夫よ。何かあったら必ず電話するから」

私は少しうんざり気味に言う。
中々帰ろうとしない母は

「・・・そうね。いずれは独り立ちしなくちゃいけないし予行練習だと思えばいいわね。でもね・・・」

私はいい加減頭に来た。

「あのね、私も大人なのよ?一人暮らし位でこんなに色々言われたら本当に嫌になるよ。よっぽどお祖母ちゃんの方が理解あるわ」

怒りに任せて言ってしまったが、最後「言い過ぎたかしら」とちょっと後悔し母の顔を伺った。

母は、少し困ったような悲しいような表情をしていた。
これから自分の楽しい生活が始まるのに、こんな顔されながらスタートするのは嫌だ。

「本当に大丈夫だから!何かあったら連絡する!じゃあね」

と言いながら強く玄関を閉めた。
親の気持ちなど、今の私にはどうでもよかった。ずっと縛られた生活をあの田舎でして来たのだ。やっと手に入れた自由な生活。やっと解放されるという安堵感。
でも・・・心の隅の方に小さくある罪悪感が私にそっと玄関を開けさせた。
母はもういなかった。
玄関を出て急いで道路に出てみる。
遠くの方に駅に向かう母の背中が小さく見えた。

「はやっ」

咄嗟にそう言ったが、それ以上口を開くのはやめた。

アパートに戻った私は気を取り直して荷物を整理していた。

「あ、これ・・・」

段ボールに洋服と一緒に入っていたのは、お祖母ちゃんから貰ったあのフランス人形だ。

「これは、何処に飾ろうかな」

私は人形を持ちながら、あっちへ置きこっちへ置きしながら人形が一番しっくりくる所を探し回る。

「よし!ここでいいわ!」


最終的に決まったのは箪笥の上。
友達を呼んだ時にも目に付くし、そこに置けば人形からも部屋が全て見渡せる位置になる。
何となくお祖母ちゃんに守られているようにしたかったので、私は満足しながらその場所に人形を置いた。
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