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第一章
7.台風の目
しおりを挟む「い、ぎぃいい!あ、ん、んン……っ」
動物のような行為をラヨチは好んだ。体を押さえつけ、後ろから犯す。ベッドや布団なんてものはこの場所にはない。カンの背中に爪を立て、赤い線が増えることに愉悦を覚え、簡単のその皮膚を切り裂く。気まぐれに傷を心配するように舐めるが、その猫のようにざらついた舌は傷を労るどころかさらに抉る行為に変わる。
「い、いいいッ!ガハッ、はっ、は、あ゛あ゛あ゛!!」
奥を突かれる快感と、背中を走る痛みに頭がどうにかなりそうだった。そのうち痛みすら快感に変わるのでは、と心配になる。助けを求めても、来るはずもない。ここはラヨチと二人っきりの空間。犯され、壊されるだけの場所。カンはそれを耐えることしか認められていない。壊れたら他の人に被害が出る。
地面に乳首が擦れて痛い。いや、もうそれすら快楽だった。己の体温が移り、温かくなった地面は整備されているわけがない。凹凸があり、欠けた場所は簡単にカンの体を傷つける。小さな傷から血が流れることにラヨチは気にも止めない。体が丈夫でよかった。もし、ニゲラの藍色の瞳に目をつけていたらと思うと血の気がひく。
「違うこと、考えている?」
瞬間、息が止まる。一気に機嫌が悪くなったラヨチは右手だけ人の姿に戻る。最初の時のように髪の毛を掴み、首を逸らさせる。ぶちぶちと抜ける髪の毛に顔を顰めてしまう。
「せっかく愛し合っているのに、お前は悪い子だね。」
「あ、ああ、ごめ、ごめんなさい…ごめんな、さッ!」
左手の爪を背中に差し込む。切り裂くのではなく、差し込み、抉る。
「悲鳴をあげなければ許してあげる。俺は優しいから。さ、青。頑張ろうか。」
それは悪魔の囁き。
「五秒間。声を出してはいけないよ。いいね。」
いーち。指を一本増やされ、傷口をほじくる。にーい。そのまま二本の指が腰まで下がり、深い傷をつけていく。さーん。入ってはいけない奥まで楔が入り込む。よーん、何度も何度も出入りを繰り返す。ごーぉ。一番奥で果てた。
カンは己の右手を噛み締め、必死に耐えた。悲鳴も嬌声も吐息すら出ないように食いしばり、耐え切った。
ラヨチは満足そうに笑うと右手を離す。がつん、と頭から落ちたカンの頭を優しく撫で、「いい子、いい子。」と頭を撫でた。涙と鼻水、涎と血液で汚れたカンの顔は褒められたことによって口角を上げていた。
「ぼく、いい、こ……?」
か弱い声。カンはぼんやりとした頭で言葉をこぼす。ラヨチはそんなカンが大好きだった。子供返り、と言われる状態。いつもの感情を隠したカンではなく、純粋に愛を求めている子供を。かわいいかわいい子供。たくさんたくさん愛したい。与えたい。守りたい。大人のカンは傷つけたいのに、子供のカンは守りたい。矛盾した感情に胸が高鳴る。
「いい子だよ、可愛い青。」
「へへ、えへへ……」
魔人に感情はない。あるのは他者を穢す本能だけ。しかし、カンと共にいる時間が、愛し合う時間が長くなるほど感情が芽生えていく。
運命。そう名付けてもいいだろう。
気を失ったカンの唇を触れる。刺していた楔を抜き、人型に戻る。自分よりも太い腕も大きな体も何もかもが愛おしい。
可愛い子供を抱き締め、ゆっくりとその唇を舐める。ラヨチが愛しているのは子供のカン。大人のカンは必要ない。
「どうすればひとりになるかな、」
ね?と問いかけてもカンは答えない。
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