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星の海、星の森
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第三惑星テラと惑星住民が呼称するその最果ての辺境惑星に攻撃知性体の彼が降り立った時点で、彼が最初に行ったのは非ローカルな知性体の存在をスキャンすることだった。
攻撃知性体によるこの惑星の攻撃計画は広くダメルダーフ銀河星系の十六星域に周知されていたので、当然、好奇心本位で訪れる各星系からの観光ビジターたちは、もうとっくに退去を完了しているはずだった。
しかし何事にも例外というものがある。内星系中央政権の決定をリスペクトしない自己本位な行動を好むビジターというのは、どこの星系にも、常に少数は存在するものだ。
テラに降り立った攻撃知性体の彼の外観は、今回の任務に合わせて当地惑星住民のビジュアルに近づけたデザインに成型されている。中性的な端正なマスクに輝度の高いゴールドの髪。髪の長さは惑星住民標準に比べるとかなり長い部類に入る。彼のビジュアルデザインを担当した技術者はあまりその惑星住民標準のビジュアル特性をリスペクトはしなかった。いずれにせよ短期間で熱淘汰される原始住民たちなのだ。そんな彼らの美意識や常識的感性を重視してそこに派遣される攻撃知性体のビジュアルに忠実に反映したところで、時間の浪費意外に、特に得るものは何もあるまい、と。
その程度の所感で、技術者のその彼女は単純に彼女の個人的視点から見て美しいと思えるビジュアル像を作り出した。結果、辺境惑星テラに派遣された攻撃知性体の彼の髪の長さは惑星民標準より相当に長く設定された。また瞳の色も、髪の色に合わせて輝くゴールドに設定された。
感情表現に乏しいニュートラルなマスクの中で、口元だけが、やや彼だけの個性を発揮している。具体的には、「常に自信に満ち溢れたような」、「いささか傲慢な印象を与える」角度に唇の片方がわずかに上に傾斜している。それがフェイスビジュアルのデフォルトとされた。そしてもちろんこの特質も、あくまでクリエイターたる技術者の彼女の好みによって決定されたに過ぎない。
彼の身長体格は、現地惑星民標準より10パーセント程度大きめにサイズがとられた。結果、手足は長めで、惑星的価値観からすれば「スタイルがよい」範疇にデザインが納められた。またデフォルトとして身にまとう衣類は、ジャケットから足元のブーツに至るまで、すべてが輝度をいっさい持たない黒系統で統一された。これはただ単に中央政権の正規軍仕様の汎用戦闘スーツデザインをベースに、細部ディテールに多少の改変を加えた結果だ。機動性と伸縮性に富み、戦闘時には高いレベルの衝撃耐性と対磁・耐熱性を持つ機能性スーツだったが、まあおそらく今回の任務に限ってはそれが本来機能を存分に発揮するような高次の戦闘が現地で展開する展望は限りなくゼロに近かった。現地惑星民と内星系中央との技術力の差は歴然、まずもって、現地惑星住民の認知力はあまりにも原始的なレベルにとどまっており、攻撃を直後にひかえた現時点をもってしても、当惑星外の文明の存在すらもいまだに認知していない。
当然、ここに派遣される攻撃知性体による攻撃は一方的かつ短期間で完了すると高確率で予想され、これといった追加の特殊兵装や非知的クローン支援兵の援用すら考慮はされなかった。
テラのローカル呼称でラ・ロルカ山脈と呼ばれる岩がちな中標高の山岳部の一地点に降り立ち、攻撃知性体の彼はテラの惑星時間に換算して20分間の綿密なスキャンを実施した。惑星の気象条件は、テラの季節で言うところの北球の秋、時刻は午後、水蒸気雲の被覆はほぼゼロ、惑星住民の言葉で「快晴」の範疇の好気象だ。惑星の風が攻撃知性体の金色の髪を巻き上げ、その髪は225/08 の方位にむけて流動軌跡を形成しながら静かに浮動し、そしてまたゆるやかに下降する。
『反応がありました』
スキャンがほぼ完了に近づいた時点で、攻撃知性体に対して、彼からみて肩の位置にあるインターフェイスからサウンドメッセージが発信された。
『非惑星知性体の存在周波数を確認。個数は1体。現在地を起点に14/225/232 の座標地点。』
「む。ビジターか。なぜだ。攻撃日時は周知されていたろうに」
彼の唇の端がわずかにゆがめられる。しかめられた眉と合わせたその感情表現は「ばかめ。よけいな手間をかけさせる。」だったが、彼はとくにそれを言語化して発声することはしなかった。
「では、今すぐそこに移動する。」
攻撃知性体の彼は、示されたその座標方向に強い視線を向け、彼の左肩の記章に付属したインターフェイスに向かって声を発した。
『移動を許可します。警告を与えてください。即刻、退避命令を』
「わかっている。」
彼が惑星テラの山塊の表面を蹴り、跳躍移動を開始する。その跳躍速度はテラの惑星住民の標準からすればあまりにも高速であり、仮に付近に惑星住民がいたとしても、その彼の移動行動を視認することはほぼ不可能だったろう。ただそこに、風が立った。そのような表現で、おそらく惑星住民はその移動を表現するに違いない。
2.
彼が移動を完了したその地点には深い森林が展開していた。樹齢数百年以上の樹木が密集し、遠方への視界を遮っている。その地点に着地した時点で彼の感覚センサーが捉えたのは音波だった。周波数にすると69・998・04 付近。知性体としての彼の感性は、その音波を「心地よい」と認識した。それは音楽と呼べるものだった。その音波は、理由は不明ながらその原始林の奥地の地面に設置された「ピアノ」と現地呼称されるローカル楽器から発せられるものだった。
そしてそれを弾いている者。それは外見上、テラ惑星民の女性フォルムに近いものがあった。髪および瞳の色はこの惑星の色彩コードで言うところのアクアブルーとトワイライトパープルの中間色。惑星の夜明けの空のグラデーションの中から、もっとも繊細な部分を抽出したそのブルー系のカラーは、攻撃知性体の彼の感性から見ても「美しい」と認識できた。
長いブルーの髪を肩の下に流して、その、女性フォルムの未確認知性体が、原始的楽器「ピアノ」をひとりで無心に演奏している。身体に着ているのはコットンホワイトを基調とする輝度の高い無彩色の生地。惑星テラの太古の神殿巫女がかつてまとった衣服のフォルムに近いことを知性体の彼は即座に認識したのだが、なぜあえてそのようなローカルな土着デザインを採用したのか、その理由までは推測できなかった。彼女は白く細い首に、ゴールド系のメタルサークルを装着している。惑星民の土着装飾物のフォルム偽装をしているものの、装着位置と素材からして、それは惑星外との通信インターフェイスの一部と見てもよいだろう。
うつむいて演奏を続ける彼女の視点は手元の鍵盤部分のどこかを見ており、攻撃知性体の彼の到着を視認していないようにも見えた。が、それは外見上そのように見えるだけで、彼女はもちろん、認識していた。それどころか、知性体の彼がテラに接近中のその時点から、彼女の感覚センサーは彼の位置を正確に捕捉していた。
「誰だ、おまえは?」
彼の声帯モジュールがヴォイスを発した。その音波は十六の内外星系チャンネルに合致する周波を持っていたため、当然のように、彼女の側もその声の意味を即座に把握することができた。原始楽器の音が止んだ。それからわずかに時間差があって、女性フォルムの知性体が、彼の方に視線を向けた。
「個体呼称は特にありません。おそらくあなたと同じでしょう。」
「ほう? ではおまえも攻撃知性体か?」
純粋に興味を覚えたように、彼の眉の片方が上方に吊り上がる。
「いいえ。わたくしに攻撃機能はありません。ただここに、派遣されただけです。」
「派遣の目的は? 派遣を決めた責任者は?」
「答える義務はあるのでしょうか?」
「…厳密にはない。おれにはそういう法的権限はないからな。ただ単純に、知っておきたいと思っただけだ。なんだ。それらは隠すべき情報なのか?」
「いいえ。特にそういうこともありませんが。」
「では言え。目的は? 誰がおまえを派遣した?」
テラの惑星標準では「傲慢な男」と9割の住民が合意するその言動パターンだったが、攻撃知性体の彼にはその自覚は特にない。ただ単純に、最短時間で目的の答えを引き出すために必要な音声表現だと。その程度の認識で彼はそこにヴォイスを作り出している。
「目的は、救済です。」
「救済? なんだそれは? 意味がよくわからん」
「惑星住民の心を、導くことです。そして彼らに、惑星の自壊行為をただちに中止させること。」
「よくわからんな。自壊行為の回避措置なら、おれがそのために派遣された。特に追加の戦力は期待していない。単純に、おれひとりで実施が可能だ。助力は特に求めていない」
「破壊を伴わない、回避です。あなたは星を、焼きにきたのでしょう?」
彼女がその場で立ち上がる。長いブルーの髪が、惑星の風に流れ、波打った。
「焼くことが第一の目的ではないが。攻撃に付随して熱破壊は起こるな、それは無論。まあしかし当然だろう?」
「わたくしはそれを好みません。わたくし、および、わたくしを派遣した、星団の長たちは。」
「星団の長。なるほど。ではあれか。」
攻撃知性体の彼が、納得したように何度か首をたてに動かした。
「フルロメトン外星団の。やつらがお前の派遣者か。なるほど。それで少しは、理解できた。やつらは何か、内星系の者には理解しがたい非戦論理をふるっていると聞く。おまえはその不明な論理を実行に移す実施者と。そういうわけか?」
「内星系の側からの理解は、特には求めておりません」
毅然とした視線を、彼女は彼に投げつけた。髪色と同じブルー系統の強い視線。彼はその視線を、互角の強さで受け止める。
「で? どのように回避する? 原始住民を熱駆除せずに、どのように惑星自壊を阻止する? やつらは足りない原始技術で惑星コアの重力改変を試み、まさに失敗しつつある。惑星の自壊は秒読みに入っている。どう回避する? あれらを即刻、熱駆除する以外で?」
「それは――」
「この辺境の原始的な惑星文明そのものは無価値だが―― 位置的に惑星テラの急激な非制御的重力変動は、近隣八十八以上の星系の安定基盤の存続に対する未知の不安定リスクを増大させる。そのようなリスクの増大は、防がねばならない。」
「それは――」
「で、結論。惑星生命体を駆除。当地の原始住民、ないしは無知なる原始文明主体を残らず熱処分。それでリスクは回避される。あれらが無知かつ不用意な重力改変行為を完了させる、その前に――」
「熱で焼くだけが、回避方法ではないはずです。あなたがたは――」
「では、どのような手段で? おまえの側の、回避の代替戦術を提案しろ。」
「…そのような一方的な要求に、わたくしが答える義務はありません。」
「そうか。では、音声会話は終了だな」
彼は両目を短時間同時に閉じ、それから視線を足元の森林床に投げ、そこに視線を固定した。
「同じ知性体として、知性体であるお前に通告する。惑星テラ時間の1日のうちに惑星外への退去を。攻撃開始はテラ時間の24時間後。攻撃開始後は、特にはほかの知性体への防護配慮をするよう命じられてはないから、通告に従わぬ場合、お前の側が被弾や熱傷を負うリスクはあると。今ここで警告をしておく」
「…攻撃の中止、ないしは、延期の可能性は?」
彼女が唇を噛み、視線をやはり森林の床にむけた。その視点の付近にある彼女の足は、何もつけない素足。特にブーツなどの防護物は身に着けていなかった。そのままの足が、厚くつもった枯葉の上、苔の植生が覆う、その森の地面を踏んでいる。
「…ないな。可能性はゼロだ。中止する理由が何もない。延期についても同様だ。」
彼は即座に回答する。その唇が、見た目上は微笑のフォルムを形成し、その黄金の目元も、少しやはり、かすかな笑いを表現しているようだ。憐れんでいるのか。可笑しんでいるのか。
別星団からの知性体である彼女は、視界の左方向の隅にその彼の「傲慢なる」微笑を視認しながらも―― 彼女の視野のメイン領域は、今ここで彼女が位置する、惑星の言葉で「神々の森」と呼ばれるこの森林保護区の午後の色彩を追いかけていた。そこには恒星の光線が降り、時刻はこの星の午後。降る光の揺らぎから樹海の天井を埋める太古の木々の枝々の向こうの空には夕方の雲が湧きはじめているはずだが―― ここからそれを目視でとらえることは彼女の能力の外だった。したがって彼女は想像した。その空に湧く雲の姿を。その、光の反射がつくる色彩の渦、さらにそれを超えて高度を上げた位置から見えるであろう、一点の曇りもなく澄みわたる青の惑星の大気の彼方を。
3.
翌日の攻撃は予定通り午後に開始され、最初の2時間で大陸都市の20%が焼かれた。惑星住民現地軍の反撃が確認されたのは3時間が経過した直後のタイミングであり、空軍兵器によるその反撃の第一波は、知性体の彼の発した高熱によって一瞬で消滅し無効化された。
「揚力駆動の有人兵器、か。よくもまあ、そんな原始的なガジェットを今でも使っているものだ。情報としては知っていたが… 実際に目視するとその原始性に驚くほかないな。」
戦闘空域の一点で静止する彼のマインドは一瞬だけそのような個人的感慨を抱いた。それをあえてヴォイスとして言語化することはしなかったが。
そのとき彼の感覚センサーが捉える。それは音波に近いものであったが、惑星住民の可聴領域外に設定されていた。その音波の亜種がここに伝えるのは――
「む。音楽?」
彼の意識が、一瞬、戦闘行動への集中を中断し、その不可視の波の解析理解にエネルギーを傾ける。
その波は「ピアノ」の呼称で呼ばれる惑星の原始楽器の、九十近い弦の響きが発するものだ。それを演奏者はオリジナルの単純な音波から、より遠くまで飛ぶ別の波長へと変換し―― しかしそこで表現されているのは、やはりそれは音楽には違いない。
その音が惑星民の脳内に喚起するイメージは――
太古の森林の百億の葉のさざめき。
そして「鯨」と呼ばれた、すでに惑星上では死滅した、かつての大型海洋生物の発する、ある種の歌にもよく似た求愛の声だ。
なんだこれは。なぜこれを、伝えようとする?
理由はおそらく―― あれか。惑星民の心の深層に、望郷の念―― 惑星への帰属意識を、再認識させる―― おそらくそれが――
そしてその時点で、彼の思考が理解を拒む。
ばかめ、と。
彼の唇がその言葉のフォルムをかたちづくった。
じつに原始的アプローチだな。情緒に訴える、だと? 知性体とは思えぬ戦術チョイスだ。なんなんだ、あの、青髪の知性体―― なぜこのような―― じつに稚拙な――
彼の思考は、しかし、その次の言語を、言語の形で確定させることを躊躇した。
なぜなら彼は――
彼の人造思考の深層は――
その、彼女が奏でる音声を。その歌を。心地よい。うつくしい。そして「なつかしい」と――
心ならずも、そのように解釈し、評価をしようと、していたからだ。
しかし知性体としての彼の意識は、その評価を不適当なものとして退ける。
視線を上げた彼は、炎上する南球の第五大陸の都市部がつくる黒煙の渦、そこを超えた不可視の領域に視点を定める。とても強い視点を。
4.
「なんだ? おまえはおれを非難しているのか?」
夜の森の地面に降り立った彼は、その音声を彼女に発した。
彼女は楽器を弾いてはいなかった。ただその場所、演奏のための木製椅子の上に座った位置から、斜め上方向に視線をむけていた。そして正確にその先には彼の黄金の瞳があった。
「ずいぶん広く、焼いたのですね?」
彼女の声には、いかなる感情のトーンも含まれていない。とてもニュートラルな、無色の音声を彼にむけて投げかける。
「…それほどでもない。星民居住地全体の28%といったところか。ほぼ計画通りの面積に達しているが―― おれとしては、本来、もう少し上回る数字を期待していた。湿度レベルが、あれだな。おれが事前に受け取っていた分析数値よりもだいぶ高いようだ。チャージした熱量が、意外にはやく水蒸気に取られる。4時間が限度、だな。活動限界。」
彼は小さく笑い、首を動作させて、右の肩にかかっていた金色の髪を背中へと流した。
「だが理解したぞ、おまえの意図を。」
「意図?」
「あるいは戦術、と言うべきか? 歌にのせて、イメージで原始住民の心象を操作しようと。そういうわけか。やつらの行動の変化を促す。無意識のレベルで。」
「……」
「どうした。当たりか?」
「…答える義務は、ありません。」
「む。言われれば、そうだな。確かに義務はない。ん。まあいい。」
彼は直立の姿勢を崩し、森林の地面に直接すわった。数十年の落ち葉がつくる天然の絨毯のその上に。そして彼はその背を、樹齢二百年の樹木の根の部分にあずける。
「これよりおれはスリープに入る。」
「どうぞ、お好きに」
「明日の攻撃に備える。待機姿勢で、熱源をチャージする」
「なぜ、わたくしに向けて説明を…?」
「いや。言ってみただけだ。声帯構造を使ってコミュニケーションをとるのは、おれにとってはこれが初日だ。いささか興味深い。すまない、不必要な発声行動だったな?」
「…いえ――」
「ところでおまえはスリープに移行しないのか?」
「いいえ。わたくしは眠りを必要としません。」
「そうか。よくできた機構だな。このおれのボディよりも――」
その音声を最後に、彼は音声でのコミュニケーションを終了する。
彼は二つの目を深く閉じ、スリープに移行する。
彼の周囲で、かすかな微小な光源が無数に舞い、彼のボディへと、ゆるやかな速度で吸い寄せられるように―― 無数の光源が、音もなく移動をし続ける。彼の黄金の髪が、その光源を吸収し、さらに煌めくゴールドへと変化をし続ける。翌日の攻撃に備え、熱源をチャージ、しているのだと。その単純な事実は、至近の距離でそれを見ている知性体の彼女も当然理解はしていた。しかしその、星の破壊の最終過程の―― この夜の森の光景そのものは――
とても綺麗、と。
ブルーの瞳がつくる彼女の視覚は、そのように認識せざるを得ない。夜の森の一角が、静かな輝きに満ちている。それはもうすでに失われた、この惑星の太古の言葉で―― 「神聖」と。そう表現しても、それにふさわしい光の景色だと。彼女はそのように、認めざるを得なかった。心ならずも。
その美しきひとりの破壊者が、夜の森の底、神々しい光に包まれ、無垢なる寝顔を浮かべて―― そこに静かに、とどまっている。まるで数億年の昔より、その彼はこの神々の森の自然な一部を成してきたのだと―― まるでそのように、見る者に伝えるかのように。
5.
二日目の破壊で、大陸の街の六割が失われた。
燃え盛る北球の首都圏の煙をはるか遠景に置き去りにして、
帰還した彼が森の底で目にしたのは、そこでひとり涙を流す彼女の姿だった。
光る水滴が彼女の両目から流れ落ち、休みなく鍵盤の上をいまも移動し続ける彼女の細い指の間で砕けては散り消える。
「ほう? 涙。その涙には、いったいどういう意図がある?」
彼がそばまで歩み寄り、弾く手を止めない彼女の肩越しに、質問の音声を投げかけた。
「あなたは、あまりにも、壊しすぎます。」
彼女が静かに、言葉を返した。深いブルーの瞳の上に、新たな涙が盛り上がる。
「あなたが焼いたあの森は―― 数百年にわたって、ずっと、この星の人たちの、心の、ふるさと、だったのですよ?」
「森。あれは派生的なものだ。ターゲットはその北縁の都市部。そしてむしろ、あそこを焼いたのはおれではなく惑星民側だ。まさかあの保護区の付近で、核熱兵器を使用するとは。おれも予想はしていなかった」
「嘘です。予想は、できたでしょう。」
「嘘。その概念は新鮮だ。おれの故郷の知性体には、そのような概念は存在しない。嘘、などというものを、使用する意味がないからな。またその価値もない。おまえはあれだな。知性体としては―― やはりどうも、われわれの――」
「あなたは価値を知らなさすぎます。壊すことの、その簡単さに比べて――」
「森林再生か? 200年もあれば完了するだろう。存外、植物体は放射性熱源に強い。破壊後200年などすぐだ。再生上の問題は特にない。だが、そもそもあの森は、再生に値するほど星系レベルで価値を持つものとは――」
しかし彼はその言葉を最後までは完了しない。彼女がそれを―― 聴くことを拒否していると。そのように彼は判断したからだ。誰にも聴かれない音声を、ヴォイスとして発声する意味はない。そのような判断に基づいて、彼はそのフレーズを終わりまで言わずに中断した。
そしてほどなく、また、昨日と同じように、昨夜と同じ姿勢で、スリープへと移行する。光がふたたび彼に集まる。彼の金色の髪が、夜の森の中で輝く。
その光り輝く森で―― 今夜も楽器は、止むことはない。
彼女の涙は、今はもう、止まっている。彼女は今は、泣いてはいない。
金色の光に包まれた、その深い森の奥底で――
彼女は音を。星の歌を。いまも遠くに。この燃え行く星の隅々へと。
彼女は眠らず、歌を届けた。
どうか。どうか。
聴いてください。人々よ。
あなたたちの、この、美しい星は今――
彼女の歌は―― やがて破壊の三日目の朝がきて――
その美しき金色の光が深い朝靄のなかでしずかに消えてゆく――
その時間になっても。
彼女は歌を、やめることはない。
いつまでも。いつまでも。
彼女はここで、音を奏でて。
届けて。いたいと。いつまでも。この、彼女の愛するこの星の、
すべての人々に、この歌を、届けて――
6.
ピアノの破壊は一瞬だった。
同時に彼女のボディの外殻を形成していた、温度を持ったその柔軟なマテリアルも――
着弾したのは、結果的に数千を数えた現地惑星民の対地砲撃の第一波。
太古の森の至るところで。炎が上がる。黒煙の柱が森の樹冠をはるかに超えて、深くたなびく朝靄を破って次々と空に向かって突き抜けていく。
「む? こちらの位置を特定したか。意外だな。惑星民の原始技術を、少々低く、見すぎていたか。」
スリープを強制解除して戦闘モードに移行中の彼の髪が、ゴールドカラーから熱を帯びたレッドの色調に移行する。彼の瞳も、きらめくゴールドから、燃え立つ赤へと色味を変えていく。
「おい、おまえ。まだ思考ユニットは生きているか? 聞こえるか、おまえ?」
少なくとも11の小パーツへと瞬時に破断して森の各所にちらばった彼女のボディのコアな一部にむけて、彼はヴォイスを投げてみる。
六秒待ったが、返事はなかった。
む。コアユニットが破壊されたか。不運だな。あれらの兵器の着弾精度はそれほど高くない、にもかかわらず――
彼の心には、それ以上の分析思考は発生しなかった。以降は意識を、攻撃の方向に特化する。熱源を右の腕部に集中。そしてボディの重力調整を行って浮上。地平線上の空から接近しつつある原始民の連合空軍部隊の広範にむけて、ゆっくりと左から右へと、距離を定めて熱放射。たちまち炎上し、際限なく落下を続ける原始民の浮動兵器の群れ。
「愚かだな、惑星民は」
熱攻撃の一波を完了した彼が、小さく発声した。
「熱処分以外の回避策を最後まで模索した、あいつはむしろ、味方だったろうに。それを、あのように――」
炎上する神々の森。しかしもう、空中の一点に静止する彼の位置からは、さきほどまで知性体だった彼女のボディの残骸を確認することは不可能だ。彼は視線を、燃える森から夜から朝へと移行を続ける空に上げ――
それからふたたび、地平に向けた。そして彼は見る。
その―― 彼がこれより焼き尽くすであろう―― 残る二つの大陸へと続いていく―― その黒煙と炎と飛ぶものの喧騒に満ち満ちた、終わりゆく星の、最後の朝の光景を。
7.
すべての破壊が終了し、
彼が戻ってきたのは、やはりその、森。
しかしもはや森と呼ぶには、もう何もかもが――
崩れて、焦げて、変わり果ててしまったが――
「終わった。」
その黒く焦げてすすけた、今もまだかすかに煙を上げる地面にすわり、彼は言った。
もうそのヴォイスを認識する者が消え果た、この燃え続ける星の一角で、そのヴォイスを誰に届けるのかは、彼にも把握はできなかった。が、しかし今は、もう少し。そのヴォイスを。ここで続けて。言葉を投げたい、感慨があった。
奇妙な感情だ。それは。
彼自身の語彙の中には存在しないはずの感情で。
しかし彼は、その感情を、否定することはできないと。自分でそれは、認めてはいた。彼には嘘をつくという、その概念がないからだ。だから自分にも、嘘をつくことはできない。
「200年だ。それだけ待てば、ここにも森は再生する。おい。聴いているか? いや。聞こえるはずもないものな。おれはいったい何を言っている」
彼は自嘲するようにかすかに唇の端を上げ、それから、まだ煙で満たされた、星のない夜空を見つめた。星はもう何日も見ることはできないだろう。あるいは何百日も、見ることはできないだろう。すでに大陸のすべての街を燃やし尽くしたその炎は、今もまだ光なき夜空の下で、ひたすらに星の大気を焦がし続けている。
『攻撃知性体。任務完了の報告を受領。それではこれより長期スリープへ移行を。回収は現地テラ時間で400年次以降となります。それまでエネルギー代謝を最低限に設定し、現地待機を』
肩の記章のインターフェイスが音声メッセージを受信した。
「了解した。これより長期スリープを―― 開始―― する――」
そのヴォイスが終了した直後から、
もうその星の上では、意思あるヴォイスを発する存在は完全に消滅する。
星は長い眠りに入っていった。長い長い眠りに。
その星の眠りに合わせて―― 知性体である彼もまた――
眠りへ―― 浅い、光ない、純粋なる暗きまどろみの中へ――
意識全体が落ち込んで。すべての思考は、闇の中に。無の奥へと収斂して消えてゆく。
すべてがいま、意識から無意識へ。すべてが存在から、非存在へと。
その位置を。軸を。たしかに静かに、シフトを開始した。
そしてすべては―― そしてすべてが―― そこへ――
8.
200年後のスリープ解除が、知性体である彼自身の意図したものだったのかは定かではない。
なぜ今、ここで覚醒なのか。なぜ200年?
スリープ解除直後の彼の思考は――
最初のその問いに対する結論を得られぬまま、彼はその場で立ち上がる。
世界に光が降っている。森に光が満ちている。
時刻は午後。そこは深き、光に満ちた森の中だった。
いつか彼がここで見た、あの神々の森とは、姿は大きく様変わりしていたものの――
「む。予想した通り、だな。200年。あるいは160年程度でも、植生再生上の問題なかったというわけか――」
各部の関節ジョイントの動きをひとつひとつ確かめるように。光の森を彼の足が踏んでゆく。鳥たちの歌声が頭のうえから降ってくる。森は光に満ちている。森に光が降っている。
彼はそして、その場所で足を止めていた。
止める意図はなかったのだが。視覚反射で、そこで動作を止めた。
光の柱がおりてくる、森の広場のその中央――
地面の上で苔に覆われ、いびつに盛り上がったその構造物。
あるいは遺骸。それはかつての――
「原始楽器、か。驚いたな。200年後にも、まだ痕跡が確認できるとは。」
破壊された、かつて「ピアノ」と呼ばれたその白木でできた太古の民が奏でた楽器の一部―― それは今では残骸であり―― 今ではそれは、もう、歌を奏でることはできない。
無数の鳥たちの羽音が、頭上の光の中ではためいて。
知性体の彼のそのマインドは――
その鳥たちの羽音にのせて。
かつてそこで、彼女がつむいだその音の広がりを。
その純粋な、遠い場所まで届いてやまない、あの、青い瞳の彼女の歌を。
彼はいま、記憶のアーカイブの中から。彼はそれを。かろうじて残るその音を、マインドの中で再生し。再生し。再生――
遠い海鳴りを、彼は今、聞いた気がした。
そこでは鯨と呼ばれた今は亡き海獣たちが、恋の歌を、まだそこで歌い続けている。
彼の思索はそこで中断する。
彼は視線を25度の角度で上方に移動。記憶のアーカイブに向けられていた彼の意識のすべてが、瞬時に外部環境の把握に向けて鋭く集中する。
彼の感覚センサーが、捉えたのだ。
それが捉えたのはもちろん海鳴りでもなく、今は亡き海獣の歌声でもない。
現実に存在するノイズだ。
距離は遠い。位置で言えば、約200年前に彼が焼きつくした第四大陸の、弓形に湾曲する半島部の東側の部分。
そこから発せられるのは、木々や風や鳥たちの声以外の、実態不明な雑多なノイズの集合。その複雑なノイズのパターンに最も近いものが何かは、彼はもう知っている。
「原始住民の、生活音、だと…?」
彼は絶句した。彼は確かに知っている。テラ上の各大陸の現地住民の残存数は当時確実にゼロだった。大陸すべてを覆ったあの超高温の炎の中で生存できる個体など存在するはずもなかったのだ。しかし、それなのに、なぜ。
高速でマインドを走らせながら、同時に彼は地面を蹴る。午後の森に風が立ち、森の樹冠がざわめいた。そのざわめきが静まった時には、光降る森には攻撃知性体の姿はもはやない。その時点ですでに、彼は黄金の髪をなびかせ、はるかに森から隔たった丘の連なりの上空を滑空していた。
9.
着地したその地点は、海に突き出した長い岬の先端部だった。そこは植物の被覆のごく少ない、赤茶けた酸化鉄質の岩山の一部分。岩山の東側は波の浸食を受け、はるか眼下に幅の狭い赤砂の浜が形成されている。
彼の視線が固定されたのは、その弓なりに続く浜の先。
そこに惑星民の村があった。
村と呼ぶには規模は小さく、集落と呼ぶにも、いささか不十分なものだ。波打ち際に、椰子の葉で屋根をふいた粗末な小屋が十数戸、集まっている。夕食の準備をしているのだろう、家々の屋根からはかすかに白い蒸気が立ちのぼる。ある家の内部からは惑星民の乳児の泣き声があがり、それをあやす母親らしい女の声が続いた。その小村のさらに先、そこに続く砂浜を、粗末な麻織(あさおり)の布を体に巻きつけた惑星民の幼児らが笑い声をあげて駆けまわり、白の小犬がキャンキャン吠えながらそのあとを追っていた。
「なんだ… これは… 残存民、だと…? しかしそんなはずは――」
彼は立ち尽くし、そこに広がる信じがたい光景を視野にとらえ、そこにある景色の意味を理解しようとマインドを走らせた。しかしその意味は彼には、即座には理解できない。たしかにすべてを焼いたはずだ。惑星民の生体反応が惑星レベルでゼロになるのを、たしかに自分は複数回、繰り返しチェックし最終検証もしたはずで――
「ずいぶん長く、眠っていたのですね?」
後ろから音声が飛んでくる。彼はふりむき、熱を右腕に集中させて即座に攻撃の姿勢をとった。
「おまえは――」
攻撃動作を中断し、黄金の瞳を見開いた。その先の言葉は、彼の唇を出る前に消えていく。
そこに彼女が立っている。
夕方の海風を受けて波打つ、どこまでも深いブルーの髪。無垢なる素足が二つ、酸化鉄の地面を踏む。足先近くまでを隠すホワイトドレスのスカートが風をはらみ、大きくゆるやかにはためいて。
「ふふ、あなたも驚くことがあるのですね?」
女は唇に笑いをためる。夕方の海と同じ深さの青の瞳が相手をまっすぐ捉える。女は問いかけるように首をかすかに傾け、相手の答えを待たずに、その視線をゆっくりと海の彼方にむけた。
「…自己再生、したのか。そういう機構が備わっているとは知らなかったな」
ようやく彼が言葉を発した。高速で思考を続ける彼のマインドは、しかし、この場で展開しつつあるこの会話、今ここで見ている景色の意味を、まだ正確に捉えられずにいる。攻撃知性体の彼の長い髪が、吹き寄せる海風の中、もつれるように波打った。夕陽は水平線へと少しずつ高度を下げ、彼の髪を、彼の端正な横顔を、輝く金色に染め上げる。
「ええ。時間はかかりましたけれどね。26年と、もう少し。わたくしの再生が終わったとき、あなたはまだぐっすり寝ていました。無防備でしたね。わたくしが攻撃すれば、危なかったでしょう」
女の声が、少し笑っている。
「…ではなぜ攻撃しなかった。絶好の機会だったろう?」
「前にも言いましたが、わたくしには攻撃機能はありません。それはわたくしの役目ではありませんから」
「だが、これは何だ? なぜ惑星民が、まだここにいる? おまえはどこか地表下に、やつらの待避所を設営していたのか?」
「いいえ。そういったものはなかったですね」
「では何をした? おれに理解できるよう説明しろ」
「遺伝子コードと構成元素の基礎情報がある限り、またゼロから、小さな規模でやりなおすことは、それほど難しくはありません」
「…では。おまえが創造したのか? あれを? あの者たちを?」
「それほど大げさなものではないです。ただここに、また、小さな種を植えただけ。わたくしはただ、見守るだけの存在。それ以上のことは、あまり多くはできません」
「…まったく。理解に苦しむな。おまえたち、外星団の者たちは――」
彼は小さく舌を打つ。しかしその視線は、かすかに笑いを含んでいるようだ。
「内星系からの理解は、もとよりわたくし、求めておりません。」
彼女の唇が小さく微笑を返す。視線もかすかに、笑っていただろう。
「たしか以前にもそれを、おまえは言ったな。だが――」
彼は視線を下に移す。夕暮れの長い波打ち際を、惑星民の幼児たちが競うようにかけてゆく。波の音が世界の隅で反響を繰り返す。夕陽は黄金の輝度を増し、その光が今では広く海面をも輝かす。
すべてが純粋なゴールドに染まったその世界の片隅で。
ふたつの異なる存在が、それぞれの思惑、それぞれの視線をもって、
そこに広がる暮れゆく世界を見つめている。今ではもう圧倒的なまでの輝きとなった、金色に満たされたその単純な景色の先を。
「ふむ。だが。俺の側は、いささか興味が湧いたぞ。少しいま、興味を持った。おまえと、お前が意図する、その何らかの長期計画の、今後のここでの展開に」
彼のその視線は、彼女の方を見ていない。その視線はどこか、金の世界のはるかな先を見て。
「まあしかし。やつらがまた数千万規模にまで増殖し、半端な技術をもってこの星の重力場を攪乱しはじめるまで、短く見積もって数百年程度、といったところか」
「…必ずそうなるとは、限らないと思います」
「そうなるだろうと俺の方は予測する。だがまあ、それはいい。仮にそうなったとしても、その時はまた、俺か、俺の代わりの誰かがこの星の表面を単純に焼き尽くすまでだ。そこに大きな技術的困難はない」
「…そうなるとは、限らないと思います」
「おまえは過度に楽観的、かつ、不正確な予測の持ち主だな」
「…その言葉は、あなたの意見として聞いておきましょう」
「ふむ。では、ひとまず見させてもらおうか。お前がこれから―― ここで作ろうとする、ここでお前が描く、新しい世界図の行き先を。俺自身の回収までにはあと200年あまり。それまで俺は、ここでしばし、観察させてもらおう。」
彼はそして姿勢を低くし、そこの岩の地面に座った。足を断崖の外に投げ出して、はるか下方の海面に、視線をゆるく投げ落とす。唇の端には、小さな笑みがこぼれていたが―― 彼自身にも、なぜその感情表現が必要なのかは、正確には把握できないでいた。ただ無性に―― なにか無性に、心地よかった。ここでこうして、彼女と会話をかわしつつ、無益に費やすここでの時間が。無駄とも思えるここでのすべてが。
「それはどうぞ、ご自由に。もしあなたがそうしたければ。」
「お前の許可は求めていない。これはおれの側の意思であり、決定だ」
「…ですから。ご自由に、と。いまわたくしは申し上げました」
「なんだ、笑っているのか?」
「…いえ、」
「なんだ? なにが可笑しい?」
「いいえ。とくには、何も。」
彼女はその端正な唇の端に小さな笑いをためたまま――
彼から数歩と離れていないその場所から、いま彼が見ているのと同じ、光の彼方の一点に視点を固定した。光に染まったドレスが優雅に風にはためき、無垢な素足が、岩の地面を踏んでいる。その深きブルーの髪が、まるで海そのもののように、海風の中でゆっくり上下に波打った。
輝きを増しゆく夕陽。高度を限りなく下げゆく夕陽。そこにある潮騒(しおさい)。風の音。光が覆うこの小さな世界のすべてを。そこに立つ彼女のそばで、彼は今―― 楽しんで、いたのだ。不本意にも。無自覚にも。
回収までの期間は、200年余。
彼はその待機時間を―― 彼自身の意思により、いささか無為なる観察行為に費やすという、彼自身にもいささか意外性のあるその決断を。
攻撃知性体の彼は今、ここで、確かにくだしたのだ。彼の瞳と同色系の光に満たされた、この辺境の惑星の、名もなき岬の岩山の上で。
攻撃知性体によるこの惑星の攻撃計画は広くダメルダーフ銀河星系の十六星域に周知されていたので、当然、好奇心本位で訪れる各星系からの観光ビジターたちは、もうとっくに退去を完了しているはずだった。
しかし何事にも例外というものがある。内星系中央政権の決定をリスペクトしない自己本位な行動を好むビジターというのは、どこの星系にも、常に少数は存在するものだ。
テラに降り立った攻撃知性体の彼の外観は、今回の任務に合わせて当地惑星住民のビジュアルに近づけたデザインに成型されている。中性的な端正なマスクに輝度の高いゴールドの髪。髪の長さは惑星住民標準に比べるとかなり長い部類に入る。彼のビジュアルデザインを担当した技術者はあまりその惑星住民標準のビジュアル特性をリスペクトはしなかった。いずれにせよ短期間で熱淘汰される原始住民たちなのだ。そんな彼らの美意識や常識的感性を重視してそこに派遣される攻撃知性体のビジュアルに忠実に反映したところで、時間の浪費意外に、特に得るものは何もあるまい、と。
その程度の所感で、技術者のその彼女は単純に彼女の個人的視点から見て美しいと思えるビジュアル像を作り出した。結果、辺境惑星テラに派遣された攻撃知性体の彼の髪の長さは惑星民標準より相当に長く設定された。また瞳の色も、髪の色に合わせて輝くゴールドに設定された。
感情表現に乏しいニュートラルなマスクの中で、口元だけが、やや彼だけの個性を発揮している。具体的には、「常に自信に満ち溢れたような」、「いささか傲慢な印象を与える」角度に唇の片方がわずかに上に傾斜している。それがフェイスビジュアルのデフォルトとされた。そしてもちろんこの特質も、あくまでクリエイターたる技術者の彼女の好みによって決定されたに過ぎない。
彼の身長体格は、現地惑星民標準より10パーセント程度大きめにサイズがとられた。結果、手足は長めで、惑星的価値観からすれば「スタイルがよい」範疇にデザインが納められた。またデフォルトとして身にまとう衣類は、ジャケットから足元のブーツに至るまで、すべてが輝度をいっさい持たない黒系統で統一された。これはただ単に中央政権の正規軍仕様の汎用戦闘スーツデザインをベースに、細部ディテールに多少の改変を加えた結果だ。機動性と伸縮性に富み、戦闘時には高いレベルの衝撃耐性と対磁・耐熱性を持つ機能性スーツだったが、まあおそらく今回の任務に限ってはそれが本来機能を存分に発揮するような高次の戦闘が現地で展開する展望は限りなくゼロに近かった。現地惑星民と内星系中央との技術力の差は歴然、まずもって、現地惑星住民の認知力はあまりにも原始的なレベルにとどまっており、攻撃を直後にひかえた現時点をもってしても、当惑星外の文明の存在すらもいまだに認知していない。
当然、ここに派遣される攻撃知性体による攻撃は一方的かつ短期間で完了すると高確率で予想され、これといった追加の特殊兵装や非知的クローン支援兵の援用すら考慮はされなかった。
テラのローカル呼称でラ・ロルカ山脈と呼ばれる岩がちな中標高の山岳部の一地点に降り立ち、攻撃知性体の彼はテラの惑星時間に換算して20分間の綿密なスキャンを実施した。惑星の気象条件は、テラの季節で言うところの北球の秋、時刻は午後、水蒸気雲の被覆はほぼゼロ、惑星住民の言葉で「快晴」の範疇の好気象だ。惑星の風が攻撃知性体の金色の髪を巻き上げ、その髪は225/08 の方位にむけて流動軌跡を形成しながら静かに浮動し、そしてまたゆるやかに下降する。
『反応がありました』
スキャンがほぼ完了に近づいた時点で、攻撃知性体に対して、彼からみて肩の位置にあるインターフェイスからサウンドメッセージが発信された。
『非惑星知性体の存在周波数を確認。個数は1体。現在地を起点に14/225/232 の座標地点。』
「む。ビジターか。なぜだ。攻撃日時は周知されていたろうに」
彼の唇の端がわずかにゆがめられる。しかめられた眉と合わせたその感情表現は「ばかめ。よけいな手間をかけさせる。」だったが、彼はとくにそれを言語化して発声することはしなかった。
「では、今すぐそこに移動する。」
攻撃知性体の彼は、示されたその座標方向に強い視線を向け、彼の左肩の記章に付属したインターフェイスに向かって声を発した。
『移動を許可します。警告を与えてください。即刻、退避命令を』
「わかっている。」
彼が惑星テラの山塊の表面を蹴り、跳躍移動を開始する。その跳躍速度はテラの惑星住民の標準からすればあまりにも高速であり、仮に付近に惑星住民がいたとしても、その彼の移動行動を視認することはほぼ不可能だったろう。ただそこに、風が立った。そのような表現で、おそらく惑星住民はその移動を表現するに違いない。
2.
彼が移動を完了したその地点には深い森林が展開していた。樹齢数百年以上の樹木が密集し、遠方への視界を遮っている。その地点に着地した時点で彼の感覚センサーが捉えたのは音波だった。周波数にすると69・998・04 付近。知性体としての彼の感性は、その音波を「心地よい」と認識した。それは音楽と呼べるものだった。その音波は、理由は不明ながらその原始林の奥地の地面に設置された「ピアノ」と現地呼称されるローカル楽器から発せられるものだった。
そしてそれを弾いている者。それは外見上、テラ惑星民の女性フォルムに近いものがあった。髪および瞳の色はこの惑星の色彩コードで言うところのアクアブルーとトワイライトパープルの中間色。惑星の夜明けの空のグラデーションの中から、もっとも繊細な部分を抽出したそのブルー系のカラーは、攻撃知性体の彼の感性から見ても「美しい」と認識できた。
長いブルーの髪を肩の下に流して、その、女性フォルムの未確認知性体が、原始的楽器「ピアノ」をひとりで無心に演奏している。身体に着ているのはコットンホワイトを基調とする輝度の高い無彩色の生地。惑星テラの太古の神殿巫女がかつてまとった衣服のフォルムに近いことを知性体の彼は即座に認識したのだが、なぜあえてそのようなローカルな土着デザインを採用したのか、その理由までは推測できなかった。彼女は白く細い首に、ゴールド系のメタルサークルを装着している。惑星民の土着装飾物のフォルム偽装をしているものの、装着位置と素材からして、それは惑星外との通信インターフェイスの一部と見てもよいだろう。
うつむいて演奏を続ける彼女の視点は手元の鍵盤部分のどこかを見ており、攻撃知性体の彼の到着を視認していないようにも見えた。が、それは外見上そのように見えるだけで、彼女はもちろん、認識していた。それどころか、知性体の彼がテラに接近中のその時点から、彼女の感覚センサーは彼の位置を正確に捕捉していた。
「誰だ、おまえは?」
彼の声帯モジュールがヴォイスを発した。その音波は十六の内外星系チャンネルに合致する周波を持っていたため、当然のように、彼女の側もその声の意味を即座に把握することができた。原始楽器の音が止んだ。それからわずかに時間差があって、女性フォルムの知性体が、彼の方に視線を向けた。
「個体呼称は特にありません。おそらくあなたと同じでしょう。」
「ほう? ではおまえも攻撃知性体か?」
純粋に興味を覚えたように、彼の眉の片方が上方に吊り上がる。
「いいえ。わたくしに攻撃機能はありません。ただここに、派遣されただけです。」
「派遣の目的は? 派遣を決めた責任者は?」
「答える義務はあるのでしょうか?」
「…厳密にはない。おれにはそういう法的権限はないからな。ただ単純に、知っておきたいと思っただけだ。なんだ。それらは隠すべき情報なのか?」
「いいえ。特にそういうこともありませんが。」
「では言え。目的は? 誰がおまえを派遣した?」
テラの惑星標準では「傲慢な男」と9割の住民が合意するその言動パターンだったが、攻撃知性体の彼にはその自覚は特にない。ただ単純に、最短時間で目的の答えを引き出すために必要な音声表現だと。その程度の認識で彼はそこにヴォイスを作り出している。
「目的は、救済です。」
「救済? なんだそれは? 意味がよくわからん」
「惑星住民の心を、導くことです。そして彼らに、惑星の自壊行為をただちに中止させること。」
「よくわからんな。自壊行為の回避措置なら、おれがそのために派遣された。特に追加の戦力は期待していない。単純に、おれひとりで実施が可能だ。助力は特に求めていない」
「破壊を伴わない、回避です。あなたは星を、焼きにきたのでしょう?」
彼女がその場で立ち上がる。長いブルーの髪が、惑星の風に流れ、波打った。
「焼くことが第一の目的ではないが。攻撃に付随して熱破壊は起こるな、それは無論。まあしかし当然だろう?」
「わたくしはそれを好みません。わたくし、および、わたくしを派遣した、星団の長たちは。」
「星団の長。なるほど。ではあれか。」
攻撃知性体の彼が、納得したように何度か首をたてに動かした。
「フルロメトン外星団の。やつらがお前の派遣者か。なるほど。それで少しは、理解できた。やつらは何か、内星系の者には理解しがたい非戦論理をふるっていると聞く。おまえはその不明な論理を実行に移す実施者と。そういうわけか?」
「内星系の側からの理解は、特には求めておりません」
毅然とした視線を、彼女は彼に投げつけた。髪色と同じブルー系統の強い視線。彼はその視線を、互角の強さで受け止める。
「で? どのように回避する? 原始住民を熱駆除せずに、どのように惑星自壊を阻止する? やつらは足りない原始技術で惑星コアの重力改変を試み、まさに失敗しつつある。惑星の自壊は秒読みに入っている。どう回避する? あれらを即刻、熱駆除する以外で?」
「それは――」
「この辺境の原始的な惑星文明そのものは無価値だが―― 位置的に惑星テラの急激な非制御的重力変動は、近隣八十八以上の星系の安定基盤の存続に対する未知の不安定リスクを増大させる。そのようなリスクの増大は、防がねばならない。」
「それは――」
「で、結論。惑星生命体を駆除。当地の原始住民、ないしは無知なる原始文明主体を残らず熱処分。それでリスクは回避される。あれらが無知かつ不用意な重力改変行為を完了させる、その前に――」
「熱で焼くだけが、回避方法ではないはずです。あなたがたは――」
「では、どのような手段で? おまえの側の、回避の代替戦術を提案しろ。」
「…そのような一方的な要求に、わたくしが答える義務はありません。」
「そうか。では、音声会話は終了だな」
彼は両目を短時間同時に閉じ、それから視線を足元の森林床に投げ、そこに視線を固定した。
「同じ知性体として、知性体であるお前に通告する。惑星テラ時間の1日のうちに惑星外への退去を。攻撃開始はテラ時間の24時間後。攻撃開始後は、特にはほかの知性体への防護配慮をするよう命じられてはないから、通告に従わぬ場合、お前の側が被弾や熱傷を負うリスクはあると。今ここで警告をしておく」
「…攻撃の中止、ないしは、延期の可能性は?」
彼女が唇を噛み、視線をやはり森林の床にむけた。その視点の付近にある彼女の足は、何もつけない素足。特にブーツなどの防護物は身に着けていなかった。そのままの足が、厚くつもった枯葉の上、苔の植生が覆う、その森の地面を踏んでいる。
「…ないな。可能性はゼロだ。中止する理由が何もない。延期についても同様だ。」
彼は即座に回答する。その唇が、見た目上は微笑のフォルムを形成し、その黄金の目元も、少しやはり、かすかな笑いを表現しているようだ。憐れんでいるのか。可笑しんでいるのか。
別星団からの知性体である彼女は、視界の左方向の隅にその彼の「傲慢なる」微笑を視認しながらも―― 彼女の視野のメイン領域は、今ここで彼女が位置する、惑星の言葉で「神々の森」と呼ばれるこの森林保護区の午後の色彩を追いかけていた。そこには恒星の光線が降り、時刻はこの星の午後。降る光の揺らぎから樹海の天井を埋める太古の木々の枝々の向こうの空には夕方の雲が湧きはじめているはずだが―― ここからそれを目視でとらえることは彼女の能力の外だった。したがって彼女は想像した。その空に湧く雲の姿を。その、光の反射がつくる色彩の渦、さらにそれを超えて高度を上げた位置から見えるであろう、一点の曇りもなく澄みわたる青の惑星の大気の彼方を。
3.
翌日の攻撃は予定通り午後に開始され、最初の2時間で大陸都市の20%が焼かれた。惑星住民現地軍の反撃が確認されたのは3時間が経過した直後のタイミングであり、空軍兵器によるその反撃の第一波は、知性体の彼の発した高熱によって一瞬で消滅し無効化された。
「揚力駆動の有人兵器、か。よくもまあ、そんな原始的なガジェットを今でも使っているものだ。情報としては知っていたが… 実際に目視するとその原始性に驚くほかないな。」
戦闘空域の一点で静止する彼のマインドは一瞬だけそのような個人的感慨を抱いた。それをあえてヴォイスとして言語化することはしなかったが。
そのとき彼の感覚センサーが捉える。それは音波に近いものであったが、惑星住民の可聴領域外に設定されていた。その音波の亜種がここに伝えるのは――
「む。音楽?」
彼の意識が、一瞬、戦闘行動への集中を中断し、その不可視の波の解析理解にエネルギーを傾ける。
その波は「ピアノ」の呼称で呼ばれる惑星の原始楽器の、九十近い弦の響きが発するものだ。それを演奏者はオリジナルの単純な音波から、より遠くまで飛ぶ別の波長へと変換し―― しかしそこで表現されているのは、やはりそれは音楽には違いない。
その音が惑星民の脳内に喚起するイメージは――
太古の森林の百億の葉のさざめき。
そして「鯨」と呼ばれた、すでに惑星上では死滅した、かつての大型海洋生物の発する、ある種の歌にもよく似た求愛の声だ。
なんだこれは。なぜこれを、伝えようとする?
理由はおそらく―― あれか。惑星民の心の深層に、望郷の念―― 惑星への帰属意識を、再認識させる―― おそらくそれが――
そしてその時点で、彼の思考が理解を拒む。
ばかめ、と。
彼の唇がその言葉のフォルムをかたちづくった。
じつに原始的アプローチだな。情緒に訴える、だと? 知性体とは思えぬ戦術チョイスだ。なんなんだ、あの、青髪の知性体―― なぜこのような―― じつに稚拙な――
彼の思考は、しかし、その次の言語を、言語の形で確定させることを躊躇した。
なぜなら彼は――
彼の人造思考の深層は――
その、彼女が奏でる音声を。その歌を。心地よい。うつくしい。そして「なつかしい」と――
心ならずも、そのように解釈し、評価をしようと、していたからだ。
しかし知性体としての彼の意識は、その評価を不適当なものとして退ける。
視線を上げた彼は、炎上する南球の第五大陸の都市部がつくる黒煙の渦、そこを超えた不可視の領域に視点を定める。とても強い視点を。
4.
「なんだ? おまえはおれを非難しているのか?」
夜の森の地面に降り立った彼は、その音声を彼女に発した。
彼女は楽器を弾いてはいなかった。ただその場所、演奏のための木製椅子の上に座った位置から、斜め上方向に視線をむけていた。そして正確にその先には彼の黄金の瞳があった。
「ずいぶん広く、焼いたのですね?」
彼女の声には、いかなる感情のトーンも含まれていない。とてもニュートラルな、無色の音声を彼にむけて投げかける。
「…それほどでもない。星民居住地全体の28%といったところか。ほぼ計画通りの面積に達しているが―― おれとしては、本来、もう少し上回る数字を期待していた。湿度レベルが、あれだな。おれが事前に受け取っていた分析数値よりもだいぶ高いようだ。チャージした熱量が、意外にはやく水蒸気に取られる。4時間が限度、だな。活動限界。」
彼は小さく笑い、首を動作させて、右の肩にかかっていた金色の髪を背中へと流した。
「だが理解したぞ、おまえの意図を。」
「意図?」
「あるいは戦術、と言うべきか? 歌にのせて、イメージで原始住民の心象を操作しようと。そういうわけか。やつらの行動の変化を促す。無意識のレベルで。」
「……」
「どうした。当たりか?」
「…答える義務は、ありません。」
「む。言われれば、そうだな。確かに義務はない。ん。まあいい。」
彼は直立の姿勢を崩し、森林の地面に直接すわった。数十年の落ち葉がつくる天然の絨毯のその上に。そして彼はその背を、樹齢二百年の樹木の根の部分にあずける。
「これよりおれはスリープに入る。」
「どうぞ、お好きに」
「明日の攻撃に備える。待機姿勢で、熱源をチャージする」
「なぜ、わたくしに向けて説明を…?」
「いや。言ってみただけだ。声帯構造を使ってコミュニケーションをとるのは、おれにとってはこれが初日だ。いささか興味深い。すまない、不必要な発声行動だったな?」
「…いえ――」
「ところでおまえはスリープに移行しないのか?」
「いいえ。わたくしは眠りを必要としません。」
「そうか。よくできた機構だな。このおれのボディよりも――」
その音声を最後に、彼は音声でのコミュニケーションを終了する。
彼は二つの目を深く閉じ、スリープに移行する。
彼の周囲で、かすかな微小な光源が無数に舞い、彼のボディへと、ゆるやかな速度で吸い寄せられるように―― 無数の光源が、音もなく移動をし続ける。彼の黄金の髪が、その光源を吸収し、さらに煌めくゴールドへと変化をし続ける。翌日の攻撃に備え、熱源をチャージ、しているのだと。その単純な事実は、至近の距離でそれを見ている知性体の彼女も当然理解はしていた。しかしその、星の破壊の最終過程の―― この夜の森の光景そのものは――
とても綺麗、と。
ブルーの瞳がつくる彼女の視覚は、そのように認識せざるを得ない。夜の森の一角が、静かな輝きに満ちている。それはもうすでに失われた、この惑星の太古の言葉で―― 「神聖」と。そう表現しても、それにふさわしい光の景色だと。彼女はそのように、認めざるを得なかった。心ならずも。
その美しきひとりの破壊者が、夜の森の底、神々しい光に包まれ、無垢なる寝顔を浮かべて―― そこに静かに、とどまっている。まるで数億年の昔より、その彼はこの神々の森の自然な一部を成してきたのだと―― まるでそのように、見る者に伝えるかのように。
5.
二日目の破壊で、大陸の街の六割が失われた。
燃え盛る北球の首都圏の煙をはるか遠景に置き去りにして、
帰還した彼が森の底で目にしたのは、そこでひとり涙を流す彼女の姿だった。
光る水滴が彼女の両目から流れ落ち、休みなく鍵盤の上をいまも移動し続ける彼女の細い指の間で砕けては散り消える。
「ほう? 涙。その涙には、いったいどういう意図がある?」
彼がそばまで歩み寄り、弾く手を止めない彼女の肩越しに、質問の音声を投げかけた。
「あなたは、あまりにも、壊しすぎます。」
彼女が静かに、言葉を返した。深いブルーの瞳の上に、新たな涙が盛り上がる。
「あなたが焼いたあの森は―― 数百年にわたって、ずっと、この星の人たちの、心の、ふるさと、だったのですよ?」
「森。あれは派生的なものだ。ターゲットはその北縁の都市部。そしてむしろ、あそこを焼いたのはおれではなく惑星民側だ。まさかあの保護区の付近で、核熱兵器を使用するとは。おれも予想はしていなかった」
「嘘です。予想は、できたでしょう。」
「嘘。その概念は新鮮だ。おれの故郷の知性体には、そのような概念は存在しない。嘘、などというものを、使用する意味がないからな。またその価値もない。おまえはあれだな。知性体としては―― やはりどうも、われわれの――」
「あなたは価値を知らなさすぎます。壊すことの、その簡単さに比べて――」
「森林再生か? 200年もあれば完了するだろう。存外、植物体は放射性熱源に強い。破壊後200年などすぐだ。再生上の問題は特にない。だが、そもそもあの森は、再生に値するほど星系レベルで価値を持つものとは――」
しかし彼はその言葉を最後までは完了しない。彼女がそれを―― 聴くことを拒否していると。そのように彼は判断したからだ。誰にも聴かれない音声を、ヴォイスとして発声する意味はない。そのような判断に基づいて、彼はそのフレーズを終わりまで言わずに中断した。
そしてほどなく、また、昨日と同じように、昨夜と同じ姿勢で、スリープへと移行する。光がふたたび彼に集まる。彼の金色の髪が、夜の森の中で輝く。
その光り輝く森で―― 今夜も楽器は、止むことはない。
彼女の涙は、今はもう、止まっている。彼女は今は、泣いてはいない。
金色の光に包まれた、その深い森の奥底で――
彼女は音を。星の歌を。いまも遠くに。この燃え行く星の隅々へと。
彼女は眠らず、歌を届けた。
どうか。どうか。
聴いてください。人々よ。
あなたたちの、この、美しい星は今――
彼女の歌は―― やがて破壊の三日目の朝がきて――
その美しき金色の光が深い朝靄のなかでしずかに消えてゆく――
その時間になっても。
彼女は歌を、やめることはない。
いつまでも。いつまでも。
彼女はここで、音を奏でて。
届けて。いたいと。いつまでも。この、彼女の愛するこの星の、
すべての人々に、この歌を、届けて――
6.
ピアノの破壊は一瞬だった。
同時に彼女のボディの外殻を形成していた、温度を持ったその柔軟なマテリアルも――
着弾したのは、結果的に数千を数えた現地惑星民の対地砲撃の第一波。
太古の森の至るところで。炎が上がる。黒煙の柱が森の樹冠をはるかに超えて、深くたなびく朝靄を破って次々と空に向かって突き抜けていく。
「む? こちらの位置を特定したか。意外だな。惑星民の原始技術を、少々低く、見すぎていたか。」
スリープを強制解除して戦闘モードに移行中の彼の髪が、ゴールドカラーから熱を帯びたレッドの色調に移行する。彼の瞳も、きらめくゴールドから、燃え立つ赤へと色味を変えていく。
「おい、おまえ。まだ思考ユニットは生きているか? 聞こえるか、おまえ?」
少なくとも11の小パーツへと瞬時に破断して森の各所にちらばった彼女のボディのコアな一部にむけて、彼はヴォイスを投げてみる。
六秒待ったが、返事はなかった。
む。コアユニットが破壊されたか。不運だな。あれらの兵器の着弾精度はそれほど高くない、にもかかわらず――
彼の心には、それ以上の分析思考は発生しなかった。以降は意識を、攻撃の方向に特化する。熱源を右の腕部に集中。そしてボディの重力調整を行って浮上。地平線上の空から接近しつつある原始民の連合空軍部隊の広範にむけて、ゆっくりと左から右へと、距離を定めて熱放射。たちまち炎上し、際限なく落下を続ける原始民の浮動兵器の群れ。
「愚かだな、惑星民は」
熱攻撃の一波を完了した彼が、小さく発声した。
「熱処分以外の回避策を最後まで模索した、あいつはむしろ、味方だったろうに。それを、あのように――」
炎上する神々の森。しかしもう、空中の一点に静止する彼の位置からは、さきほどまで知性体だった彼女のボディの残骸を確認することは不可能だ。彼は視線を、燃える森から夜から朝へと移行を続ける空に上げ――
それからふたたび、地平に向けた。そして彼は見る。
その―― 彼がこれより焼き尽くすであろう―― 残る二つの大陸へと続いていく―― その黒煙と炎と飛ぶものの喧騒に満ち満ちた、終わりゆく星の、最後の朝の光景を。
7.
すべての破壊が終了し、
彼が戻ってきたのは、やはりその、森。
しかしもはや森と呼ぶには、もう何もかもが――
崩れて、焦げて、変わり果ててしまったが――
「終わった。」
その黒く焦げてすすけた、今もまだかすかに煙を上げる地面にすわり、彼は言った。
もうそのヴォイスを認識する者が消え果た、この燃え続ける星の一角で、そのヴォイスを誰に届けるのかは、彼にも把握はできなかった。が、しかし今は、もう少し。そのヴォイスを。ここで続けて。言葉を投げたい、感慨があった。
奇妙な感情だ。それは。
彼自身の語彙の中には存在しないはずの感情で。
しかし彼は、その感情を、否定することはできないと。自分でそれは、認めてはいた。彼には嘘をつくという、その概念がないからだ。だから自分にも、嘘をつくことはできない。
「200年だ。それだけ待てば、ここにも森は再生する。おい。聴いているか? いや。聞こえるはずもないものな。おれはいったい何を言っている」
彼は自嘲するようにかすかに唇の端を上げ、それから、まだ煙で満たされた、星のない夜空を見つめた。星はもう何日も見ることはできないだろう。あるいは何百日も、見ることはできないだろう。すでに大陸のすべての街を燃やし尽くしたその炎は、今もまだ光なき夜空の下で、ひたすらに星の大気を焦がし続けている。
『攻撃知性体。任務完了の報告を受領。それではこれより長期スリープへ移行を。回収は現地テラ時間で400年次以降となります。それまでエネルギー代謝を最低限に設定し、現地待機を』
肩の記章のインターフェイスが音声メッセージを受信した。
「了解した。これより長期スリープを―― 開始―― する――」
そのヴォイスが終了した直後から、
もうその星の上では、意思あるヴォイスを発する存在は完全に消滅する。
星は長い眠りに入っていった。長い長い眠りに。
その星の眠りに合わせて―― 知性体である彼もまた――
眠りへ―― 浅い、光ない、純粋なる暗きまどろみの中へ――
意識全体が落ち込んで。すべての思考は、闇の中に。無の奥へと収斂して消えてゆく。
すべてがいま、意識から無意識へ。すべてが存在から、非存在へと。
その位置を。軸を。たしかに静かに、シフトを開始した。
そしてすべては―― そしてすべてが―― そこへ――
8.
200年後のスリープ解除が、知性体である彼自身の意図したものだったのかは定かではない。
なぜ今、ここで覚醒なのか。なぜ200年?
スリープ解除直後の彼の思考は――
最初のその問いに対する結論を得られぬまま、彼はその場で立ち上がる。
世界に光が降っている。森に光が満ちている。
時刻は午後。そこは深き、光に満ちた森の中だった。
いつか彼がここで見た、あの神々の森とは、姿は大きく様変わりしていたものの――
「む。予想した通り、だな。200年。あるいは160年程度でも、植生再生上の問題なかったというわけか――」
各部の関節ジョイントの動きをひとつひとつ確かめるように。光の森を彼の足が踏んでゆく。鳥たちの歌声が頭のうえから降ってくる。森は光に満ちている。森に光が降っている。
彼はそして、その場所で足を止めていた。
止める意図はなかったのだが。視覚反射で、そこで動作を止めた。
光の柱がおりてくる、森の広場のその中央――
地面の上で苔に覆われ、いびつに盛り上がったその構造物。
あるいは遺骸。それはかつての――
「原始楽器、か。驚いたな。200年後にも、まだ痕跡が確認できるとは。」
破壊された、かつて「ピアノ」と呼ばれたその白木でできた太古の民が奏でた楽器の一部―― それは今では残骸であり―― 今ではそれは、もう、歌を奏でることはできない。
無数の鳥たちの羽音が、頭上の光の中ではためいて。
知性体の彼のそのマインドは――
その鳥たちの羽音にのせて。
かつてそこで、彼女がつむいだその音の広がりを。
その純粋な、遠い場所まで届いてやまない、あの、青い瞳の彼女の歌を。
彼はいま、記憶のアーカイブの中から。彼はそれを。かろうじて残るその音を、マインドの中で再生し。再生し。再生――
遠い海鳴りを、彼は今、聞いた気がした。
そこでは鯨と呼ばれた今は亡き海獣たちが、恋の歌を、まだそこで歌い続けている。
彼の思索はそこで中断する。
彼は視線を25度の角度で上方に移動。記憶のアーカイブに向けられていた彼の意識のすべてが、瞬時に外部環境の把握に向けて鋭く集中する。
彼の感覚センサーが、捉えたのだ。
それが捉えたのはもちろん海鳴りでもなく、今は亡き海獣の歌声でもない。
現実に存在するノイズだ。
距離は遠い。位置で言えば、約200年前に彼が焼きつくした第四大陸の、弓形に湾曲する半島部の東側の部分。
そこから発せられるのは、木々や風や鳥たちの声以外の、実態不明な雑多なノイズの集合。その複雑なノイズのパターンに最も近いものが何かは、彼はもう知っている。
「原始住民の、生活音、だと…?」
彼は絶句した。彼は確かに知っている。テラ上の各大陸の現地住民の残存数は当時確実にゼロだった。大陸すべてを覆ったあの超高温の炎の中で生存できる個体など存在するはずもなかったのだ。しかし、それなのに、なぜ。
高速でマインドを走らせながら、同時に彼は地面を蹴る。午後の森に風が立ち、森の樹冠がざわめいた。そのざわめきが静まった時には、光降る森には攻撃知性体の姿はもはやない。その時点ですでに、彼は黄金の髪をなびかせ、はるかに森から隔たった丘の連なりの上空を滑空していた。
9.
着地したその地点は、海に突き出した長い岬の先端部だった。そこは植物の被覆のごく少ない、赤茶けた酸化鉄質の岩山の一部分。岩山の東側は波の浸食を受け、はるか眼下に幅の狭い赤砂の浜が形成されている。
彼の視線が固定されたのは、その弓なりに続く浜の先。
そこに惑星民の村があった。
村と呼ぶには規模は小さく、集落と呼ぶにも、いささか不十分なものだ。波打ち際に、椰子の葉で屋根をふいた粗末な小屋が十数戸、集まっている。夕食の準備をしているのだろう、家々の屋根からはかすかに白い蒸気が立ちのぼる。ある家の内部からは惑星民の乳児の泣き声があがり、それをあやす母親らしい女の声が続いた。その小村のさらに先、そこに続く砂浜を、粗末な麻織(あさおり)の布を体に巻きつけた惑星民の幼児らが笑い声をあげて駆けまわり、白の小犬がキャンキャン吠えながらそのあとを追っていた。
「なんだ… これは… 残存民、だと…? しかしそんなはずは――」
彼は立ち尽くし、そこに広がる信じがたい光景を視野にとらえ、そこにある景色の意味を理解しようとマインドを走らせた。しかしその意味は彼には、即座には理解できない。たしかにすべてを焼いたはずだ。惑星民の生体反応が惑星レベルでゼロになるのを、たしかに自分は複数回、繰り返しチェックし最終検証もしたはずで――
「ずいぶん長く、眠っていたのですね?」
後ろから音声が飛んでくる。彼はふりむき、熱を右腕に集中させて即座に攻撃の姿勢をとった。
「おまえは――」
攻撃動作を中断し、黄金の瞳を見開いた。その先の言葉は、彼の唇を出る前に消えていく。
そこに彼女が立っている。
夕方の海風を受けて波打つ、どこまでも深いブルーの髪。無垢なる素足が二つ、酸化鉄の地面を踏む。足先近くまでを隠すホワイトドレスのスカートが風をはらみ、大きくゆるやかにはためいて。
「ふふ、あなたも驚くことがあるのですね?」
女は唇に笑いをためる。夕方の海と同じ深さの青の瞳が相手をまっすぐ捉える。女は問いかけるように首をかすかに傾け、相手の答えを待たずに、その視線をゆっくりと海の彼方にむけた。
「…自己再生、したのか。そういう機構が備わっているとは知らなかったな」
ようやく彼が言葉を発した。高速で思考を続ける彼のマインドは、しかし、この場で展開しつつあるこの会話、今ここで見ている景色の意味を、まだ正確に捉えられずにいる。攻撃知性体の彼の長い髪が、吹き寄せる海風の中、もつれるように波打った。夕陽は水平線へと少しずつ高度を下げ、彼の髪を、彼の端正な横顔を、輝く金色に染め上げる。
「ええ。時間はかかりましたけれどね。26年と、もう少し。わたくしの再生が終わったとき、あなたはまだぐっすり寝ていました。無防備でしたね。わたくしが攻撃すれば、危なかったでしょう」
女の声が、少し笑っている。
「…ではなぜ攻撃しなかった。絶好の機会だったろう?」
「前にも言いましたが、わたくしには攻撃機能はありません。それはわたくしの役目ではありませんから」
「だが、これは何だ? なぜ惑星民が、まだここにいる? おまえはどこか地表下に、やつらの待避所を設営していたのか?」
「いいえ。そういったものはなかったですね」
「では何をした? おれに理解できるよう説明しろ」
「遺伝子コードと構成元素の基礎情報がある限り、またゼロから、小さな規模でやりなおすことは、それほど難しくはありません」
「…では。おまえが創造したのか? あれを? あの者たちを?」
「それほど大げさなものではないです。ただここに、また、小さな種を植えただけ。わたくしはただ、見守るだけの存在。それ以上のことは、あまり多くはできません」
「…まったく。理解に苦しむな。おまえたち、外星団の者たちは――」
彼は小さく舌を打つ。しかしその視線は、かすかに笑いを含んでいるようだ。
「内星系からの理解は、もとよりわたくし、求めておりません。」
彼女の唇が小さく微笑を返す。視線もかすかに、笑っていただろう。
「たしか以前にもそれを、おまえは言ったな。だが――」
彼は視線を下に移す。夕暮れの長い波打ち際を、惑星民の幼児たちが競うようにかけてゆく。波の音が世界の隅で反響を繰り返す。夕陽は黄金の輝度を増し、その光が今では広く海面をも輝かす。
すべてが純粋なゴールドに染まったその世界の片隅で。
ふたつの異なる存在が、それぞれの思惑、それぞれの視線をもって、
そこに広がる暮れゆく世界を見つめている。今ではもう圧倒的なまでの輝きとなった、金色に満たされたその単純な景色の先を。
「ふむ。だが。俺の側は、いささか興味が湧いたぞ。少しいま、興味を持った。おまえと、お前が意図する、その何らかの長期計画の、今後のここでの展開に」
彼のその視線は、彼女の方を見ていない。その視線はどこか、金の世界のはるかな先を見て。
「まあしかし。やつらがまた数千万規模にまで増殖し、半端な技術をもってこの星の重力場を攪乱しはじめるまで、短く見積もって数百年程度、といったところか」
「…必ずそうなるとは、限らないと思います」
「そうなるだろうと俺の方は予測する。だがまあ、それはいい。仮にそうなったとしても、その時はまた、俺か、俺の代わりの誰かがこの星の表面を単純に焼き尽くすまでだ。そこに大きな技術的困難はない」
「…そうなるとは、限らないと思います」
「おまえは過度に楽観的、かつ、不正確な予測の持ち主だな」
「…その言葉は、あなたの意見として聞いておきましょう」
「ふむ。では、ひとまず見させてもらおうか。お前がこれから―― ここで作ろうとする、ここでお前が描く、新しい世界図の行き先を。俺自身の回収までにはあと200年あまり。それまで俺は、ここでしばし、観察させてもらおう。」
彼はそして姿勢を低くし、そこの岩の地面に座った。足を断崖の外に投げ出して、はるか下方の海面に、視線をゆるく投げ落とす。唇の端には、小さな笑みがこぼれていたが―― 彼自身にも、なぜその感情表現が必要なのかは、正確には把握できないでいた。ただ無性に―― なにか無性に、心地よかった。ここでこうして、彼女と会話をかわしつつ、無益に費やすここでの時間が。無駄とも思えるここでのすべてが。
「それはどうぞ、ご自由に。もしあなたがそうしたければ。」
「お前の許可は求めていない。これはおれの側の意思であり、決定だ」
「…ですから。ご自由に、と。いまわたくしは申し上げました」
「なんだ、笑っているのか?」
「…いえ、」
「なんだ? なにが可笑しい?」
「いいえ。とくには、何も。」
彼女はその端正な唇の端に小さな笑いをためたまま――
彼から数歩と離れていないその場所から、いま彼が見ているのと同じ、光の彼方の一点に視点を固定した。光に染まったドレスが優雅に風にはためき、無垢な素足が、岩の地面を踏んでいる。その深きブルーの髪が、まるで海そのもののように、海風の中でゆっくり上下に波打った。
輝きを増しゆく夕陽。高度を限りなく下げゆく夕陽。そこにある潮騒(しおさい)。風の音。光が覆うこの小さな世界のすべてを。そこに立つ彼女のそばで、彼は今―― 楽しんで、いたのだ。不本意にも。無自覚にも。
回収までの期間は、200年余。
彼はその待機時間を―― 彼自身の意思により、いささか無為なる観察行為に費やすという、彼自身にもいささか意外性のあるその決断を。
攻撃知性体の彼は今、ここで、確かにくだしたのだ。彼の瞳と同色系の光に満たされた、この辺境の惑星の、名もなき岬の岩山の上で。
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