Welcome to Another Earth

第11章 第6話 ペルタの行方

「この前データを回収したペルタちゃんは何者なんだっけ?」

「そっちの調べはある程度ついてるよ」

ペルタ・フォン・アルタイルのデータは、崩壊災害の直前のブラックエリアでのゴタゴタの最中に取り戻した。破損が激しかったので、修復する為に巴に預けられていたのだ。

「記憶とかもデータ化されてたからね。そっちも覗かせてもらってるよ」

「どんな子か分かった?」

巴は無言で、修復したデータを画面上に並べた。その中には現実でのログイン地点や、ユーザーの個人情報も含まれていた。

（…この子、ひょっとして相当な大金持ち?）

並べられた画像をを見た桃香は、まずそう思った。住んでいる家も豪邸だし、写真を見ても「上流階級のお嬢さん」である事が分かった。

「まあ見ての通り、いい家の令嬢だったみたい」

「それがなんでゲームのNPCに…最初は身代金目的だったとか?」

「少なくともブラックエリアの犯罪者達に一般ユーザーをゲームのNPCにする技術はない」

「最初から、何かしらの実験目的…」

少女を実験の材料に狙う人間がいてもおかしくない事を改めて理解した桃香の表情が曇った。成果を出すためと言って、子供を犠牲にする研究者は確かに存在しているのは知っていた。

「lunar eclipse projectの運営や開発に、そんな大それた事をやれる人がいるとは思えないから、外部からの干渉かな?」

「多分。だけどそれをやった連中の正体がまだ分からない」

ブラックエリアには、桃香も知らない研究所があった。そこで加奈という少女を見つけたので助けた事もある。

「アナザーアースを開発したプログラマーなら、それくらいやりそうだけど…」

桃香と鼎は、以前アナザーアース開発者の1人であるネネと遭遇した事がある。彼女は目的のためなら、一般人も犠牲にする人物である事を知っていた。

「目的は何だろう?アナザーアースを発展させる事?」

「ただ単に個人的な研究の可能性もある」

アナザーアースの開発に関わった7人のプログラマーは、誰もが天才だと認めざるを得ない存在だ。だが彼らが今どこで何をしているのかは、殆どの人間が知らない事である。

「それは置いといて…ペルタちゃんの両親は娘が昏睡状態になっている事をどう思っているのかな」

「それはもう分からない、この前の崩壊災害で何もかも吹き飛んでしまったから」

「…避難しなかったんだ」

「病院にいた医者や患者以外のほとんどが、エンシャント財団の避難勧告を無視したからね」

崩壊災害により、エリア666で暮らしていた500万人以上の命が失われた。その中に、ペルタの親族も含まれていたのだろう。

「アルタイル家の主要人物は、ほぼ死亡したみたい」

「資産は残っていても、ペルタちゃんは現実では身寄りのない子になった…ってことだね…」

巴と桃香は、ペルタの現状を憐れむ事しか出来なかった。彼女が目覚めたところで、その先に幸せはあるのだろうか…