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第11章 第2話 エリア013の姉妹 後編
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『あれからどうしてるか気になって…今は大丈夫?』
「はい、美来の体調も大丈夫です」
汐音に電話をしてきた人物は、仮想現実アナザーアースで活動している鼎という探偵だった。彼女は推理小説に出て来るような探偵ではなく、ストーカーに関する相談を受けたり浮気調査を引き受けたりして生計を立てている人物である。
『それはよかった。エリア013の方はどう?』
「…この前の崩壊災害の件で不安に感じている人が増えているみたいです」
元から裕福な人が少ないエリア013では、貧困層による犯罪がさらに増えていた。エリア666の崩壊も、その遠因の一つになっている。
「福祉制度が整っていないのは以前からなんですけどね…」
エリア013の役人や政治家達は、この問題を解決する有効な手段を出せていない。中には汚職に手を染めてしまった者までいるのが実情だ。
「でも私達は、どうにかして生きていかなきゃいけないんです」
汐音は姉である美来と一緒に生きる事を諦めている訳ではない。いつかエリア013を出て、他のエリアで暮らしてみたいとも思っている。
『私にできる範囲なら、なんでもするよ』
鼎の方も、彼女達の助けになりたいと思っていた。特に姉である美来の方は、長期間仮想現実に閉じ込められていて肉体が少し弱っているのだ。
「ありがとうございます…そっちも事件を追ってて大変なんですよね」
『うん…どうにかしてこの件から手を引く事は出来ないかなって迷ってる』
これも鼎の本音で、ブラックエリアからも離れたいと思っていた。この様な事件を嗅ぎ回っていれば、現実世界で命を狙われてもおかしくない。
「その…気をつけてくださいね」
『大丈夫だよ。じゃあ、困ったらまた連絡して』
通話は終わり、雨の音を聞いた汐音が窓の外を見ると水滴がついている。エリア013はよく雨が降る湿度が高い土地なのだ。
(相変わらず、ジメジメしてるね)
雨に風情を感じる事は、汐音には出来なかった。いつも降っている様子を見せられるせいで、遠い昔に生きた人々と違い感性が鈍っているのかもしれない。
(この雨も、降り止むよね…)
ーー
「ふぅ~…疲れた」
鼎は探偵としての仕事だけでなく、記者の取材にも対応する羽目になっていた。どうやら何処からか、崩壊災害に関わった事が漏れてしまったみたいだ。
(どうにかしてこの件から手を引いて…エリア007に帰る?)
エリア007に帰ったところでどうするつもりなのか。鼎の帰りを待つ家族など、既にいないというのに。
(…逃げ出す理由もないな)
鼎は既に出来た奇妙な縁を手放す事なく、世界を揺るがす事件に立ち向かおうとしていた。
「はい、美来の体調も大丈夫です」
汐音に電話をしてきた人物は、仮想現実アナザーアースで活動している鼎という探偵だった。彼女は推理小説に出て来るような探偵ではなく、ストーカーに関する相談を受けたり浮気調査を引き受けたりして生計を立てている人物である。
『それはよかった。エリア013の方はどう?』
「…この前の崩壊災害の件で不安に感じている人が増えているみたいです」
元から裕福な人が少ないエリア013では、貧困層による犯罪がさらに増えていた。エリア666の崩壊も、その遠因の一つになっている。
「福祉制度が整っていないのは以前からなんですけどね…」
エリア013の役人や政治家達は、この問題を解決する有効な手段を出せていない。中には汚職に手を染めてしまった者までいるのが実情だ。
「でも私達は、どうにかして生きていかなきゃいけないんです」
汐音は姉である美来と一緒に生きる事を諦めている訳ではない。いつかエリア013を出て、他のエリアで暮らしてみたいとも思っている。
『私にできる範囲なら、なんでもするよ』
鼎の方も、彼女達の助けになりたいと思っていた。特に姉である美来の方は、長期間仮想現実に閉じ込められていて肉体が少し弱っているのだ。
「ありがとうございます…そっちも事件を追ってて大変なんですよね」
『うん…どうにかしてこの件から手を引く事は出来ないかなって迷ってる』
これも鼎の本音で、ブラックエリアからも離れたいと思っていた。この様な事件を嗅ぎ回っていれば、現実世界で命を狙われてもおかしくない。
「その…気をつけてくださいね」
『大丈夫だよ。じゃあ、困ったらまた連絡して』
通話は終わり、雨の音を聞いた汐音が窓の外を見ると水滴がついている。エリア013はよく雨が降る湿度が高い土地なのだ。
(相変わらず、ジメジメしてるね)
雨に風情を感じる事は、汐音には出来なかった。いつも降っている様子を見せられるせいで、遠い昔に生きた人々と違い感性が鈍っているのかもしれない。
(この雨も、降り止むよね…)
ーー
「ふぅ~…疲れた」
鼎は探偵としての仕事だけでなく、記者の取材にも対応する羽目になっていた。どうやら何処からか、崩壊災害に関わった事が漏れてしまったみたいだ。
(どうにかしてこの件から手を引いて…エリア007に帰る?)
エリア007に帰ったところでどうするつもりなのか。鼎の帰りを待つ家族など、既にいないというのに。
(…逃げ出す理由もないな)
鼎は既に出来た奇妙な縁を手放す事なく、世界を揺るがす事件に立ち向かおうとしていた。
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