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私は女性が嫌いだ。
私は接客が嫌いだ。
私は仕事が嫌いだ。
私は特別、心がとても病む体質ではないし、所謂八方美人であり、人から好かれるような人間だ。
八方美人と言うわけだから、誰かに仕事のことや愚痴なんかを言わないで必ず心に留めるようにしている。
人を信じてないとかではないし、話せる相手が居ないとかではない。私はそんな性格なんだ。きっとこの性格が変わることもないと思っている。
私が21歳になった頃に誕生日に、と友達に誘われた居酒屋で今の仕事を紹介された。
「まちかってホスト向いてるよ。」
居酒屋の騒がしい席に囲まれたふたり用の座席で、そんな事を言われたもんだから、私の頭の中では、こいつは何を言ってるんだ、と思いつつも少しニッコリとしながら言う。
「やっぱ俺かっこいいから向いてるよな。」
ジョッキに入ってたビールをグイッと飲みほし、そう答える。とても苦い。
決して否定はしないで、友達のノリに合わせた回答をその場で出す。ホストと言う仕事に対して何も感じないからこそ、話しを聞く気にはなれなかった。
「顔かっこいいだけじゃなく、聞き上手だし。ことわざにもあるだろ?話し上手は聞き上手って。話も上手いから聞くのもうまいんだ。」
それっぽいことを彼は言ってるが、買いかぶりすぎている。聞き上手なのは自分でも認めるが、話しをする事は苦手だ。そんな事はないだろうと言おうとしたが、彼は唐揚げを食べながら続けて言う。
「大体、まちかは彼女と別れてから2週間くらい経ってて、同時期に仕事もやめたんだろ?仕事無いならホストでいいと思うけどね。」
その言葉を言われて、泣きそうになるのをグッと堪えた。
彼女と別れてからは何もする気が起きなく、仕事に行きたくない、何もしたくない、まるで魂が抜けたようだった。面に出さないように辛くないふりをして友達には会っていた。だから今も泣く事など決してない。
少しだけ、考えるフリをして沈黙をつくる。
ふと見ると、先程飲みきったジョッキグラスから水滴が上から下へと流れていく。私の、今日までの人生も上から下へと落ちていくだけ。心の中で自分を咎めていると、また言う。
「まちかホスト向いてると思うから、一日体験行ってきなよ。結構、お給料良いみたいだし。」
相当彼に強引に言われたので、イエスとしか言えなかった。私は断る事すらもできなくなったようだ。これは典型的な日本人だからなのか、それとも私だからなのか。
「わかったよ。ホストやるよ。」
友達はそれを聞いて、急ににんまりして、私を肯定したセリフを言ってくれる。
かっこいいしいける!お酒強いしな!
嫌な感じはしないから、ありがとう、と言い壁にある時計を見上げる。
時刻は22時を過ぎようとしてるところだった。まだまだ、周りの席では飲めや歌えや状態で騒がしい。私は自分の席にある残りの唐揚げや枝豆を食べ、帰るか?と問う。
「そろそろ帰るか。誕生日おめでとうな。」
それから2年、こうして私は今もホストを職としている。わかったことが1つ、私はきっともう下から上に行ける気はしないってこと。どん底で尚生き続ける。
私はきっと、ずっと、こんな感じに過ごして行くんだろう。だから、もう何も期待なんて出来ないし、しても疲れるんだ。
私は接客が嫌いだ。
私は仕事が嫌いだ。
私は特別、心がとても病む体質ではないし、所謂八方美人であり、人から好かれるような人間だ。
八方美人と言うわけだから、誰かに仕事のことや愚痴なんかを言わないで必ず心に留めるようにしている。
人を信じてないとかではないし、話せる相手が居ないとかではない。私はそんな性格なんだ。きっとこの性格が変わることもないと思っている。
私が21歳になった頃に誕生日に、と友達に誘われた居酒屋で今の仕事を紹介された。
「まちかってホスト向いてるよ。」
居酒屋の騒がしい席に囲まれたふたり用の座席で、そんな事を言われたもんだから、私の頭の中では、こいつは何を言ってるんだ、と思いつつも少しニッコリとしながら言う。
「やっぱ俺かっこいいから向いてるよな。」
ジョッキに入ってたビールをグイッと飲みほし、そう答える。とても苦い。
決して否定はしないで、友達のノリに合わせた回答をその場で出す。ホストと言う仕事に対して何も感じないからこそ、話しを聞く気にはなれなかった。
「顔かっこいいだけじゃなく、聞き上手だし。ことわざにもあるだろ?話し上手は聞き上手って。話も上手いから聞くのもうまいんだ。」
それっぽいことを彼は言ってるが、買いかぶりすぎている。聞き上手なのは自分でも認めるが、話しをする事は苦手だ。そんな事はないだろうと言おうとしたが、彼は唐揚げを食べながら続けて言う。
「大体、まちかは彼女と別れてから2週間くらい経ってて、同時期に仕事もやめたんだろ?仕事無いならホストでいいと思うけどね。」
その言葉を言われて、泣きそうになるのをグッと堪えた。
彼女と別れてからは何もする気が起きなく、仕事に行きたくない、何もしたくない、まるで魂が抜けたようだった。面に出さないように辛くないふりをして友達には会っていた。だから今も泣く事など決してない。
少しだけ、考えるフリをして沈黙をつくる。
ふと見ると、先程飲みきったジョッキグラスから水滴が上から下へと流れていく。私の、今日までの人生も上から下へと落ちていくだけ。心の中で自分を咎めていると、また言う。
「まちかホスト向いてると思うから、一日体験行ってきなよ。結構、お給料良いみたいだし。」
相当彼に強引に言われたので、イエスとしか言えなかった。私は断る事すらもできなくなったようだ。これは典型的な日本人だからなのか、それとも私だからなのか。
「わかったよ。ホストやるよ。」
友達はそれを聞いて、急ににんまりして、私を肯定したセリフを言ってくれる。
かっこいいしいける!お酒強いしな!
嫌な感じはしないから、ありがとう、と言い壁にある時計を見上げる。
時刻は22時を過ぎようとしてるところだった。まだまだ、周りの席では飲めや歌えや状態で騒がしい。私は自分の席にある残りの唐揚げや枝豆を食べ、帰るか?と問う。
「そろそろ帰るか。誕生日おめでとうな。」
それから2年、こうして私は今もホストを職としている。わかったことが1つ、私はきっともう下から上に行ける気はしないってこと。どん底で尚生き続ける。
私はきっと、ずっと、こんな感じに過ごして行くんだろう。だから、もう何も期待なんて出来ないし、しても疲れるんだ。
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