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10 ティータイム

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「フレディ……どうして、そんなに人が変わったんですか?
なんで、私のことを……罵らないのですか?」


変な質問をしていることは自分でも分かる。


でも、聞かずにはいられなかった。


すると、フレディは白にフリルが模ってある華奢なティーカップとソーサーを置いた。  


「……すべて、お話し致します」


その横顔からはどんな感情なのかは読み取れないけれど、白い手袋をして優雅に食後の紅茶を注ぐその綺麗な所作は物語の中の静謐な執事のようだ。


こんなにスムーズに執事の仕事をこなすフレディを見たことは無かった……怒鳴ったり悪態ついたりする所しか見たことはなかったから。


「はい、お願いします……」


「事の始まりは、エリーゼ様の執事就任の儀式です。
あの日、私は呪魔法を掛けられました」


呪い魔法……?


初めて聞いた言葉に、思わず首を傾げてしまう。


魔法にはいくつか種類があるのだろうけれど、何の魔法も使えない私にとってそれは遠い世界の物語で、想像することすら難しい。


「えっと、呪魔法……という魔法があるの?」


「はい、ございます。
闇魔法と混同されがちですが、闇魔法とは別に呪魔法はございます。
呪魔法は対象者の行動に制約を課すことができる魔法です。
そして、それを解くには、解呪のための手順を踏む必要があります」


「闇魔法……という魔法もあるんですね?」


そこまで言うと、フレディは弾かれたようにこちらを見た。


「そう……でしたね。
エリーゼ様は学校に行ったこともなければ、家庭教師がつくこともなかった。
だから、一般知識をあまりご存じない……」


「私が得た一般知識はこの本棚のことが全てです」


部屋の本棚を指差した。


幼児向けの絵本、女児向けのファンシー小説、国語辞書、裁縫の本、画集、植物図鑑……


これが全てだった。


「なるほど……理解しました。
言語がよく出てくるのは国語辞書の影響、結婚できないという心配をしていたのは、このファンシー小説から……」


このファンシー小説は、何度も読んだ。


強力な魔力を持って生まれた平民の女の子が、王子様と結婚するという内容だ。


それらを見やると、フレディは納得したように頷いた。


「それで、呪魔法というのを掛けられて、どうなったんですか?」


フレディは、少し言葉を詰まらせた。


……言いづらいことなのだろう。


彼の端正な横顔に翳りが落ち、苦悩が浮かぶその表情は彫刻のようだった。

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