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34 医師クリストフ

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レイアは程なくして来た。


「おはようございます、エリーゼ様。
まずはお着替えに行きましょう、さあ」


その手のひらが、私に向かって伸ばされる。


「う、うん」


おずおずと手を出すと、そのままバスルームに連れて行ってくれた。


昨日改装したばかりのバスルームに着くと、レイアは輝くような白いバスタブにお湯を貯めた。


「ついにエリーゼ様にも月のものが来たんですね。私も最初はびっくりしましたよ、でも毎月なので慣れてくるんです」


「え?
月のもの?
それに、レイアも血が出るの……?」


「はい、毎月そのように血が出ることを、月のものと呼んでいます。
大人の女性の身体になると、そうなるんです」


「そうなんだ。
じゃあこの血は病気じゃないんだ
頭もお腹も痛いけど、これは風邪を引いてるのかな?」


「いえ、それは風邪ではありません。
月のものが来ると、頭痛や腹痛、胸の張りや心の乱れなど、様々な不調が出るものですよ」


「そう、なんだ」


レイアは私の下半身の血を洗い流し、綺麗なタオルで拭いてくれた。


そして、脱衣所の籠から見慣れない下着を取り出す。


「これは吸水性のある下着です。
あのように溢れることはありませんので、ご安心ください」


普段の下着とはちょっと違っていて、少し厚みがあった。


「あと、お腹を温めないといけないので」


レイアは毛糸の腹巻きを巻いてくれた。


甲斐甲斐しく世話をしてくれる彼女のことを、本当の親のようなお姉さんのような、心からの安らぎを感じる。


「あったかい……」


血が取り去られた清潔感と、下腹部が温かくなった安心感に、精神的な落ち着きを取り戻してきた。


「ありがとう、レイア。
本当に嬉しい」


「ふふっ」


するとつり目気味の目を優しげに細めて、にこりとレイアは笑う。


「さあ、戻りましょう」


「うん!」


いつの間にか、私も笑顔になっていた。










廊下から部屋に戻ると、フレディの他に、見知った白衣の背中を見つけた。


あ………………


頭や腹の痛みも忘れて、身体中が歓喜に震える。


瞬間、私の足は勝手に駆け出していた。


「クリス先生!」


彼は振り返り、私を見て少し驚いたような顔をする。


「リーゼ?」


両手で彼の背中に抱きつき、ギュッと力を入れる。


それを受け入れるようにして、クリス先生は優しく私の頭を撫でてくれた。


「よしよし、いい子だ。
栄養状態がすごく良くなってるね、彼らのおかげかな」


大きな手で頭を撫でられながら、頭をこくこくと縦に振る。


月に一度の定期健康診断でのみ、会うことを許されていた、私に唯一優しくしてくれた人。


クリス先生がいなかったら、私はとっくに死んでいただろう。


彼は間違いなく、暗闇の中の光だった。



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