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DTの価値

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「旦那様、首尾良くエルフを捕らえました」
「ほほぉ~そうかそうか! それはご苦労であったな!」

九石は大きく目を見開き、橘の肩を叩き労をねぎらう。
嬉しそうに口元を緩ませ、棚に置いてあるブランデーをバカラのグラスに注ぐ。

「久しぶりにお前もどうだ?」
「ありがとうございます、ですが、これからもう一人の方を引き渡す予定がありますので」
「ああ、あの若造か……。まあ、心は痛むが仕方あるまい」

クイッとブランデーを呷り、
「彼の数年と、私の数年……同じ年月でも私が生きた方がこの国にとって有益だろう」と呟く。
「如何にも、旦那様には長く生きていただかねばなりません」

「うむ。だが、まさか余命宣告を受け、土壇場でこのようなチャンスに巡り会うとは、やはり私は神に選ばれているのかも知れんな。ふははは!」
「もう、旦那様が恐れることなど何もありません。超長命遺伝子セフィロト・コードの解析班も来週にはこちらに到着する予定です、九石家の家名はさらに轟くこととなりましょう」
「よし、滞りなく進めろ」
「は、畏まりました。それと旦那様、一点ご報告です。淫魔との交渉役が使い物になりませんでしたので、成功報酬の上乗せとして淫魔に引き渡そうと思いますが、如何でしょう?」
「構わん、くれてやれ」
「は、それでは、これで失礼致します」

頭を下げる橘に、九石は無言で手を向けた。
一人になった九石は、新しいブランデーをグラスに注いだ。

「ふ……くふ……ふはははは!! あっはははは!」

こみ上げる笑いを抑えきれず、九石は大声で笑った。


 * * *


癪ね……。
理子はSUVの後部座席で顔を歪めた。

このイライラの原因は何だろうか。
あの人間の思い通りに進んでいるのが癇にさわるのか。
いや、それは違うな……。
別にワタシには何の関係もないことだ。

ならば、どうしてこうも苛立つのだ?
対価は十分に頂いた。
しかも今回は三人も余分に手に入れた。

だが、何故か胸の中がざわざわする。
あのエルフの事か?

ふと、理子の脳裏に、森田の困り顔が浮かぶ――。
クスッと自然に笑った自分に理子は驚く。

惜しいといえば惜しい。
だが、所詮は人間、ワタシが執着するような存在ではないはずだ。

「まあ、いい……」

理子はそう呟き、隣に座っていた大男の肩に手を回した。

「まずは腹ごしらえね……」
「あぁ……リリス様……」
「はい、お待たせ……ふふ」

男の顔を両手で挟み、理子はその唇を重ねた。

――瞬間、男の目が白目を剥く。
鼻息が荒くなり、体はビクビクと痙攣を始めた。

涙が溢れ、体中の血管が浮き出る。

「ご……が……あ……」

言葉にならない呻きを漏らしながら男の体から力が抜ける。
そして、黒々としていた男の頭髪が白髪に変わった。

「ふぅ……まあまあね……」

理子が口元を指で拭いながら言った。


 * * *


「ん……あ、そっか……あれ?」

起き上がると、広いベッドの上にシルフィの姿は無かった。

「まだ戻ってないのか……」

俺は時間を見ようとスマホを探す。
あれ……おかしいな、眠る前は確かにあったのに……。

ベッドから降りて部屋の扉に向かう。
まあ、橘さんに聞けばわかるか。

扉を開けようとして、俺は違和感を覚えた。
あれ? 開かない――。

何度も確かめる。
時間を空けて試したりもした。

だが、扉が開くことはなかった。

「マジかよ……」

俺はベッドに腰を下ろし、頭を掻きむしった。

ちょっと待てよ……何が起きてる?
脳内には色々な考えが浮かんでいるが、それが空中に浮いた小さな綿毛のように掴めない。
軽くパニックになっているのか?

立ち上がり、部屋の中を歩きながら大きくゆっくりと深呼吸をした。

落ち着け……。
落ち着け……。

順番に整理しよう。
シルフィとプールで遊んだ後、サウナでロウリュを試して、その後色んな種類のジャグジーに入った後、九石さんがめっちゃ良い肉をごちそうしてくれて……。

そうだ、その後この部屋に案内されて、俺は疲れて眠ってしまったんだ。
シルフィは……そう、橘さんに……確か鑑定と言っていた、そうだ間違いない。

となると、なぜこの部屋に鍵が掛かっているのかだが……。
俺を閉じ込める理由なんてないはずだし、待てよ?

シルフィと俺を引き離したかったのか⁉
でもどうして?

その時、あっけなく部屋の扉が開く。

「え……」
「おや、お目覚めでしたか」

穏やかな笑みを浮かべた橘さんだったが、困惑する俺を見て、
「どうされましたか? お顔の色が優れませんが……」と、心配そうに眉根を寄せる。
「あ、いえ……シルフィは?」
「はい、シルフィ様は九石と漂流物の鑑定をされています、かなり時間が掛かりそうだと森田様にお伝えするよう言付かっております、後、こちらは防犯上のため就寝中はお預かりさせていただいておりました」

橘さんが綺麗な布に包んだ俺のスマホを取り出した。

「あ、俺の……」
「申し訳ございません。ただ、かなりお疲れだった様子ですので……事後報告とさせていただきました」
「そうですか、わかりました」
「シルフィ様からは先に家にお送りするよう言われておりまして……」
「シルフィが?」

そんなはずは無いと思うが……。
それに何で部屋に鍵なんかしてたんだろう。

「ちょっと待ってください、なぜ部屋に鍵を?」
「ああ、それも防犯上のためです。ご覧の通り当家は部屋数だけでも50以上ございますから、中々目が行き届きません。万が一、何者かが侵入した場合、お客様に危害があってはいけませんので施錠をさせていただきました、ご無礼をお許し下さい」

深々と頭を下げる橘さん。
すごく丁寧できちんと説明もしてくれる。
だが、漠然と感じていた違和感は残ったままだった。

「ああ、言い忘れておりました! それとシルフィ様の知人でいらっしゃる棃様という方がお迎えに来ていらっしゃいます」
「え⁉ 理子が⁉」
「ええ、表のお車でお待ちになっておられます」

そうか、理子が来たなら何も問題はないな。
良かったぁ……どうなることかと。

「わかりました、じゃあシルフィには早くしろって言っておいて下さい」

俺は冗談っぽく言って、理子の待つ車に向かった。
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