うちの居候エルフが高貴すぎてしんどい

雉子鳥 幸太郎

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DTを捧げよ

3

「えぇい! 何をしておる!」

九石の投げた灰皿が壁に当たり砕け散った。

「も、申し訳ございません! 至急、対応しておりますので……」

「当たり前だぁ! こ……こんなところで、終わってたまるか!」
「旦那様、必ず解決してご覧に入れます、どうか安静に……」

橘は主人の容態を気遣い宥めようとする。
肩で息をしていた九石も、次第に落ち着きを取り戻した。

ドサッとソファに座ると九石がブランデーを呷り、グラスをテーブルに叩き付けるように置く。

「淫魔の方は?」
「はい、今、エージェントを向かわせました」
「問題ないだろうな?」
「はっ、淫魔は反結界の展開で相当な魔力を消費しているはず、それに送ったのは当家の精鋭チーム、何ら心配はございません」
「……エルフの方はどう対応する?」
「こちらは、私が直々に……」
「ほほぉ、そうかそうか、腕は鈍っておらんだろうな?」
「問題ございません」

そう答える橘の目が暗く光った。


 * * *


廃ビルの中、理子は一人反結界を構築していた。
フロアの中心で淡い魔力の輝きを放ちながら宙に浮いている。

そこに無遠慮な大勢の足音が聞こえた。

「思ったより早かったわね……」

数秒後、黒ずくめの戦闘服に身を包んだ集団が理子を取り囲んでいた。
隊長らしき男が他の隊員に合図すると、一斉にアサルトライフルを理子に向けた。

「淫魔、大人しく投降するか、ここで朽ちるかだ」
「あはははは!」

理子が大声で笑った。
隊長はそれを見て顔を歪めた。

「ハンッ! 大聖堂で祝福された銀弾を受けても笑ってられるか?」

「――総員、撃て!」

薄闇の中、銃口から閃光が迸る。
空気をつんざく射撃音が廃ビルに響いた。

隊長が手を上げる。

充満する煙、火薬の臭いが辺りに立ちこめている。

隊員達の目線の先には、蜂の巣になった理子の姿があった――。

「や、やった! 淫魔を倒したぞ!」
「OK、よくやった」

隊長は銃口を下ろし、隊員達にねぎらいの言葉をかける。
そして肩口にあった通信機に向かって言った。

「こちらアイルズベリー、オーダーをクリア、これより帰還する」

そう言って満足げに微笑み、隊員達の方に振り返った。

「――ガハッ⁉」

隊員達は全て精気が抜かれており、干からびた朽ち木のように横たわっていた。
そして隊長は本来の姿になった理子の魔力で宙に持ち上げられる。
水鳥のように隊長の足が宙を掻く。

「ワタシの体に傷を付けたことは褒めてあげる……」
「ぐっ……! この……い、淫魔め!」

「せいぜい抗いなさい、自我を保てるならね?」

理子の瞳が妖しい輝きを放ち、その淫靡な唇が隊長に迫る――。

「う、うわぁああああーーーーーーー!!!!」


 * * *


橘は数人の従者を連れ、シルフィを閉じ込めた部屋の前に居た。

「お前達は解呪に務めなさい」
「「畏まりました」」

従者たちは扉に向かって、何やら唱え始めた。
白い手袋を嵌め、橘は扉の前で腰を落とすと拳を打ち込んだ。

――――ドンッ!!!!

建物が揺れ、凄まじい衝撃が走った。
従者の何人かが体勢を崩す。

だが、あれ程の衝撃にもかかわらず、扉には傷一つ付いていない。

「ふむ……やはり一筋縄ではいきませんか」

そう呟き、橘は扉を殴り始めた。


 * * *


シルフィの体が淡い金色の光に包まれている。
この目で見たことはないが、その姿はまるで……天使のようだと俺は思った。

背中を向け、窓の外の闇を眺めるシルフィ。

「……戻ったのか?」
「ああ」

シルフィは俺を見ない。

「どうしたんだよ、何か不満があったとか? ま、まあ、初めてだったし……その夢中で何が何だか……」
「森田、魔力が戻るとな……今まで見えなかったものまで見えてしまうんだ」
「え……や、やめろよ⁉ 俺の心を読むとかナシだぞ!」
「お前の気持ちは……十分伝わった」

俺は自分の顔が熱くなるのを感じた。

「い、いや、今更隠しても……まあ、しょうがないとは思うが……日本人ってのは黙して美とする文化ってのもあってだな……そのぉ……」

シルフィが振り返る。
そのマリンブルーの瞳にはうっすらと涙が溜まっていた。

「森田、ありがとう……この恩は決して忘れない」

「シルフィ……」

「後は我に任せろ」

――瞬間、シルフィの足元に巨大な魔方陣が展開された。
幾重にも複雑に絡み合った紋様は緩やかに回転を始める。

その時、部屋の扉が破壊される。

橘さんと数人の従者が部屋に駆け込んできた。

「こ、これは……」

驚きの表情でシルフィを見る橘さん達。

「人間達よ下がれ。もはや、お前達では我の相手にならぬ」

「……それはできません。大人しく投降していただきます」

橘さんの言葉に従者達が一斉に何かを唱え始めた。
すると橘さんの体から赤い湯気のようなオーラが立ち上る。

「シ、シルフィ……」
「森田、そこにいろ」

そう言ってシルフィは橘さん達に手を向けた。

――金色の粒子が橘さん達を包む。

「こ、ここは……一体何が……」

橘さんと従者達がきょとんとした顔で辺りを見回している。

「どうなってんだ……?」

「我の魔法だ。彼らは我らのことを綺麗さっぱり忘れているだろう、後はお前を家に送れば……」

シルフィが少し寂しそうに目を伏せた。

「お、おい、何を辛気くさい顔してんだよ、一緒に帰るだろ? あ、寿司でも出前取るか?」

シルフィが小さく顔を振る。

「なんだよ、肉か? バウムクーヘンはその辺に売ってないからな……デパ地下とかなら……」


「森田、ここでお別れだ――」


「ちょ……シルフィ! 行くな!」


――次の瞬間、俺は光に包まれていた。
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