19 / 49
19.疑惑
しおりを挟む
おかしいなと思うことがあるのだ、と近くのファミレスに落ち着いたところで則正は切り出した。
「もともとさ、保って内向的っていうかそれほど人と関わるの得意じゃなさそうで。だから俺もね、飲み会とかあんまり誘わないようにしてたんだ。一応、声だけはかけるけど、無理強いしないようにしてさ。保もそのほうが助かるって笑ってて。理解あるタイプって思ってたんだけど」
一点だけ、どうにもおかしいと思うことがあったのだという。
「井上って覚えてる? ほら、前、一緒に飲んだこともある……」
「あー、うん」
則正に誘われて行った飲み会で会った井上の顔を思い出す。同じ学科で顔見知りでもあったけれど、それまで会話をしたことはなかった。でも話してみると気さくないいやつで、ちょっと則正と似た空気を持っていた。
さらに言うなら、その井上の発言を馬鹿にした周囲の空気に激怒した双葉を見て、初めて双葉を意識することにもなったので、井上はある意味、俺達にとってキューピットと言えなくもない存在だ。
「その井上がなに?」
「井上がどうっていうか……この間、ばったり会ったときに言われたんだ。データ送ったからな~って」
「なんの?」
「昔の飲み会の写真データ。あいつイベント好きだし、写真も好きでいっぱい撮ってたから」
どうにも話が見えない。眉を顰めたが、次の言葉でことの重大さが見えた気がした。
「ただ、そんなの俺のとこには届いてないんだよ」
視線をテーブルに落としたまま則正は言葉を継ぐ。
「でも井上は言うんだ。畑中に渡しておいたからな、あいつから受け取ってーって。井上はああいうやつだから大して気にもしてなかったみたいで。でも」
則正はそこでふうっと息を吸い、アイスキャラメルラテをストローでずずっと吸いあげる。ただストローで吸うだけの動作なのに、勢い良く吸い上げ過ぎたのか飛沫が則正の眼鏡に飛ぶ。溜め息を漏らしながら俺は腕を伸ばし、紙ナプキンを取って則正の眼鏡のレンズに押し付けた。
「なにやってんだ」
「あー、ごめん。ほんと俺ってばしょーもな」
もぞもぞと言いつつ則正は俺の手から紙ナプキンを取る。レンズをくいくいと拭いた則正の、俯いた頭の向こうから潜めた声が聞こえてきた。
「俺さ、頼んでないんだよ。そんなこと保に」
今日は春にしては気温が高い。ひんやりとしたファミレスの空調がぞわりと首筋を撫で上げた。
「畑中が勝手に井上に頼んだってこと?」
「まあ、うん。そもそも俺、写真撮ったり撮った写真見たりってあんまりしないタイプじゃん。だから、そんなこと頼むわけないんだ。正直、意味わかんなくて。ちょっといらっとしちゃって。保にも訊いたんだ。『井上から写真がどうとか聞いたけど、どういうこと?』って。そしたらあいつ、泣きだして。俺のこと、もっと知りたかったからつい嘘ついた、ごめんって」
則正の顔には普段まず見られない困惑が色濃く浮かんでいる。その顔のまま則正は手にした紙ナプキンをきゅっと握る。
「そこまでするなんて、よっぽど寂しい思いさせちゃってたんだなあ、って思ったら申し訳なくてさ。俺、保とね、時間作るようにしたんだ。他のやつとの約束も控えたし、連絡も密にしたし。でも保、なんか、なにしても寂しそうでさあ。正直、どうしたらいいかわかんなくて。なあ、柊真。わかる? 双葉もそういう寂しいみたいな顔、する?」
「双葉はまあ……」
双葉にも寂しがりやなところがないわけじゃない。
やきもち妬きだし、ちょっと俺が則正と話しをしていただけで頬を膨らませたりする。
だが……俺に黙って俺の写真を集めるとか、そういうことをするタイプではない。
というより……。
「思ったこと言っていい?」
「ん? なになに」
則正がぐいっとこちらに身を乗り出してくる。その彼に向かい、俺は渋い顔をして見せた。
「そのエピソード聞いて、寂しい思いをさせちゃったんだなあって思えるお前ってやっぱり変わってるし、優しいとは思った」
「え、え? どういう意味? 褒められてる?」
「褒めてるの半分、心配なの半分」
どうしたものだろう。言っていいものだろうか。でもこのタイミングで訊くならおかしくないかもしれない。
「則正さ、畑中から言われてない? 俺とか双葉と仲良くしたいって」
「え? あー、うん。言われた。けど」
そこで則正が口ごもる。その微妙な表情を見ていて胸がもやついた。
こいつがこんな顔をする理由に心当たりがあったから。
はっきりとこの話を則正としたことはない。則正も言ってこなかったし、あえて突き回すべきことでもないと思っていた。でも、正直、ちゃんと確認しておきたい気持ちはあった。
というか……双葉に言ったら怒りそうだから言わないが、俺だって不安なのだ。
「はっきり訊くけど」
こいつが、双葉を好きだったという過去が。
「普段のお前だったらそう言われたらすぐ紹介してきそうだよな。俺達には畑中とのこと、打ち明けてくれてもいたんだし。でもそうしなかった。それってさ、お前が双葉を好きだったことと関係ある?」
「なっ……」
則正が固まる。一気に色づいた顔を見ていたらやっぱりむかむかした。
もう終わった話だ。でも俺はこいつにはやっぱり嫉妬してしまう。
双葉がこいつを見ていたときの目を、俺だけは知っているから。
じっと見据えると、則正は目に見えて落ち着きをなくした。水の入ったコップを持ち上げたり、ストロー袋を握り締めたりしている。
だが、ひとしきりおろおろした後、諦めたのか、肩を落としてうなだれた。
「いや、それ、双葉が言ったの? もう、恥ずかしいなあ……」
「質問の答えは」
詰め寄るように言う。則正は、うっと呻いてから溜め息を落とした。
「ないといえば嘘になる」
「それってお前がまだ双葉のこと想っていて未練があるからとか、そういう意味?」
「そんなわけないだろ!」
角張った声で問う俺の前で、焦ったように顔が上がった。
「そんな状態で保と付き合ったりしないよ。もう双葉のことは吹っ切れてる。ただの美しい思い出。そもそも双葉はお前と付き合ってるんだろ。今更どうこうしたいなんて思うわけねーよ」
「じゃあなんで、畑中の頼みを断った?」
「それは……」
則正の口が再び重くなる。その様子に俺は苛立ちを隠せずまくしたてた。
「別に責めてるわけじゃない。けど、お前が双葉のことを好きだったって話、畑中も知ってたりしないか。もしそうなら畑中としてはもやもやするんじゃないのか。お前のそういう態度」
「ちょ、ちょ、待って。俺が保と付き合ってるのと双葉のことは関係ないし」
本当に?
責め立てる言葉をさらに突き刺そうとして俺は思いとどまる。
さすがに感情が先走りすぎていた。相談に乗るというスタンスで始まったのに、これじゃあ完全に一方的なたこ殴りだ。
「悪い。こっちの話ばっかりして」
「あー、いや……ごめん。柊真の立場からしたらそりゃ気になるよな。確かに保、双葉に雰囲気似てるもんな。そうだよな、うーん」
ええと、と言葉を探すように間を置いてから則正は小さく深呼吸した。
「俺が保をお前らと会わせなかったのは、なんていうか、保自身が望んでないんじゃないかって気がしたから。っていうかさ、あのね、はっきり言うと、保には言われたんだよ。僕と付き合うのは石鈴くんに僕が似てるから? って」
「……は? 畑中自身がそう言ったの」
「そう。もちろん違うって言ったよ。けど、保、信じてなかったっぽいし。その状態で双葉と会うの、微妙だろ。だからのらりくらり返事しちゃった。俺の友達に興味持ってくれるのはうれしいけど、なんで双葉のこと気にしながらその双葉とあえて近づきたがるのか、俺にはよくわかんなかったし」
井上経由で則正の写真データを集めていたという畑中。
双葉と自分が似ていることを気にして、則正に問いただしつつ、双葉とも接点を持とうとする、彼。
正直、俺の感想としては……。
「思ったこと、はっきり言っていい?」
「それ二回目、いや三回目?」
則正の顔にやっと笑顔が浮かぶ。だが、俺としてはもう笑える気分ではなかった。
「俺は畑中の行動、気持ち悪いって思う」
則正の表情が笑顔のまま固まる。
「……それはさすがに言いすぎだろ、柊真」
何年ぶりだろう。則正の顔にこんなにはっきりとした苛立ちが浮かぶのを見たのは。
でもこちらとしても黙っているわけにはいかなかった。
「気持ち悪いだろ。付き合ってる相手のプライベートに土足で踏み込んでくる感じ。写真のこともそうだし、双葉への態度もそうだ。お前、知らないよな。畑中が双葉に直接、頼みにきたこと」
「なにを」
「俺や双葉と仲良くしたいから、双葉のほうからなにか集まれる会をセッティングしてくれって言ってきたんだよ」
「え……」
意表を突かれたように則正の顔が無になる。さすがにここまで言う必要はなかった、と思ったけれど、それでもこのままにはしておきたくなかった。
「そこまで畑中がする理由、俺にはわからない。でも畑中がなにかに焦れてるのは見てて感じた。その理由、わかってやれるの、お前だけなんじゃないの」
則正の目が不安そうにふるふると揺れる。そんな目をされると助けてやりたくなるのが付き合いの長さからくる性だが、さすがに自重した。
俺がどうこうするべきことじゃないし、むしろ今日だって語りすぎたくらいだから。
畑中のことを相手のプライベートに土足で踏み込んで気持ち悪い、とまで言ったけれど、双葉のことでかっかしてここまで則正に当たり散らしてしまう俺もまあまあ気持ち悪い。
「則正、ごめん。いろいろ言い過ぎた」
「あ、いや。そんなことない。ただ」
そう言った則正の目がふっと俺を通り越した向こうを見る。
え、と振り向く。そこで今度は俺が固まった。
強張った顔をした双葉がこちらを見つめ立っていた。
「もともとさ、保って内向的っていうかそれほど人と関わるの得意じゃなさそうで。だから俺もね、飲み会とかあんまり誘わないようにしてたんだ。一応、声だけはかけるけど、無理強いしないようにしてさ。保もそのほうが助かるって笑ってて。理解あるタイプって思ってたんだけど」
一点だけ、どうにもおかしいと思うことがあったのだという。
「井上って覚えてる? ほら、前、一緒に飲んだこともある……」
「あー、うん」
則正に誘われて行った飲み会で会った井上の顔を思い出す。同じ学科で顔見知りでもあったけれど、それまで会話をしたことはなかった。でも話してみると気さくないいやつで、ちょっと則正と似た空気を持っていた。
さらに言うなら、その井上の発言を馬鹿にした周囲の空気に激怒した双葉を見て、初めて双葉を意識することにもなったので、井上はある意味、俺達にとってキューピットと言えなくもない存在だ。
「その井上がなに?」
「井上がどうっていうか……この間、ばったり会ったときに言われたんだ。データ送ったからな~って」
「なんの?」
「昔の飲み会の写真データ。あいつイベント好きだし、写真も好きでいっぱい撮ってたから」
どうにも話が見えない。眉を顰めたが、次の言葉でことの重大さが見えた気がした。
「ただ、そんなの俺のとこには届いてないんだよ」
視線をテーブルに落としたまま則正は言葉を継ぐ。
「でも井上は言うんだ。畑中に渡しておいたからな、あいつから受け取ってーって。井上はああいうやつだから大して気にもしてなかったみたいで。でも」
則正はそこでふうっと息を吸い、アイスキャラメルラテをストローでずずっと吸いあげる。ただストローで吸うだけの動作なのに、勢い良く吸い上げ過ぎたのか飛沫が則正の眼鏡に飛ぶ。溜め息を漏らしながら俺は腕を伸ばし、紙ナプキンを取って則正の眼鏡のレンズに押し付けた。
「なにやってんだ」
「あー、ごめん。ほんと俺ってばしょーもな」
もぞもぞと言いつつ則正は俺の手から紙ナプキンを取る。レンズをくいくいと拭いた則正の、俯いた頭の向こうから潜めた声が聞こえてきた。
「俺さ、頼んでないんだよ。そんなこと保に」
今日は春にしては気温が高い。ひんやりとしたファミレスの空調がぞわりと首筋を撫で上げた。
「畑中が勝手に井上に頼んだってこと?」
「まあ、うん。そもそも俺、写真撮ったり撮った写真見たりってあんまりしないタイプじゃん。だから、そんなこと頼むわけないんだ。正直、意味わかんなくて。ちょっといらっとしちゃって。保にも訊いたんだ。『井上から写真がどうとか聞いたけど、どういうこと?』って。そしたらあいつ、泣きだして。俺のこと、もっと知りたかったからつい嘘ついた、ごめんって」
則正の顔には普段まず見られない困惑が色濃く浮かんでいる。その顔のまま則正は手にした紙ナプキンをきゅっと握る。
「そこまでするなんて、よっぽど寂しい思いさせちゃってたんだなあ、って思ったら申し訳なくてさ。俺、保とね、時間作るようにしたんだ。他のやつとの約束も控えたし、連絡も密にしたし。でも保、なんか、なにしても寂しそうでさあ。正直、どうしたらいいかわかんなくて。なあ、柊真。わかる? 双葉もそういう寂しいみたいな顔、する?」
「双葉はまあ……」
双葉にも寂しがりやなところがないわけじゃない。
やきもち妬きだし、ちょっと俺が則正と話しをしていただけで頬を膨らませたりする。
だが……俺に黙って俺の写真を集めるとか、そういうことをするタイプではない。
というより……。
「思ったこと言っていい?」
「ん? なになに」
則正がぐいっとこちらに身を乗り出してくる。その彼に向かい、俺は渋い顔をして見せた。
「そのエピソード聞いて、寂しい思いをさせちゃったんだなあって思えるお前ってやっぱり変わってるし、優しいとは思った」
「え、え? どういう意味? 褒められてる?」
「褒めてるの半分、心配なの半分」
どうしたものだろう。言っていいものだろうか。でもこのタイミングで訊くならおかしくないかもしれない。
「則正さ、畑中から言われてない? 俺とか双葉と仲良くしたいって」
「え? あー、うん。言われた。けど」
そこで則正が口ごもる。その微妙な表情を見ていて胸がもやついた。
こいつがこんな顔をする理由に心当たりがあったから。
はっきりとこの話を則正としたことはない。則正も言ってこなかったし、あえて突き回すべきことでもないと思っていた。でも、正直、ちゃんと確認しておきたい気持ちはあった。
というか……双葉に言ったら怒りそうだから言わないが、俺だって不安なのだ。
「はっきり訊くけど」
こいつが、双葉を好きだったという過去が。
「普段のお前だったらそう言われたらすぐ紹介してきそうだよな。俺達には畑中とのこと、打ち明けてくれてもいたんだし。でもそうしなかった。それってさ、お前が双葉を好きだったことと関係ある?」
「なっ……」
則正が固まる。一気に色づいた顔を見ていたらやっぱりむかむかした。
もう終わった話だ。でも俺はこいつにはやっぱり嫉妬してしまう。
双葉がこいつを見ていたときの目を、俺だけは知っているから。
じっと見据えると、則正は目に見えて落ち着きをなくした。水の入ったコップを持ち上げたり、ストロー袋を握り締めたりしている。
だが、ひとしきりおろおろした後、諦めたのか、肩を落としてうなだれた。
「いや、それ、双葉が言ったの? もう、恥ずかしいなあ……」
「質問の答えは」
詰め寄るように言う。則正は、うっと呻いてから溜め息を落とした。
「ないといえば嘘になる」
「それってお前がまだ双葉のこと想っていて未練があるからとか、そういう意味?」
「そんなわけないだろ!」
角張った声で問う俺の前で、焦ったように顔が上がった。
「そんな状態で保と付き合ったりしないよ。もう双葉のことは吹っ切れてる。ただの美しい思い出。そもそも双葉はお前と付き合ってるんだろ。今更どうこうしたいなんて思うわけねーよ」
「じゃあなんで、畑中の頼みを断った?」
「それは……」
則正の口が再び重くなる。その様子に俺は苛立ちを隠せずまくしたてた。
「別に責めてるわけじゃない。けど、お前が双葉のことを好きだったって話、畑中も知ってたりしないか。もしそうなら畑中としてはもやもやするんじゃないのか。お前のそういう態度」
「ちょ、ちょ、待って。俺が保と付き合ってるのと双葉のことは関係ないし」
本当に?
責め立てる言葉をさらに突き刺そうとして俺は思いとどまる。
さすがに感情が先走りすぎていた。相談に乗るというスタンスで始まったのに、これじゃあ完全に一方的なたこ殴りだ。
「悪い。こっちの話ばっかりして」
「あー、いや……ごめん。柊真の立場からしたらそりゃ気になるよな。確かに保、双葉に雰囲気似てるもんな。そうだよな、うーん」
ええと、と言葉を探すように間を置いてから則正は小さく深呼吸した。
「俺が保をお前らと会わせなかったのは、なんていうか、保自身が望んでないんじゃないかって気がしたから。っていうかさ、あのね、はっきり言うと、保には言われたんだよ。僕と付き合うのは石鈴くんに僕が似てるから? って」
「……は? 畑中自身がそう言ったの」
「そう。もちろん違うって言ったよ。けど、保、信じてなかったっぽいし。その状態で双葉と会うの、微妙だろ。だからのらりくらり返事しちゃった。俺の友達に興味持ってくれるのはうれしいけど、なんで双葉のこと気にしながらその双葉とあえて近づきたがるのか、俺にはよくわかんなかったし」
井上経由で則正の写真データを集めていたという畑中。
双葉と自分が似ていることを気にして、則正に問いただしつつ、双葉とも接点を持とうとする、彼。
正直、俺の感想としては……。
「思ったこと、はっきり言っていい?」
「それ二回目、いや三回目?」
則正の顔にやっと笑顔が浮かぶ。だが、俺としてはもう笑える気分ではなかった。
「俺は畑中の行動、気持ち悪いって思う」
則正の表情が笑顔のまま固まる。
「……それはさすがに言いすぎだろ、柊真」
何年ぶりだろう。則正の顔にこんなにはっきりとした苛立ちが浮かぶのを見たのは。
でもこちらとしても黙っているわけにはいかなかった。
「気持ち悪いだろ。付き合ってる相手のプライベートに土足で踏み込んでくる感じ。写真のこともそうだし、双葉への態度もそうだ。お前、知らないよな。畑中が双葉に直接、頼みにきたこと」
「なにを」
「俺や双葉と仲良くしたいから、双葉のほうからなにか集まれる会をセッティングしてくれって言ってきたんだよ」
「え……」
意表を突かれたように則正の顔が無になる。さすがにここまで言う必要はなかった、と思ったけれど、それでもこのままにはしておきたくなかった。
「そこまで畑中がする理由、俺にはわからない。でも畑中がなにかに焦れてるのは見てて感じた。その理由、わかってやれるの、お前だけなんじゃないの」
則正の目が不安そうにふるふると揺れる。そんな目をされると助けてやりたくなるのが付き合いの長さからくる性だが、さすがに自重した。
俺がどうこうするべきことじゃないし、むしろ今日だって語りすぎたくらいだから。
畑中のことを相手のプライベートに土足で踏み込んで気持ち悪い、とまで言ったけれど、双葉のことでかっかしてここまで則正に当たり散らしてしまう俺もまあまあ気持ち悪い。
「則正、ごめん。いろいろ言い過ぎた」
「あ、いや。そんなことない。ただ」
そう言った則正の目がふっと俺を通り越した向こうを見る。
え、と振り向く。そこで今度は俺が固まった。
強張った顔をした双葉がこちらを見つめ立っていた。
22
あなたにおすすめの小説
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
流れる星は海に還る
藤間留彦
BL
若頭兄×現組長の実子の弟の血の繋がらない兄弟BL。
組長の命で弟・流星をカタギとして育てた兄・一海。組長が倒れ、跡目争いが勃発。実子の存在が知れ、流星がその渦中に巻き込まれることになり──。
<登場人物>
辻倉一海(つじくらかずみ) 37歳。身長188cm。
若い頃は垂れ目で優しい印象を持たれがちだったため、長年サングラスを掛けている。 組内では硬派で厳しいが、弟の流星には甘々のブラコン。
中村流星(なかむらりゅうせい) 23歳。身長177cm。
ストリートロックファッション、両耳ピアス。育ててくれた兄には甘えん坊だが、兄以外の前では──。
表紙イラストは座頭狂様に描いて頂きました✨ ありがとうございます☺️
初恋の実が落ちたら
ゆれ
BL
オメガバースの存在する世界。スキャンダルが原因でアイドルを辞め、ついでに何故かヒートも止まって、今は社会人として元気に働く千鶴。お相手である獅勇は何事もなかったかのように活動を続けており、いちファンとしてそれを遠くから見守っていた。そしておなじグループで活動する月翔もまた新しい運命と出会い、虎次と慶はすぐ傍にあった奇跡に気づく。第二性に振り回されながらも幸せを模索する彼らの三つの物語。※さまざまな設定が出てきますがこの話はそうという程度に捉えていただけると嬉しいです。他サイトにも投稿済。
【完結】ベイビーダーリン ~スパダリ俳優は、僕の前でだけ赤ちゃん返りする~
粗々木くうね
BL
「……おやすみ。僕の、かわいいレン」
人気俳優の朝比奈(あさひな)レンは、幼馴染で恋人の小鳥遊 椋(たかなし むく) の前でだけ赤ちゃんに戻る。
癒しと愛で満たす、ふたりだけの夜のルーティン。
※本作品に出てくる心の病気の表現は、想像上のものです。ご了承ください。
小鳥遊 椋(たかなし むく)
・5月25日生まれ 24歳
・短期大学卒業後、保育士に。天職と感じていたが、レンのために仕事を辞めた。現在はレンの所属する芸能事務所の託児所で働きながらレンを支える。
・身長168cm
・髪型:エアリーなミディアムショート+やわらかミルクティーブラウンカラー
・目元:たれ目+感情が顔に出やすい
・雰囲気:柔らかくて包み込むけど、芯があって相手をちゃんと見守れる
朝比奈レン(あさひな れん)
・11月2日生まれ 24歳
・シングルマザーの母親に育てられて、将来は母を楽させたいと思っていた。
母に迷惑かけたくなくて無意識のうちに大人びた子に。
・高校在籍時モデルとしてスカウトされ、母のためにも受けることに→芸能界デビュー
・俳優として転身し、どんな役も消化する「カメレオン俳優」に。注目の若手俳優。
・身長180cm
・猫や犬など動物好き
・髪型:黒髪の短髪
・目元:切れ長の目元
・雰囲気:硬派。口数は少ないが真面目で礼儀正しい。
・母の力になりたいと身の回りの家事はできる。
優しい檻に囚われて ―俺のことを好きすぎる彼らから逃げられません―
無玄々
BL
「俺たちから、逃げられると思う?」
卑屈な少年・織理は、三人の男から同時に告白されてしまう。
一人は必死で熱く重い男、一人は常に包んでくれる優しい先輩、一人は「嫌い」と言いながら離れない奇妙な奴。
選べない織理に押し付けられる彼らの恋情――それは優しくも逃げられない檻のようで。
本作は織理と三人の関係性を描いた短編集です。
愛か、束縛か――その境界線の上で揺れる、執着ハーレムBL。
※この作品は『記憶を失うほどに【https://www.alphapolis.co.jp/novel/364672311/155993505】』のハーレムパロディです。本編未読でも雰囲気は伝わりますが、キャラクターの背景は本編を読むとさらに楽しめます。
※本作は織理受けのハーレム形式です。
※一部描写にてそれ以外のカプとも取れるような関係性・心理描写がありますが、明確なカップリング意図はありません。が、ご注意ください
ほおつきよ
兎守 優
BL
過去のトラウマから音に敏感な真昼は、歩道橋の下、ごうごうと鳴り響く風に耳を傾ける夕空と出会う。やがては視力と聴力を失って無音の闇に包まれる夕空、事件に巻き込まれ片目を失ったカメラマン・夜一、警察官になりたかった・朝日、四者四様の運命が絡み合う、痛みと喪失を抉り合い、そして、埋め合う物語。
今日も、俺の彼氏がかっこいい。
春音優月
BL
中野良典《なかのよしのり》は、可もなく不可もない、どこにでもいる普通の男子高校生。特技もないし、部活もやってないし、夢中になれるものも特にない。
そんな自分と退屈な日常を変えたくて、良典はカースト上位で学年で一番の美人に告白することを決意する。
しかし、良典は告白する相手を間違えてしまい、これまたカースト上位でクラスの人気者のさわやかイケメンに告白してしまう。
あっさりフラれるかと思いきや、告白をOKされてしまって……。良典も今さら間違えて告白したとは言い出しづらくなり、そのまま付き合うことに。
どうやって別れようか悩んでいた良典だけど、彼氏(?)の圧倒的顔の良さとさわやかさと性格の良さにきゅんとする毎日。男同士だけど、楽しいし幸せだしあいつのこと大好きだし、まあいっか……なちょろくてゆるい感じで付き合っているうちに、どんどん相手のことが大好きになっていく。
間違いから始まった二人のほのぼの平和な胸キュンお付き合いライフ。
2021.07.15〜2021.07.16
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる