ひーやん

文字の大きさ
3 / 8
小学6年生までの話

3

しおりを挟む
 ひーやんは私のことが好きだというの隠そうとはしないので、いろんな人にそのことが知れ渡るようになった。人気者のひーやんのことなので他の学年の子まで広まっていた。
 町の陸上大会は終わり、町大会で各種目上位3位以内に入った子は町の代表として地区大会に進むことが決まっていた。私は6年生女子の100メートルで1位、80メートルハードルで3位だった。ひーやんは6年生男子100メートル1位、ハードル2位。
 地区大会に進む人以外は放課後の陸上練習はなくなり早く帰るようになった。地区大会への練習からは全体でのウォーミングアップはなくなり、種目別練習から始まる。幅跳びや高跳び、ボール投げの準備をしている友人たちを見ながらトラック競技の私たちはウォーミングアップを始める。
 まだ右隣にひーやんがいる。
 地区大会の練習になり、短距離トラック種目(100メートルとハードル)の人数は4人になった。私、6年女子80メートルハードル1位のちっぴー。5年男子100メートルのそら。そしてひーやん。人数も少なくなって、なによりちっぴーがいたから他愛もない会話も少しはできるようになった。でもちっぴーがいないところで2人で喋るのはやっぱり無理だった。喋っているところを見られたらヒューヒュー言われるとかそういうのは二の次で、恥ずかしかったのだ。自分がひーやんのこと好きだとバレたらどうしよう。もうひーやんは気づいているのかもしれない。向こうは私のことを好きらしいから多分両思いなんだろうけど、この場合どう接したらいいんだろう。この緊張が、伝わらないようにするにはどうすればいいのだろう。お互いがお互いを意識しすぎていたのかもしれない。
 地区大会6年女子100メートル決勝。私の予選のタイムは決勝進出ギリギリでかなりはじの方のコースにいた。地区大会では、田舎すぎて指導者がいない私たちの学校のように、即席で2、3ヶ月練習するような学校は少数派だった。ちゃんと学校に陸上部があって毎日練習している子たちが出場している。決勝に残れただけでも奇跡だった。さらに今年はハードルでひーやん、ちっぴーも決勝進出というかなりすごいことが起こっていた。
 On your mark…Set…
 3年間。私はあなたにいつも敵わなかった。あなたに追いつきたくて、私は走ってきた。この期に及んでまだひーやんのことを考えていた。
 ピストルの音でスターティングブロックを蹴る。走る。走る。走る。集中しすぎて周りの歓声が聞こえたのはゴールラインを過ぎた後だった。
 まだ昔のことだったし、地区大会といってもやっぱり田舎の地区大会なので、タイムは役員の先生方がプールの監視員みたいに高いところからストップウォッチで測っている。
 どよどよしてて何事かと思ったら、場内アナウンスでビデオ判定に入ると聞こえた。
 私は町の出場者のいるテントに戻った。町大会ではライバルだったが地区大会では仲間だった。知らない小学校の子ともずいぶん仲良くなった。おつかれー、めっちゃ速かったよと声をかけてくれる。何位かは分からないらしい。みんなひと並びでゴールラインを割ったようだった。ひーやんもいた。男子と喋っている。
 14秒8で私は1位だった。4着まで同タイム。自分よりあんなに速そうな人がたくさんいたのに信じられなかった。嬉しいより、嘘でしょと思った。
 場内アナウンスを聞き、町のテントでは盛り上がって私を祝福してくれた。
 少し経って、私は役員テントの前の掲示板で自分の名前が載った結果の紙を見た。14秒8。自己ベストだった。ひーやんの今日の小学6年生男子100メートルの予選タイムは14秒6。やっぱり私は敵わなかった。
 掲示板の結果表を見ていると、隣にひーやんが1人で立っていた。
「見てたよ、おめでとう」とぼそっと言った。
なんでいつもあんなに元気でみんなの中心にいるリーダーみたいな子が、私にはこんなにゆっくり小さな声で話しかけるのだろうか。
「え、ありがとう!私もひーやんの見てたよ!入賞おめでとう!!そういえばちっぴーの決勝とか見た?あとさ、」
本当は2人きりで緊張して何喋っていいか分からなくなって、でもテンション上がって余計なことまで喋ってしまう。ひーやんはびっくりした顔をして私の話を黙って聞いていた。
 ありがとうと一言だけ返すのがかっこよくて可愛い女の子だったんじゃないかと分かっていたのに、余裕がない。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

夫婦交錯

山田森湖
恋愛
同じマンションの隣の部屋の同い年の夫婦。思いの交錯、運命かそれとも・・・・。 少しアダルトなラブコメ

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

処理中です...