K 紅き絆

ヨノ

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悲しみの記憶

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私は人間じゃない。少なくとも人間ではない。でも、自分の親は人間なのに。

「お母さん、私は人間なの?」突然、母に問うた。
「あやの、よく聞いて。あなたは周りの人たちとは少し違うけれど、なにも怖がることはないわ。もし周りの人たちが、あなたを批難してもお母さんたちが守るから。」
「かわいい自慢の娘を批難するなんて、お父さんが許さないよ。」母と父は口を揃えて言った。
私は普通の人間とは違う。二つの姿を合わせ持っている。また、人間には有り得ない力を持っている。
「さあ、お部屋に戻って寝る支度をなさい。あとで、お母さんも行くから。」
私は自室へ戻り、母に言われた通りに寝る支度をした。ベッドに横たわり天井を見つめ、ぼーっとしていた。
突然、下の階で窓ガラスが割る音がした。続けて母の悲鳴と父の怒号。慌てて飛び起き、階段をかけ降りると見知らぬ男が4人立っていた。男たちの手の中に月明かりに照らされて何かが光っていた。次に気がついたのは空気中に漂う鉄の匂い。空気を吸うだけで体の中の何かが興奮してくる。混乱している頭で横を見ると、母は頭を抑え、父は母の肩を抱き支えている。
「あやの、逃げて!!」母の鋭い声が部屋に響く。
「逃げるんだ!!こいつらは父さ…」突然、父の声が途切れ、金属と骨が砕ける音がしたのは同時だった。いや、少なくとも私にはそう聞こえた。ゴロッと足元にボールが転がってきた。それを父の頭だと認識するのに2秒はかかった。
さっきよりもぐっと鉄の匂いが強くなる。いきなり、強い力で後ろに突き飛ばされた。「母を守らなくては。」頭の中はそれでいっぱいだった。だが、足が床に張り付いているかのように動かない。
「やめなさい!!せめてこの子だけは助けて!!!」母の声を聞いているだけで精一杯だった。母の短い悲鳴。顔を上げてみると、1人の男が母の髪を掴んで無理やり持ち上げていた。ここまで一度も耳に入ってこなかった見知らぬ男たちの声がいきなり入ってきた。
「愛する母親が自分の目の前で喉を掻き切られたらどうする?まあ、そんなもんじゃ終わらねぇけどな!」まだ体は動かない。目が母と男に釘付けになる。
母の唇が微かに動く。その直後、顔に赤い液体が降りかかる。母の体を軽々と投げ捨てる。その時、私の中で何かが壊れた。体の奥深くにあるマグマのように燃えたぎる炎が体から溢れ出た。
目の前が紅く染まる。

そこからは何も記憶にない。ただわかること、母と父は死んだ。そしてのちにこの悲劇は事件になった。世間にはこう伝えられた。
~被害者はこの家に住んでいた30代の夫婦。夫は首をはねられ死亡。妻も喉に大ぶりのナイフでの傷があり出血多量で死亡。犯人は4人の男性と見られる。ただし、4人の詳細はわからず。その理由として4人は原形をとどめておらず、溶けていた。原因は高温火傷により体が溶けたと考えられる。不可解な点として4人と同じ部屋で殺害された夫婦にはナイフの傷の他には目立った傷害はなかった。また、夫婦には1人の娘がいるが、行方不明。犯行時刻数分後、通行人が白く赤い目をした狼が走り去るのを目撃。事件は未だに未解決。~
                                                 つづく
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