引きこもりで時代遅れの剣士は子竜を愛でる

雪野ゆきの

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「キュイ~」


 高い声で鳴く小さなドラゴン。心なしかこちらに向けて手を伸ばしている気がする。
 俺は子竜を抱き上げてやった。

 ……軽いな。
 真っ白いその表面は滑らかで触り心地が良く、ほのかに温かかった。

 はっ!

「エド、確か生まれたばかりの赤ん坊は産湯とやらにつけるんだったよな」
「そうっすね」

 俺は慌てて鍋で湯を沸かした。
 強火にして急いで温める。


 うん、丁度良いくらいか……。

「よし、入れるぞ」
「キュイ?」
「ちょっと待ったあああああ!!鍋グッツグッツ言ってるんすけど!?それもはや熱湯っすから!あんたその子茹でる気っすか!?」

 慌てたエドウィンに子竜を奪われてしまった。

「キュイ!?キュイィ~!!」

 俺からエドウィンの手に移った瞬間、子竜はちっちゃな手をバタバタさせて暴れだす。
 突然のその行動にエドウィンは狼狽えた。

「え!?ちょっ!うわっ!!」

 子竜がエドウィンの手を引っ掻いたことでエドウィンの拘束が緩んだ。

 ポチャン

「「!?」」

 子竜が鍋に落ちる。

 エドウィンの顔が一瞬で真っ青になった。だが……。





「キュイキュイ~♪」


「え?」

 子竜は熱湯の中で嬉しそうに浮いている。
 そりゃそうだ。生まれたてとはいえ竜が熱湯ごときでダメージを負う筈がない。

 なるほど、魔法に長けた種が減っていくにつれてこういった知識も廃れていってしまったのか……。

「キュイキュイ~!」

 俺が子竜に目を向けると、嬉しそうに両手を伸ばしてきた。
 熱湯に触れないように抱き上げてやる。

「お前も、もう少し早く生まれていればよかったのにな……」

 この子が同類に会うのは難しいだろう。
 そしてドラゴンがどの種族よりも長けている魔法も、今では魔導エネルギーに取って代わられ時代遅れの産物と化している。

 この子は俺と同じだ。



 俺が考え事をしていると、子竜は何やら口をパクパクさせている。
 腹が減ったのか?

「キュッ……ぱ……ぱ……」
「!?」

 今なんつった?
 聞き間違えじゃなければパパって聞こえたが、偶然か?

「ぱぱ……?」

 今度は先程よりもハッキリと聞こえた。

 俺が……父だと…………?

 生まれて最初に見たから刷り込みだろうか。子竜はどこかキラキラした目を俺に向けてきている。
 正直この子を育てるのはやぶさかでもないと思っている。だが、俺は父親としてこの子を育てることができるのだろうか。
 まだ二十代前半の若造だし、人間ができている方でもない。

 俺がどう答えるべきか悩んでいると、子竜の目がうるんできた。

「ぱぱぁ……?」

 俺がなかなか答えないことで不安になったのだろう。
 もう、俺が声を発したのは無意識だった。


「ああ、俺はお前のパパだよ」

 そう言って気付いたら俺は子竜を抱き締めていた。


「キュッキュッキュ~♪」

 子竜は嬉しそうに鳴き声を上げる。

 かわいいな……。

 さて、そうと決まれば名前を付けなければな。
 子竜を持ち上げる。……うん、女の子か。

「エド、どんな名前が良いと思う?」
「そうっすね、ドラゴンだからかっこよくアレクサンダーとかどうっすか?」
「よし、決めた。ヒナにしよう」
「俺に聞いた意味!!」

 女の子にアレクサンダーはないだろ。
 
「可愛い名前っすけど、何でその名前にしたっすか?」
「卵から生まれたんだから雛だろ」
「何て安直な!!」

 安直でもいいだろ、覚えやすいんだから。
 俺は腕の中の子竜と向き合う。

「いいか?今日からお前の名前はヒナだ」


「キュィ~!!」


 俺がそう言うと、子竜はとても嬉しそうに鳴いた。




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