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いつかの時計塔の少年
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暖かく、柔らかな午後の陽射しが辺りを包んでいる。都内の林立するマンションの前広場に、
いつもの少年の姿があった。
その日、小学三年生の優太はいつものように独りでその広場に居た。彼の他に人は殆どおらず、実質上空間独占状態であった。
この広場…割りと木が多く生えていて、灰色の無機質なコンクリートジャングルを、鮮やかな緑色で彩っている。
そんな木々に紛れて、所々錆びた小豆色の時計塔が聳え立っていた。
優太はマンションの住人ではなかったが、この古びた時計塔の下で遊びたくて、わざわざ離れた一軒家から自転車で来ていたのだ。
塔の前付近には、優太の臍ぐらいの高さのブロッコリーみたいな低木が手入れをされて沢山生えていた。彼はそこを迷路に見立てて遊ぶ事を楽しんでいた。
優太は3時40分過ぎにここに来たのだが、ほんの4~5分程度ブロッコリーの中をうろうろしてから、時計塔の時間を見た。すると時計の針は、4時46分を指していた。
「え?おかしいな……?何で……」
口をポカンと開けてぼんやり空中の時計を眺めていたが、取りあえずこの日は帰宅する事にした。
しかし、この後も優太少年はこの摩訶不思議な体験をし続けるのだった。
ある日学校で、マンション前広場の時計塔の話をクラスメイトに話した。すると興味を持った二人の友達、リョウとコウジと一緒に行く事になった。
そして三人は放課後、例の塔の前に集合した。
「この時計がそうなの?壊れてて、針が早く進むんだろ?」
「違うよ!ここにいると時間がとても早く進むんだよ。時計は壊れてないよ!」
ムキになって反論する優太に、半信半疑の二人の級友は不敵な笑みを浮かべてニタニタ笑っている。
「もう5分以上経ってるけど、何にも起きないじゃん」
確かにいつもなら異常に早く時間が進むのだが、この時は別段何も起こらなかった…
「いつもひとりの時は不思議な事が起きるのに、どうしてみんなが見てるとダメなんだ?」
優太は半ば愚痴りながらタコみたいに唇をすぼめた。結局その日、三人は適当に鬼ごっこをして解散帰宅した。彼は夜、眠る直前に昼間の時計塔の事を思い出していた。
……不思議なのは、時間の事だけじゃない。あそこに居ると何故だか温かくて優しい風に包まれた様な感覚に陥るのだ。それが何かはハッキリ分からないが、きっとこの感触が忘れられずあの場所に行くのかも知れない。
それから数ヶ月後の夏の日、優太は溶け始めたアイスキャンディー片手に時計塔の前をうろついていた。ムッとする夏特有の熱気の中にいると突然後ろの辺りから声が聞こえた。
「……僕ちゃん!君だよ、優太君!」
優太が振り向くと、木製のベンチに腰掛けた、
40過ぎ位の中年男性がこちらを見つめていた。
「………何で僕の名前知ってるの?おじさん誰?」
怪しんでると、中年男が口を開いた。
「ここはとても不思議で優しくて、懐かしい場所だろ?ここに居ると温かい想い出にくるまれた感じになるよねぇ?」
「………………?」優太はキョトンとしている。
「もう時間だ、行かなくちゃ。想い出は大切にするんだよ、優太。」
その言葉を聞いて、時計に目をくれて再度ベンチを見たら、そこに男の姿は無かった。
またもや狐につままれた様な感じの不可思議な出来事に、優太は唖然とするしかなかった……
それからとても長い時間が過ぎた。
大人へと成長した優太は、もうこの場所に来る事はなくなっていた。しかしある暖かい春爛漫の日、ふとした懐かしさに誘われて何十年と代り映えしないこのマンション前広場の、時計塔に来た。
ゆっくりと近くのウッドベンチに腰掛けると、
遠い夏の日の自分を思い出していた。
優太は誰もいない時計塔の記憶の中の自分に
呼び掛けたのだった……
「懐かしいな……僕ちゃん、君だよ…優太君…」
「………………想い出は大切にするんだよ、優太。」
そう言うと、優太は優しい風に包まれて
歩き出すのだった……
いつもの少年の姿があった。
その日、小学三年生の優太はいつものように独りでその広場に居た。彼の他に人は殆どおらず、実質上空間独占状態であった。
この広場…割りと木が多く生えていて、灰色の無機質なコンクリートジャングルを、鮮やかな緑色で彩っている。
そんな木々に紛れて、所々錆びた小豆色の時計塔が聳え立っていた。
優太はマンションの住人ではなかったが、この古びた時計塔の下で遊びたくて、わざわざ離れた一軒家から自転車で来ていたのだ。
塔の前付近には、優太の臍ぐらいの高さのブロッコリーみたいな低木が手入れをされて沢山生えていた。彼はそこを迷路に見立てて遊ぶ事を楽しんでいた。
優太は3時40分過ぎにここに来たのだが、ほんの4~5分程度ブロッコリーの中をうろうろしてから、時計塔の時間を見た。すると時計の針は、4時46分を指していた。
「え?おかしいな……?何で……」
口をポカンと開けてぼんやり空中の時計を眺めていたが、取りあえずこの日は帰宅する事にした。
しかし、この後も優太少年はこの摩訶不思議な体験をし続けるのだった。
ある日学校で、マンション前広場の時計塔の話をクラスメイトに話した。すると興味を持った二人の友達、リョウとコウジと一緒に行く事になった。
そして三人は放課後、例の塔の前に集合した。
「この時計がそうなの?壊れてて、針が早く進むんだろ?」
「違うよ!ここにいると時間がとても早く進むんだよ。時計は壊れてないよ!」
ムキになって反論する優太に、半信半疑の二人の級友は不敵な笑みを浮かべてニタニタ笑っている。
「もう5分以上経ってるけど、何にも起きないじゃん」
確かにいつもなら異常に早く時間が進むのだが、この時は別段何も起こらなかった…
「いつもひとりの時は不思議な事が起きるのに、どうしてみんなが見てるとダメなんだ?」
優太は半ば愚痴りながらタコみたいに唇をすぼめた。結局その日、三人は適当に鬼ごっこをして解散帰宅した。彼は夜、眠る直前に昼間の時計塔の事を思い出していた。
……不思議なのは、時間の事だけじゃない。あそこに居ると何故だか温かくて優しい風に包まれた様な感覚に陥るのだ。それが何かはハッキリ分からないが、きっとこの感触が忘れられずあの場所に行くのかも知れない。
それから数ヶ月後の夏の日、優太は溶け始めたアイスキャンディー片手に時計塔の前をうろついていた。ムッとする夏特有の熱気の中にいると突然後ろの辺りから声が聞こえた。
「……僕ちゃん!君だよ、優太君!」
優太が振り向くと、木製のベンチに腰掛けた、
40過ぎ位の中年男性がこちらを見つめていた。
「………何で僕の名前知ってるの?おじさん誰?」
怪しんでると、中年男が口を開いた。
「ここはとても不思議で優しくて、懐かしい場所だろ?ここに居ると温かい想い出にくるまれた感じになるよねぇ?」
「………………?」優太はキョトンとしている。
「もう時間だ、行かなくちゃ。想い出は大切にするんだよ、優太。」
その言葉を聞いて、時計に目をくれて再度ベンチを見たら、そこに男の姿は無かった。
またもや狐につままれた様な感じの不可思議な出来事に、優太は唖然とするしかなかった……
それからとても長い時間が過ぎた。
大人へと成長した優太は、もうこの場所に来る事はなくなっていた。しかしある暖かい春爛漫の日、ふとした懐かしさに誘われて何十年と代り映えしないこのマンション前広場の、時計塔に来た。
ゆっくりと近くのウッドベンチに腰掛けると、
遠い夏の日の自分を思い出していた。
優太は誰もいない時計塔の記憶の中の自分に
呼び掛けたのだった……
「懐かしいな……僕ちゃん、君だよ…優太君…」
「………………想い出は大切にするんだよ、優太。」
そう言うと、優太は優しい風に包まれて
歩き出すのだった……
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