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8.~魔王の楽園~

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 薄暗い地下宮殿の玉座に、真っ黒なローブを纏った魔王が座していた。静寂に包まれているが、不気味な妖気が漂うここは、いにしえの神殿遺跡の地底にあった。

 「お呼びですか、我が主……」
魔導士ジャノンは跪いて言った。

 「……大魔女はともかく、よもやあの様な小娘が
我が軍を退けるとはな。」
魔王は傍らにマリアをはべらせて、彼女の長い黒髪を撫でながら言った。

 「次はサンブルクの王の首を獲れ。……失敗は許さぬ。…場合によってはお前にも出てもらうぞマリア…」
低い声で魔王は、うっとりしているマリアの
顎を指で持ち上げながら言った。

 「御意……………」
ジャノンは答えると、直ぐにサンブルク城急襲の準備に取りかかった。

 一方その頃、サンブルク城では豪華な晩餐会が催されていた。エスピアートでの戦いから既に5日ほど経っていたが、戦況は予断を許さない状況であり、ルネとサラの魔女姉妹も城に駐留していた。

 「………はて?大魔女クロエの姿が見えぬが?」 リカルド国王が疑問に思っていると、
サラが答えた。

 「お婆ちゃん…いえ、祖母は森へ帰宅しました。」

「 ふむ。我々をあまり快く思っておらぬのか…
まぁ、いたしかたあるまい。」
王は焼きたてのステーキを食みながら言う。

 「それにしても魔法って凄いよな!俺は正直、魔法なんて剣には及ばないって思ってたけど、
あんな凄まじい威力の魔法を見せられたら、感服するぜ。」

竜騎士セシルは興奮気味にルネの戦い振りを誉めた。

「シジル(魔法印)を描いて唱える魔法は、詠唱だけの魔法より遥かに強力なの。その分威力もかなり強いけど、半端なく魔力を消耗するけどね」

サラはワインを飲みながら解説する。

 「敵はおそらく、次にこの城下町に攻め入るやも知れませぬ。方々、油断なさらぬよう…」

年老いた大臣の心配をよそに、楽天的なセシルは勝利を確信していた。
「俺達の剣技とルネ達の魔法があれば、きっと勝てるさ!な?マクベス?」

 「まったく……お前は単純な奴だな…」
白鳥騎士マクベスは苦笑いで答えた。

みんなが談笑している中、エリアル王子は無言のまま、静かにサラダを食べているルネを、
じっと見つめていた。彼女が王子の熱視線に気付くと、王子は爽やかな笑顔をルネに見せるのだった。

 しかしこの夜、事態は風雲急を告げていた……
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