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11.~もうひとりの魔女~

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  「誰だお前は!?」

セシルの問いに緋色のローブを纏った、とんがり帽子の魔女らしき女は答えた。

 「私はレオノア。…よくも私の可愛い下僕のキマイラを倒してくれたわね…今からたっぷり仕返しをするわ!」

 「レオノア…………!?」サラの表情がこわばる。

 「お姉ちゃん知ってるの?」ルネが訊く。

 「ルネは知らない?歴史の本に出てくる、遥か昔の魔王の配下の邪悪な魔女の話を……」

そこまでサラが言うと、遮る様にレオノアが言う…

 「あら、物知りね。そんな私と戦えるなんて、あなた達は光栄でしょ?あなたも魔法使いみたいだけど、どの程度の実力なのか見せてごらん」

 巧みな挑発でサラの実力を計ろうとするレオノア。少しだけ瞑想した後、魔力が高まったサラは淡い桃色のロングヘアーをなびかせながら、
攻撃呪文を唱えた。

 「ハイエスト・ウインド・マージ!!!」
辺りに吹いていた微風が急に勢いを増し、
鎌鼬の様に襲いかかる!
レオノアは素早く同じ呪文を唱えて、これを相殺した。

 「これでお黙り。…ハイエスト・マフーバー・プロミネンス!!」

 「きゃあ!!?」

サラは呪文が封じられてしまった……!

 「魔法が使えない魔女なんて、羽根をもがれた鳥みたいなものでしょ。フフフ……」

レオノアの嫌みたらしい笑いに、ルネは心配そうに呟いた。

 「お姉ちゃん………。」

「お前達に、私のとっておきの技を見せてあげる
………。」
次にレオノアは暗黒のオーラを纏うと何やら長い呪文をぶつぶつ唱え始めた。

 「私の目を見なさい。」青白いこの邪悪な魔女の
両目が激しくオレンジ色に光った!

 「!!!?みんな!目を閉じて!早く!」
サラが叫んだ。

ヒュウウウ……風の音が不気味に響きわたる。

 「…………!!?これは…」

ゆっくり目を開けると、そこには皆を庇うように両腕を大きく広げて石像になったビゴーの姿があった。

 「これは…!!石化魔法!」
驚愕する一同に、レオノアは赤い棘の付いた長い鞭を取り出すと、地面にビシッと一打ちした。

 「私と目が合って石になった者の末路はね……こうなるのよ。」
レオノアは鞭を振るい、石像と化したビゴーの巨体に巻き付けた。

 「何を!!?やめろ!ビゴー!!」
何を叫んでも後の祭り。魔法で鞭全体が炎に包まれると、ビゴーの全身に伝わりその瞬間
大爆発が起きた。四散するビゴーの欠片は、
非情にも雨の様に辺りに降り注いだ。

 「アハハハハハハハ…………見たぁ?ウスノロ木偶の坊らしい死に様でしょ?」

 この悪魔の様な魔女の高らかな嘲笑は、大切な仲間を失った者の復讐心を燃え上がらせるのに充分だった。

 「貴様あぁぁぁぁぁっ!!!!」
叫ぶなり、竜騎士セシルが残影撃という技で斬りかかった。レオノアは鞭で応戦するが、切り刻まれて役に立たなかった。

 「ハアアアア!!!!」
セシルは高くジャンプすると、渾身の一撃で上から剣を振り下ろす!!
 ガキーン!!!
しかし魔女は隠し持っていた鉄の杖でそれを防いだ。ギリギリギリ………震える右手の杖で剣を防ぎながら、左手でセシルの腹部めがけて魔法弾を撃ち込んだ。バシューッ!!!

 「ぐああっ!!!」 セシルの身体は宙高く舞い、地面に叩きつけられた。

 「セシル!!大丈夫か!?」マクベスが叫ぶ。

 「勢いだけで勝てると思わないことね!次で全員あの世に送ってあげるわ!!」
そう言うとレオノアは再度魔力を高め始めた。

 「ビゴーさん…………。」

ルネは砕け散ったビゴーの欠片を手にすると、
静かに目を閉じた…。そして涙が混じった瞳を開けると、全身から強大な魔力の片鱗を覗かせ始めるのだった。

 「何!?何なの?」

魔力を高めていたレオノアは、ルネの様子を見て驚いた。

 「ルネ、あなた…………」サラも妹のあまりの魔力の大きさに驚いていた。

 「そうか、お前も魔女なのかい。せいぜい見習い程度の素人かと思ったら、そうでもないみたいだねぇ?」

ルネの魔力がどんどん高まってゆく………

 「お前の魔法も封じてやる!ハイエスト・マフーバ・プロミネンス!!」

レオノアは再び封印呪文を唱えた……が、白く光るルネの身体の前でかき消された。

 「なっ…………何だと?!」

ルネは魔法のロッドを振りかざすと、高らかに詠唱した。

 「ホーリー・スターティンクル・プロムナード!!!」

激しい白銀の光の中で、邪悪ないにしえの魔女はその存在を維持出来なかった。聖なる光は火炎となって、レオノアの肉体を焼き尽くす!

 「ぎゃあああああっ!!!」

断末魔の叫びが消える頃、魔女も消滅した。

 「やった………のか?すごいなルネ!」

騎士達が感心してる中、ルネは無言で女神像の前に来て目を閉じると、像に触れて魔法エネルギーを注入し始めた。

光を帯びたルネの身体から闇月の女神像へと魔力が伝わる。すると像の頭部から一筋の光の柱が、暗雲垂れ込める上空へとまっすぐに放たれた。
光柱は黒雲に穴を穿ち、みるみる広げてゆく…
そこには巨大な満月が、静寂の威圧感と共に
優しげな月光を放っていた。

月明りを浴びた女神像は光り始め、今度はサンブルクの城下町めがけて、強い光を放つ。

 「見て!町の黒い結界が消えていくわ!」

シャネルが嬉しそうに言うと、全員が新たな戦いへの決意を覚悟するのだった………
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