2回目の逃亡

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2回目の逃亡

 エラはふと目覚めた。そして眠気眼のまま身体を越し、違和感に気づく。どこか見た事のある懐かしい部屋。木製の蔦の縁取りがなされた豪華な鏡台。深紅のフカフカな絨毯。そして自分は天幕付きのベッドの中にいる。

(昔住んでた部屋だわ・・夢か・・もう一度寝よう。)

 過去に戻るとか、転生をするとかそういう超常現象は信じない現実主義者なのだ。でもそのまさかの超常現象身に降り掛かっていることに気づくのは、この3時間後である。結構寝ている。
 
「お嬢様!起きて下さいませ!!」

少々乱暴にシーツをめくられてエラは起こされた。

(ん?この声はハンナ!?)

 がばりと起きてみると、見知った顔があった。

「若いハンナがいるぅ!!」

「何を失礼な事を言うんですか、私はまだ17歳ですよ!言われなくても若いハンナです!まあそろそろお嫁に行きたい年頃ではありますが、まだまだこれからなんです!!」

ぺちゃくちゃと喋りながらもハンナはエラの身支度をテキパキと整えていく。

(ハンナは私より1歳年上・・・。という事は私は16歳!)

「昨日のお茶会、お嬢様すごく緊張されてましたものね。今日はまだ疲れが残ってらっしゃるんですかね。」

「お茶会・・・。ええっと・・」

「嫌だ、お嬢さまったら!もうルイス殿下とのお茶会ですよ!上手くいって良かったですねぇ!!え!?やだ!お嬢様!お嬢様~!!!」

 ハンナは白目を剥いて倒れているエラを揺さぶり続けた。

 この後、お医者様が来て安静に寝ていましょうということで、エラは再びベットの上である。

 そしてこの状況を整理した。過去に遡ってる。信じがたいけどそうだ。こんな超常現象が自分によもや降りかかるとは思わなかった。

 前の人生ではお茶会の直後に逃げた。このお茶会はルイス殿下と婚約する前の顔合わせだからだ。

 エラは自分の力量をきちんと正確に自覚していた。全くもって王妃の器ではないのだ。エラは何をやっても平均値である。学業も武芸も色々と頑張るけど平均を超える事はない。容姿も平凡な茶色の髪と目。顔の造形も目立ったところはなく、ちんまりした鼻にそばかすがあり、それが親しみやすさを感じさせるくらいだ。そんな超絶平凡なエラに権力関係やらパワーバランスやらなんやらかんやらで回ってきてしまったのだ、王妃というでっかいお鉢が。

 なのでエラは逃げることにした。

 誕生日に両親からもらった宝石やらドレスやらを商人の友人にこそこそ売り払って逃走用の資金にした。家族には『今までありがとうございました。探さないで下さい。』というお決まりな手紙を残した。仕事に忙しい両親は平々凡々なエラにあまり関心がないから、置き手紙だけでも充分だと思った。今までありがとうございましたと眠る両親の部屋に向かってぺこりとお辞儀して、明朝にベランダの柵にロープを括り付け、部屋からするすると屋敷を抜け出した。


 逃亡先は、平民の友達の伝手の伝手をたよりに隣国の小さな洋裁店で勤めることになった。そこでエラはお針子見習いをしながら住み込みで働き、2年後には洋裁店に出入りしていた業者の男性と結婚した。

 二人は洋裁店新たに開いてを切り盛りし、その経営が軌道に乗った頃には子宝に恵まれ、その子供が成長すると洋裁店の事業を拡大して1号店2号店と店舗を増やしていった。そして、商売仲間の伝手をたよりに帝国にも出店しちゃったりして、ちょっぴり贅沢な老後を送り、子供と孫に囲まれ惜しまれつつの大往生をして永眠したのだ。

 
(最高な人生だったわ・・・。一辺の悔いなしよ。なのに永眠から覚めちゃって、2回目??ん~、よし!とりあえず2回目も逃げる!!逃げる一択!!待ってて私のちょっぴり贅沢平凡人生!!)


 そうと決まれば、善は急げである。もぞもぞとベッドから起き上がり過去の自分が用意していたであろう逃亡用の資金と服を探すことにした。

(確かここに、置いていたような・・・)

もぞもぞとベッド下に潜っていると

「エラ嬢。お探しの物はそこには、ないよ」

エラが声のする方に振り返ると、金髪碧眼の美青年が指で巾着袋をプラプラさせながら立っていた。

(!!!!!)

「ふふふ、その顔すごくいいね!鳩が豆鉄砲食らったって感じだ。エラ嬢がお探しの物はこれじゃないのかな?」

つかつかと間合いを詰められてしゃがみこみエラの目の前に逃亡資金が入った巾着袋をみせた。

「ルイス殿下・・・??なぜここに??」

「嫌だなあ。婚約者が白目剥いて倒れたって聞いて急いで様子を見に来たんだよ。ふふふ」

「そ、そうですか・・・。白目剥いてるところまで伝わってしまっているなんて。((ハンナめ!!))嫌だわ、ほっほほほ・・・。それで、ルイス殿下その巾着袋返して下さいますか?私のとても大切な物なんですの」

「嫌だよ」

「えっ?」

「君は、このお金を使って隣国に逃げるつもりだろう」

(な、なぜそれを!!)

「全部顔に出ちゃってるよ。君って、かわいいね」


「ところで君は、王妃にふさわしい人ってどんな人だと思う?」

ルイス殿下はマジマジとをみつめながら聞いた。

「それは、文武両道で人格素晴らしい人ですかね・・」

エラはおずおずと目線をそらしながら答えた。

「そうだね、僕も1回目の人生の時はそう思ってた。でも違う」

「1回目??」

「そう、僕はね2回目を生きてるんだ。王家には秘宝というものがある。この秘宝で時間を巻き戻したのさ。この時に戻りたくてね。君を逃したくないんだ」

 そう言うと赤色のルビーのようなキラキラと輝く宝石を見せた。

「話は戻すけど、王妃にふさわしい人は君だと思ってる」

「冗談ですよね?」

 エラは間髪入れずに言った。

「いや、本気だけど。」

 ルイス殿下はしれっと言う。

「そんな訳ありません。私は何をやっても平均的にしかできません。学業優秀なマリアンヌ嬢とか、慈善活動に熱心なソフィア嬢とか、ダンスもお上手な美しいニーナ嬢とか色々います!大丈夫です!殿下!私以上にふさわしい方が沢山いらっしゃいます!だからここは一つ、黙って逃して下さいませ!!」

 エラは土下座よろしく、床に額をすりつけてお願いした。エラにプライドなどない。

そんなエラを前にして、ルイス殿下はベッドに腰をかけた。

「そう、君は公爵令嬢にも関わらず1回目上手く逃げた。1回目の私は、君が逃げたと知ってもどうでもいいと思ってた。だって能力も容姿も秀でたところが何一つない君は平々凡々だ。逃げるとは失礼な奴だとは思ったけど、君以上の代わりはいくらでもいる。実際1回目は、マリアンヌ嬢と結婚した」

「じゃあ!!「でも君は、一つだけ恐ろしく秀でた能力がある。それはコミュニケーション能力だ。君は何故逃げおおせれたか。それは友人に協力してもらったからだ。平民の友人の伝手を使って」

「そ、そんなにおかしな事でもないでしょう」

「貴族のご令嬢がだ、階級という差があるにも関わらず平民と友人になり、その友人の友人に隣国の通行証を用意してもらい、仕事の斡旋をしてもらった。洋裁店ではオーナーに可愛がられて、店を持ち、果ては帝国にまで出店する大きな店になってるじゃないか。私は、国王となってパーティーで着用する服を仕立てる際に商人が今流行のブランドですって見せられたブランドがエラ・フォックス。驚いたよ、昔の婚約者候補の名前じゃないかって。何、堂々と名前使っちゃってるんだよ。そこから調べたんだ、君が逃げた後どうなったか。君は知らないかも知れないけどご両親は君をちゃんと愛してたんだよ。君がいなくなった後、君を血眼で探して、見つけたけれど君が幸せそうな様子を見てこのまま内緒にしておこうってなったんだ。君は貴族にありがちな上から目線がない。上も下もなくその場にすっと馴染むことができる。そしてその平凡な容姿は人を油断させる。君は無意識なんだろうな、そうやって人の心に取り入ることがことのほか上手いんだ。それが商才にいかんなく発揮された。僕はこの国を良くしたいと思ってる。この国の発展は他国との協調によってこそ良くなるんだ。そこで、2回目は君のそのコミュニケーション能力を王妃として是非とも生かして「絶対嫌です!!!!」

 エラは食い気味に言った。

「これは決定事項なんだよ」

 ルイス殿下はたしなめるように言った。

「無理ですよ!!!何なんですかコミュニケーション能力って。両親には悪い事したなって思うけど・・・。でも殿下の言ってる意味わかんないですよ!ただの人付き合いじゃないですか、誰だってやってる事じゃないですか。あとブランド名は娘のエミーが勝手に新ブランドだってつけたんですよ!」

「そう、君は自分を過小評価する。それがまた人を油断させるんだ。ほんと人が悪いなあ君は。あと君は、うっかりさんだねぇ、1回目の記憶もあるようじゃないか。話が早くていいね~♪そんな慌てて口を塞いでも駄目だよ。 お・馬・鹿・さ・ん♪」ちょこんと指で額を小突かれて、にこっと笑顔を見せた。目は笑っていない。

エラは呆然とした。

(ひぃぃぃぃぃぃ!!こ、怖い!!!)

「さ!お互いの気持ちを確かめ合ったんだから婚約の書類にサインしに行こうね~♪素敵な2回目の人生にしよう!!」

 そういうとルイス殿下はエラの寝間着の首根っこをつかみながら、ズルズルと引きずった。

エラは引きずられながら涙目で天井をぼんやりと見上げながら、諦めきれない2回目の逃走の算段をし始めた。


end





感想 8

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みんなの感想(8件)

penpen
2026.03.08 penpen

王城でエラちゃん無双で逃げ切れるに1票

解除
ミッキー
2026.02.28 ミッキー

王子引くわ
コミュ力が重要だって思ったなら自分なり王妃なり家臣なりコミュ力身につけるとか、人に好かれる人材見つけて外交官に登用するとかあるだろうに
時間戻してコミュ力のある令嬢を無理やり王妃にすればいいって、他に解決策は思い浮かばないのか

解除
neko00
2025.10.23 neko00

長編にして欲しい作品でした。

解除

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