上 下
7 / 8

6 執事視点

しおりを挟む
 はじめまして。
 私はこの屋敷の執事を勤めさせていただいていますセバスと申します。以後お見知りおきを。
 さて、私たちは今日、重要な日になりました。
 そう、シンシア様のお見合いの日です。相手はかの有名なギルディール侯爵様です。エドワルド様からも厳重に命ぜられています通りぬかりがあってはいけません。

 それはそうと昨日のことを全使用人に伝えなくてはなりません。ですので、私は朝礼にて全員にエドワルド様の命令や決定事項等を伝えました。
 勿論、シンシア様の本来の立場もですね。
 まぁ、皆さんに動揺が走ったのは必然でしょうね。何故なら本来仕えるべき相手を蔑ろにしてきたということなんですから。

「で、では、シンシア様は」
「はい。私たちが優先してお仕えする方です」
「ですが、エリアーデ様やミーナ様が」
「エドワルド様、我が家の当主様より理不尽な命令を聞く必要はないと判断されました。それにワルディス様には当主代理の権限は無くなりました。よって、エドワルド様ご不在時はシンシア様に判断を仰ぎます」
「ですが、そのような事あのシンシア様に出来るはずが」
「口をわきまえなさい!本来エドワルド様ご不在の際はシンシア様となっているのです」
「え?」

 侍女頭であるマリアナの言葉に全員が静まり返りましたね。
 仕方無いですね。ここにいる大半はワルディス様が代理となった経緯を知りませんからね。

「エドワルド様がこの王都の屋敷を任され、王宮で働かれることになりました際、寄宿舎生活とのことになりまして、留守を預かる人が必要になりました。その当時シンシア様は幼く判断を仰げませんでした。それによりワルディス様を当主代理の代理としていただけです」

 私の話に皆さん驚愕しているようですね。
 それもそのはずです。エドワルド様ご不在時にワルディス様が何の相談もなく新たに採用された面々がほとんどなのです。
 そのためエドワルド様が当主であるのは分かっていますが代理はワルディス様だと信じていたみたいです。
 本来は許されないのですが、採用してしまった者を間違いだったと言って帰すわけにもいきませんでしたから。
 ですが、ここでしっかりと我が家の順位を理解していただきましょう。
 そうしないと本当にエドワルド様だけでなく、サラティナ様からもお叱りを受けましょうし、暇を出されます。

「我が家は現在、領地をおさめるサラティナ様が本来の血筋です。なので、その血を受け継ぐエドワルド様とシンシア様のみが正当な主人です」
「ですので、ワルディス様もその血だけのミーナ様もエリアーデ様も我が家の使用人たちに命令する権限はありません」
「これは正式に行政にも伝えられます。分かりましたね。では、本日は大事なお客様が参られます。我が家よりかなり上位のお客様です。ミスがあってはいけません。いつも以上に気を引き締めて取り組んで下さい」
「「「「「「は、はい!」」」」」」
皆さん、戸惑いながらも返事をしましたね。
しっかりしてくださいね。
今日は本当に正念場なんですからね。

実は執事である私や侍女頭のマリアナは唯一、我がグリファス伯爵家にもともと仕えている使用人です。
当時は執事見習いをやっと終えようとしていた時期で、マリアナも侍女見習いを終えたばかりでした。
そんな時にワルディス様より人員を大幅に入れ替えされたのです。
最初は全員入れ換える予定だったみたいですが、それでは伯爵家のことを誰も分からなくなるので、扱いやすいと判断された私たちと数人の若い侍女たちが残っただけでした。
それ故に我がグリファス家は変わってしまいました。

いえ、そんな事、今は関係ありませんね。

やるべきことは多いのです。
昨夜、エドワルド様より本日お迎えするギルディール侯爵様は好き嫌いがほとんどないと聞いています。
紅茶もこれと言った好きな物があるわけでもないと聞き及んでいます。
さて、困りましたね。
こういう場合、好き嫌いがあれば物が絞れるんですが、仕方ありません。
ここはシンシア様がお好きな物を出しましょう。

え?何故シンシア様がお好きな物が分かるのかですか?
実は私とマリアナはシンシア様とお話をさせて頂いています。回数は少ないですけど、そう言った時にサーチさせて貰っていますので。

この時期は爽やかな紅茶とバターをきかせたクッキーがお好みですね。
それなら男性でも食べやすいですし、シンシア様のお好みだと分かればそこから話も進む可能性がありますよね。

そうとなれば私はクッキーを焼きに行きましょう。
はい?何故私がクッキーを焼くのかですか?
シンシア様にお出ししているクッキーは私が作っているからですよ。
大事なシンシア様に変な物は出せません!
ええ、間違っても愛人様たちが何処から入手した物か分からない物などもっての他です!

私やマリアナは誠心誠意シンシア様にお仕えしたかったのです。勿論、エドワルド様もです。
私たちはシンシア様がお産まれになった時から知っています。
あの愛らしい方をお守りするのだと思っていたのです。
ほとんどできなくて悔しい限りでした。 
日々、寄宿舎生活をし、お勤めに励まれているエドワルド様にどこまで報告すべきか、考えすぎて、今まで来てしまったのは私の落ち度です。

だから、今日はシンシア様のために頑張らなくてはいけないのです。
   
しおりを挟む

処理中です...