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エピローグ:悪役令嬢は、パンケーキの夢を見る
王都――スイート・セントラルの中心に佇む、クリーム色の城。
その最上階、ふわふわなマシュマロ張りのバルコニーで、セシリア・グランチェスターは静かに空を眺めていた。
キャンディ色に染まる夕焼け空の下、遠くには、チョコレート舗装された大通りを、ホバースイーツカートが走っている。
魔法で浮かぶプリン型の衛星が、空にゆっくりと回転しながら、日替わりのデザート天気を届けていた。
そんな、あまりにも穏やかで、ちょっとおかしな日常の中――
「ねえ、リュカ」
「ん?」
「次、生まれ変わるとしたら……お菓子が食べられない世界とか、嫌よね?」
「大丈夫。君なら、その世界も壊して作り直すだろ」
「ふふ、よくわかってるじゃない」
セシリアが微笑みながら頷く、その背後から――
「お嬢様、パンケーキの第二陣が焼き上がりました」
ぴしっとした軍服姿の老執事、オルデンが現れた。
だがその手には――
金色のフライパン。
そう、公爵家の執事兼、現在は“王国公認・パンケーキマスター金級”。
「今日のソースはキャラメル・チェスナッツにございます。殿下の分には特製の――」
「特製の……?」
リュカが身構える。
「……追い七味を添えております」
「やっぱりおまえかァ!!」
「我が家の伝統ですので」
その様子を見て、奥から小走りに現れたのは、セシリアの母――アリエッタ夫人。
元貴族界随一の“毒舌令嬢”だった彼女は、現在「公爵夫人製菓学園」の理事長である。
「あなた、またお嬢様の食卓で遊んでるの? 食材に敬意を払いなさいって言ってるでしょう?」
「ほほ、これは深い愛情で――」
「じゃあ今晩の夕食当番はあなたね。私は温泉スライム育成会議があるから」
「え、まさか……アレの味見も……?」
「当然よ」
公爵家の面々は、相変わらずだった。
でも、それがいい。
いつも通り、笑って、騒がしくて――あたたかい。
空には、新たな星が生まれていた。
それは、セシリアが再構成した世界の“中心核”となるもの。
希望、自由、そして少しの糖分でできた、やわらかな星。
そして今日も――
「パンケーキ、冷めるよ~?」
セシリアが小さく呼びかけると、バルコニーの奥から、家族と仲間たちの笑い声が重なるように響いてきた。
――世界は、今日も、甘くてあたたかい声で、笑っていた。
《完》
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