この世界と引き換えに愛を乞う

seto

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それからロジーナという女子生徒は、順調に攻略対象達と仲を深めていった。
定期的に開催されるエルネストとのお茶会にも度々顔を出し、無愛想を貫くカロクに絡んでくる。何が楽しいのか、一方的に喋りかけては朗らかな笑みを向けてくる。たまに一言二言返してやれば、何故か嬉しそうに微笑んでくるのだ。これが愛を知らないカロクならば、絆されたかもしれないとカロクは思った。

ゲームの中と違うのは、攻略対象の方がある程度節度を持って接していると言う事だ。
名前で呼ぶのはエルネストだけで、他のメンバーはみな家名でロジーナの名を呼ぶ。だがそれもエルネストがいる時だけのようで、2人っきりの時は名前で呼びあっているようだった。ハーレムルートでも狙っているのだろうか。現実で実現すれば、地獄しかないだろうにとカロクは思った。


今日もカロクはめげずに絡んでくるロジーナに辟易していた。旧校舎の裏庭を通ったというロジーナが、カロクがお茶をしている所に突撃してきたのだ。勝手に向かいの席に腰をおろし、一方的に喋りかけてくる。本来であれば、今ここに座っているのはカーナだったというのに。

遅れて来たカーナは、ロジーナの姿を確認すると顔を青くして去っていってしまった。幸い、ロジーナにカーナの姿は見えなかったようだが。
カーナ曰く、ロジーナからの接触は今の所ないらしい。だが王子であるエルネスト達と親しいロジーナは、他の女子生徒達から反感を買っているようだ。それもそうだろうな、とカロクは他人事のように思った。

「カロク様? いい加減こちらの方を紹介して貰えます?」

そう言ってロジーナがプクッと頬を膨らませる。今日はカーナとの定期連絡の日。2人きりだと思われぬよう、当然魔族も同席している。今日の同席者は黒鳶だ。
漆黒の長髪を後ろで緩くまとめ、アメジストの瞳が神秘的な印象的を与える少年となっている。

「君に紹介出来る人はいないよ。」

そう言ってカロクは紅茶を口へと運ぶ。

「もうっ!! カロク様の意地悪っ!!」

そうロジーナは返すが、そのやり取りすら楽しそうだ。こちらはいい加減うんざりしていると言うのに。
黒鳶の方も、カロクがロジーナにいい印象を持っていない事が分かっているのか、一瞥すらもしない。ただ黙々と、お茶を啜っているだけだ。

いい加減追い払おうと考えて顔をあげる。すると、視界の端に見慣れた白銀が揺れた。サイラスだ。思わず頬が緩みそうになって、はたと気づく。
ロジーナがもしサイラスと出会ってしまったら。彼女は十中八九、サイラスに近づこうとするだろう。無邪気な顔をして、黒鳶にすら色目を使う人物だ。サイラスに粉をかけようとしてもおかしくは無い。

彼女が前世の記憶を持っているのかは不明だ。だが事実、他の攻略対象とは親しくしている。彼らの印象をあげる何かを持っている、もしくはそう行動しているという事は明白だ。
もし、サイラスを取られてしまったら。そう考えるだけで、カロクの心に深い影が差した。

「カロク。」

しかし無情にも、サイラスはカロクを見つけて声をかける。いや、サイラスはカロクを旧校舎へと探しに来たのだろう。
でなければ、使われていないこの場所に訪れるわけが無い。しかもサイラスは部外者だ。用事がなければ、学園を訪れることもないのだ。

「あの方はー‥」

振り返ったロジーナがポツリとこぼす。
彼女の瞳にサイラスが映るだけで、カロクは腹の中に冷水をぶち込まれた気持ちになった。カロクの心情に呼応するかのように、黒鳶の瞳孔が細く鋭くなる。静止をかけなければ、今にも飛びかかってしまいそうだ。

「もしかして、サイラス様‥?」

ロジーナがポツリと呟く。
その瞬間、カロクの怒気が上がった。

殺してしまえ。

本能が囁く。

ダメだ、短絡的すぎる。

冷静な部分がそう叫ぶ。
悩んだのは一瞬だった。

サイラス唯一を取られるくらいならば。

カロクは胸元に忍ばせたナイフへと手を伸ばした。
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