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初手の侵攻は一夜にして完了した。
懸念されていたもう1つの街の防衛機構も、結局沈黙を貫いたまま、最後まで起動する事はなかったと言う。ディルムッド曰く、その街の機構は既に壊れて動かなくなっていたとの事。それをあたかもまだ現役であるかのように見せることで、街の繁栄を維持してきたのだという。
次の侵攻は1週間後。
どこを攻めるかを詰めなくてはいけないのと、魔族達の身体を休ませる意味とがある。と言っても、あまりに呆気なさすぎて休むほど疲れていないと言うのが本音だが。
フィオニスと別れたベルナールは、談話室に魔族達を集めた。フィオニスの体の事を共有する為だ。もちろん、フィオニスには許可を得ている。ベッドの中での事は、きつく口止めをされたが。
ベルナールの話を聞き終わると、みな難しい顔をして黙り込んでしまった。魔神ソルシエルが堕ちた魂を食らっていた事は、みなも周知していた。その神格を削っている事も。
だが、神々ですら対処に困っているその魂達を、同じ世界の魂である魔族達がどうにかする事は不可能だった。共に堕ちるか、喰らわれるかのどちらかだ。だからみな、歯痒い思いでソルシエルを見守っていたのだが。
「フィオニス様は、世界を害する獣も喰らうつもりでしょうか?」
ベリサリウスが問う。
「そう、でしょうね。」
あの方の性質を考えると、とベルナールが答えた。その言葉に、チッとジークフリートが舌打ちをした。
「獣と呼ぶのも烏滸がましい愚物が。」
ジークフリートは嫌悪感を隠そうともせずに、そう吐き捨てた。
「止めることは、無理でしょうね‥」
ディルムッドが言う。
「はい、きっと。あの方は、『それが最善だから』と笑っておられました。」
フィオニスのその笑みを思い出すと、ベルナールは胸が締め付けられるようだった。
「今は落ち着いておられるのだな?」
ジークフリートが問う。
「はい。ご自身で解決できなかった事を恥てはおられましたが‥。」
「今の我々は、あの方の為だけにある。好きに使ってくださって構わないのに‥。」
ベルナールの言葉に、ディルムッドがそう返す。こと欲に関しては、生前何度も踏みにじられた彼らには思う所がある。みな、忌避していると言っても過言ではなかった。だがそれでも、それがフィオニスを救う手立てとなるのなら、身を差し出す事に躊躇いなどなかった。
「‥1つ問うが、行為を強いたわけではあるまいな?」
ヤギのような角を持つ魔族、アルブレヒトが問う。
「当然です。私とて少し、躊躇いました。未だに、あのまま触れても良かったのだろうかと。」
しかし、とベルナールは続ける。
「あの方は最後まで私の身を案じて下さった。私が自分を責めぬようにと。
そんなあの方を前に、私ばかりが戸惑ってなどいられません。」
「あの方らしいな。」
フッとジークフリートが笑う。
「それに、ソルシエル様が仰ったそうですよ。欲は、『可能性』なのだと。」
「可能性‥」
ディルムッドが復唱する。
「我々がそれを信じられるようになるには、長い年月が必要でしょう。それでも、それが神々の慈悲であるというのなら、私は‥。」
途切れた言葉は、再度紡がれることはなかった。しかしその言葉は、確かに魔族達の心に響いたのだ。
懸念されていたもう1つの街の防衛機構も、結局沈黙を貫いたまま、最後まで起動する事はなかったと言う。ディルムッド曰く、その街の機構は既に壊れて動かなくなっていたとの事。それをあたかもまだ現役であるかのように見せることで、街の繁栄を維持してきたのだという。
次の侵攻は1週間後。
どこを攻めるかを詰めなくてはいけないのと、魔族達の身体を休ませる意味とがある。と言っても、あまりに呆気なさすぎて休むほど疲れていないと言うのが本音だが。
フィオニスと別れたベルナールは、談話室に魔族達を集めた。フィオニスの体の事を共有する為だ。もちろん、フィオニスには許可を得ている。ベッドの中での事は、きつく口止めをされたが。
ベルナールの話を聞き終わると、みな難しい顔をして黙り込んでしまった。魔神ソルシエルが堕ちた魂を食らっていた事は、みなも周知していた。その神格を削っている事も。
だが、神々ですら対処に困っているその魂達を、同じ世界の魂である魔族達がどうにかする事は不可能だった。共に堕ちるか、喰らわれるかのどちらかだ。だからみな、歯痒い思いでソルシエルを見守っていたのだが。
「フィオニス様は、世界を害する獣も喰らうつもりでしょうか?」
ベリサリウスが問う。
「そう、でしょうね。」
あの方の性質を考えると、とベルナールが答えた。その言葉に、チッとジークフリートが舌打ちをした。
「獣と呼ぶのも烏滸がましい愚物が。」
ジークフリートは嫌悪感を隠そうともせずに、そう吐き捨てた。
「止めることは、無理でしょうね‥」
ディルムッドが言う。
「はい、きっと。あの方は、『それが最善だから』と笑っておられました。」
フィオニスのその笑みを思い出すと、ベルナールは胸が締め付けられるようだった。
「今は落ち着いておられるのだな?」
ジークフリートが問う。
「はい。ご自身で解決できなかった事を恥てはおられましたが‥。」
「今の我々は、あの方の為だけにある。好きに使ってくださって構わないのに‥。」
ベルナールの言葉に、ディルムッドがそう返す。こと欲に関しては、生前何度も踏みにじられた彼らには思う所がある。みな、忌避していると言っても過言ではなかった。だがそれでも、それがフィオニスを救う手立てとなるのなら、身を差し出す事に躊躇いなどなかった。
「‥1つ問うが、行為を強いたわけではあるまいな?」
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「当然です。私とて少し、躊躇いました。未だに、あのまま触れても良かったのだろうかと。」
しかし、とベルナールは続ける。
「あの方は最後まで私の身を案じて下さった。私が自分を責めぬようにと。
そんなあの方を前に、私ばかりが戸惑ってなどいられません。」
「あの方らしいな。」
フッとジークフリートが笑う。
「それに、ソルシエル様が仰ったそうですよ。欲は、『可能性』なのだと。」
「可能性‥」
ディルムッドが復唱する。
「我々がそれを信じられるようになるには、長い年月が必要でしょう。それでも、それが神々の慈悲であるというのなら、私は‥。」
途切れた言葉は、再度紡がれることはなかった。しかしその言葉は、確かに魔族達の心に響いたのだ。
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