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静まり返った部屋に、フィオニスの靴音だけが響く。コツコツと小気味よい音を鳴らして公爵へと近づくと、罪に塗れて浮かぶことすら出来なくなったその魂を睥睨した。
「‥あっけない、ものですね。」
エクトールの零すような声が、嫌に大きく響いて聞こえた。
貴族たちの魂はどうだろうかと視線を流せば、薄汚れてはいるものの、何とか浮かび上がり輪廻へと還ろうとしているのが見えた。最も、その前に神々の手によって回収され、浄化の炎で焼かれることになるのだろうが。フッと少し安堵した様子で息を吐き出せば、地面に転がる公爵の魂を拾い上げた。
「“2つ目、だね。”」
魔神の気配が険しくなる。
1つ目の魂ですら、消化が終わっていない状態だ。そんな状態で2つ目を入れればどうなることか。魔神はそんなフィオニスの体を心配しているようだった。
「許容量はまだまだあるのだろう? なら問題ないさ。」
「“‥前にも言ったけど、その体はそれを受け入れるように作られていない。”」
「本当に問題があれば、何がなんでも止めるだろう?」
そうフィオニスが問えば、グッと魔神の喉が鳴った気がした。
フィオニスは醜悪な魂を拾い上げ、口元へと運ぶ。
「フィオニス様ッ!!!」
しかしその形の良い唇に触れる前に、エクトールの鋭い声が響いた。
「‥何だ?」
フィオニスが問う。
エクトールには魂は見えていないはずだ。ならば何故、そこまで必死な顔をしているのだろうか。
「今、何をなさろうとしておいでか‥ッ!?」
その言葉に、ふむとフィオニスは考える。
「何か、見えるのか?」
フィオニスがそう問い返す。
するとエクトールの顔が苦く歪んだ。
「いいえ。ですが、何か良くないものを手にしているのは分かります。」
その言葉に、隣に控えていたクルースニクが表情を険しくした。
フィオニスは傍らに浮かぶ魔神へと視線を流す。すると魔神は少し呆れたような雰囲気を滲ませた。
「“加護の影響、だね。彼らには良くないものを感じ取る力があるんだ。第六感、とでも言えばいいのかな。”」
「私にはなんの反応も示さなかったが。」
フィオニスが問う。
「“そりゃそうさ。君は善良だからな。”」
その言葉にフィオニスは頭を抱えたくなった。
「それを、どうするおつもりですか?」
再度エクトールが問う。
問うてはいるが、ほぼ確信を持っているように感じる。仕方なくフィオニスは答える。
「喰らうのだ。どうしようもなく堕落した、この魂を。」
するとエクトールの表情が歪んだ。
「シリウスが言っていたのは、このことだったのですね‥。貴方様の中に、何か良くないものがいると。」
どうやら先日飲み込んだ魂にも気づいていたようだ。
「放置すれば獣へと転じる。」
「だとしても‥!!」
「ならばどうする? 既に世界を蝕む獣は誕生してしまっているのだぞ。」
フィオニスの言葉に、エクトールは悔しげに唇を噛んだ。他に術がない。だからフィオニスは自身を犠牲にする。
エクトールは初めて、力がない自分をもどかしく感じた。しかしそんなエクトールの様子に、フィオニスはニヤリと妖しく笑った。
「だから足掻けと言っている。」
「フィオニス、様‥」
続く言葉に、エクトールは息を飲んだ。
「期待しているぞ、エクトール。」
ククッとフィオニスは楽しげに笑うと、手にした魂を飲み込んだ。
「‥あっけない、ものですね。」
エクトールの零すような声が、嫌に大きく響いて聞こえた。
貴族たちの魂はどうだろうかと視線を流せば、薄汚れてはいるものの、何とか浮かび上がり輪廻へと還ろうとしているのが見えた。最も、その前に神々の手によって回収され、浄化の炎で焼かれることになるのだろうが。フッと少し安堵した様子で息を吐き出せば、地面に転がる公爵の魂を拾い上げた。
「“2つ目、だね。”」
魔神の気配が険しくなる。
1つ目の魂ですら、消化が終わっていない状態だ。そんな状態で2つ目を入れればどうなることか。魔神はそんなフィオニスの体を心配しているようだった。
「許容量はまだまだあるのだろう? なら問題ないさ。」
「“‥前にも言ったけど、その体はそれを受け入れるように作られていない。”」
「本当に問題があれば、何がなんでも止めるだろう?」
そうフィオニスが問えば、グッと魔神の喉が鳴った気がした。
フィオニスは醜悪な魂を拾い上げ、口元へと運ぶ。
「フィオニス様ッ!!!」
しかしその形の良い唇に触れる前に、エクトールの鋭い声が響いた。
「‥何だ?」
フィオニスが問う。
エクトールには魂は見えていないはずだ。ならば何故、そこまで必死な顔をしているのだろうか。
「今、何をなさろうとしておいでか‥ッ!?」
その言葉に、ふむとフィオニスは考える。
「何か、見えるのか?」
フィオニスがそう問い返す。
するとエクトールの顔が苦く歪んだ。
「いいえ。ですが、何か良くないものを手にしているのは分かります。」
その言葉に、隣に控えていたクルースニクが表情を険しくした。
フィオニスは傍らに浮かぶ魔神へと視線を流す。すると魔神は少し呆れたような雰囲気を滲ませた。
「“加護の影響、だね。彼らには良くないものを感じ取る力があるんだ。第六感、とでも言えばいいのかな。”」
「私にはなんの反応も示さなかったが。」
フィオニスが問う。
「“そりゃそうさ。君は善良だからな。”」
その言葉にフィオニスは頭を抱えたくなった。
「それを、どうするおつもりですか?」
再度エクトールが問う。
問うてはいるが、ほぼ確信を持っているように感じる。仕方なくフィオニスは答える。
「喰らうのだ。どうしようもなく堕落した、この魂を。」
するとエクトールの表情が歪んだ。
「シリウスが言っていたのは、このことだったのですね‥。貴方様の中に、何か良くないものがいると。」
どうやら先日飲み込んだ魂にも気づいていたようだ。
「放置すれば獣へと転じる。」
「だとしても‥!!」
「ならばどうする? 既に世界を蝕む獣は誕生してしまっているのだぞ。」
フィオニスの言葉に、エクトールは悔しげに唇を噛んだ。他に術がない。だからフィオニスは自身を犠牲にする。
エクトールは初めて、力がない自分をもどかしく感じた。しかしそんなエクトールの様子に、フィオニスはニヤリと妖しく笑った。
「だから足掻けと言っている。」
「フィオニス、様‥」
続く言葉に、エクトールは息を飲んだ。
「期待しているぞ、エクトール。」
ククッとフィオニスは楽しげに笑うと、手にした魂を飲み込んだ。
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