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第一章『令嬢』とは、私には遠い存在でしかありません

これから起こる私の人生(乙女ゲーム)を振り返ろう

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 突然来たアレン王太子殿下の訪問に緊張したが、『婚約破棄』を宣言したはずなのになぜ訪問をしたのか疑問に思いつつ、流れる空気の重さに必死に耐え続けたのが今日の昼下がりのこと。

 今はディナーが終わり、自分の寝室でこの世界のことをまとめようとメモをとっている。

 薄型の透明な液晶パネルみたいなものに専用の羽根ペンで文字を書く。
 これも魔導具。日本の言葉を借りるなら、タブレットがわかりやすいだろう。
 魔力がない私が何故魔導具を使えるのか。
 それは、両親が遺してくれた魔法石のおかげだ。ネックレスにして常に持ち歩いている。

 両親が私の今後を思い、魔法石に両親の魔力が込められているからしばらくは魔力がないことを悟られる心配はない。
 まじないの一種で魔力を石に込めると一度だけ身を守ってくれると伝えられている。
 お守り代わりにしている人が多い。

 この魔法石は特別なもので、私が念じれば魔法が発動する。
 普通なら、魔力を込めた本人にしか使えない。

 このタブレットのような魔導具は暗証番号も設定出来るから誰かに見られる心配はない。
 というよりも例え、見られても日本語で書いているのでこの世界の人にはわからない。
 この世界には日本語が存在しないのだから。

「あれ」

 書いていて私は、首を傾げた。
 それは自分の設定。

 ソフィアは幼い頃、両親を何者かに殺される。そして、デメトリアス家に養女として迎えられる。
 両親を殺されたことを哀れに思ったのかとても甘やかされて育てられ、とてもワガママな令嬢に育つ。

 来訪してきた殿下を一目で気に入ってしまったソフィアは殿下をどうしても手に入れたかった。

  ある事を思いついたソフィア。それは婚約せざるをえない状況を作ってしまおう、と。

 階段を一緒に登っている時にわざと殿下の腕にしがみつき、そして自分から階段から転がり落ちた。
 ソフィアは軽めの怪我をするが、腕に擦り傷が出来ており、それを利用してソフィアは婚約を申し込む。
 たかが擦り傷程度。舐めてれば治る。でもこの貴族社会では汚名になることもありえる。
 ソフィアの思惑通りにアレン殿下と婚約をする。

 そして、学園に入学して主人公ヒロインが色気を使って男たちに媚びてるように見え、気に食わなくていじめ始める。
 まず、どうしてソフィアは学園に入学できたんだろう?

 両親は『大』が付くほどの魔術士でその娘がソフィア。
 魔術士の子供は狙われやすい。魔力持ちでもあるため、誘拐された子供の多くが闇取引により、高値で売られてしまう。売られた子供が待っている末路は実験台になるか、奴隷のように死ぬまで働かされるか、見世物となる。
 貴族として育てられていない場合だけど。

 いろんな国から令嬢や令息が集まる学園で、ソフィアが魔術士の娘だと知られたら?

 あっ、とんでもなくエグい想像してしまった。
 これは言葉にしないでおこう。知らなくてもいいこともあるからね!

 学園に入学出来たのにはなにか理由があるはず。
 多分、未プレイの真相エンドでわかる気がする。

 それに、学園に入学する前にはソフィアの傷は完全に治る。それなのに殿下は婚約解消しない。

 婚約解消したくないほど魅力があるとは思えないし。ソフィアの性格を考えるとね。ゲームのソフィアね。
 私ではないよ。

 ヒロインが婚約者ならわかるけど。
 ゲームでは語られてなかった何かがあるというの?

 それに、エンド間近にソフィアは殿下に「約束は?裏切るのですか!?」と言ったセリフがある。
 そんなソフィアに殿下は冷ややかな笑顔を見せ、「約束は守っただろ? でも、キミが俺との約束を破ったんだよ」
 そして、ソフィアは殿下の手によって殺される。
 悪魔に心を売ったのもあり、殺すほか選択肢はなかったのだろう。
 悪魔に心を売った人は人としての心を持たなくなるのだから。

 私はそれを見た時、自業自得だなと思っていた。でもまさか、自分がソフィアになってしまうなんて。

 そのうち悪魔との契約……なんてことにはならないようにしよう。

 殿下にはこれ以上関わりを持ちたくはないと思うが、明日も来ると言われている以上、仕方ない。

 本来なら私が殿下に会いに行かなければいけないのに、わざわざ来る理由なんて私の存在に価値があると思ってるのかも。

 自意識過剰すぎ……?

 そもそも相手に不快な思いをさせずに嫌われる方法なんてあるのかしら?

 最後には死んでしまう運命なんて、受け止められるはずがない。死ぬためにこの世界で産まれたわけじゃない。
 どの道、ヒロインに出会ったら殿下は彼女に夢中になって私に冷たくなるんだから。今のうちに嫌われてしまった方がいい。

 攻略対象者キャラの一人なのもあり、私の大好きなキャラには変わりない。
 大好きなキャラに冷たくされるのを考えると、この世界を破壊してしまいたくなる。

 なんだろうか、悪魔と契約したソフィアの気持ちが少しわかってしまった。

 というよりもそもそも学園に行かなくてはいいのでは?

 頭を抱えているとベッドに置いてあった通信用の魔導具が小さくピカっと光を放ち、幼き少年が立体化して現れた。

 〈 すみません。お邪魔でした? 〉
「ノエル!?」

 ペンを持って難しい顔をしながらベッドの方を見た私に彼は申し訳なさそうにしている。

 銀髪の緑色の瞳をしている彼はノエル・デメトリアス。私の義弟。そして、攻略対象者の一人。
 私が高熱でしばらくうなされていた頃、心配して毎日のようにお見舞いに来てくれていたのを落ち着いた時に侍女からよく聞かされていた。

 誰かが話しかけて来てくれたのはなんとなく覚えてる。その人がノエルだったとわかった時は全力でハグしに行ったわ!
 全力で抵抗されてハグ出来なかったけど。

 私の体調が落ち着きはじめた数日後にノエルは隣国に留学した。
 立派な騎士になるのを夢見て。

 ノエルは忙しいだろうに、私のことが心配なのか、時間を見つけてはこうして連絡を取り合っている。

 それがとても嬉しい。



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