乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまった私は、全力で死亡フラグを回避したいのに、なぜか空回りしてしまうんです(涙)

藤原 柚月

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第九章 私にとっての【推し】とは?

人様に渡せるレベルまで上達したのは、奇跡です!

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 屋敷の正面で馬車が止まっている。

 今日はマテオ様が出発される日。
 侍女五名とオリヴァーさん、お義父さま、お義母さまとそして私の肩にちょこんと座っている子ドラゴンの姿のシーアさんと私でお見送り。

 ノア先生は皇帝の用事で出掛けてるし、他の侍女たちも休みをとっていて今は居ない。


 セレスタン家にマテオ様は養子として向かう。
 ベネット家より貧困なものの、貴族では珍しく平民にも優しいと聞く。

 詳しくは知らないけど、平民から貴族に成り上がったらしい。

 ゲーム本編のマテオ様はベネット家に召使いのような扱いをされてるのよね。

 そのベネット家は平民に成り下がり、マテオ様はマテオ・セレスタンとなる。

 デメトリアス家の居候として暮らして来ただなんて、ゲームでは語られなかったし。

 ゲームではあんな、綺麗な笑顔をソフィア(私)に向けることなんてなかった……。

 そもそもヒロインにでさえも向けてなかった。

「それでは、お元気で」
「マテオ様もお元気で」

 一緒に居る時間が長かったせいか、離れるのが少し寂しい。
 いろいろあったけど、楽しかったし。

「あっ、あの。一応、刺繍したのですが」

 馬車に乗り込もうとするマテオ様に声をかけた私は、恐る恐る刺繍入りハンカチを見せる。

 あれから頑張った。人様に渡せるレベルまで上達したのよ。
 これは奇跡だと! アイリスや他の侍女たちも泣いて喜んでくれたのだけど……。

 私としては複雑なんだよね。上達しないと誰もが思ってたってことじゃない!!?

 まだいびつさは残ってるけど、不器用な私にしては良くやった方だと思う。

 肝心なのはプレゼントを渡す相手の反応。

 さっきから黙ってるけど……、気に入らなかったのかな?

「ありがとうございます」

 マテオ様はそっとハンカチを受け取ると私に笑いかけた。

 その笑みが未だに慣れなくて、固まってしまう。

 何回も見てるけど、慣れない。

 私の中のマテオ様のイメージと今のマテオ様のイメージが違いすぎる。そのギャップに戸惑っている。

「どういたしまして」

 私は我に返り、マテオ様に微笑み返した。

 毎回思うことだけど、この世界が乙女ゲームなだけにみんな美形でドキマギしちゃうんだよね。

 私の一番推しなのはアレン殿下なのだけど、一人一人が魅力的すぎるの。

 ゲーム本編の学園生活まで後数年。

 私は、生きられるのかな。死亡エンドになったりしないよね。
 その不安が日に日に増していく。

 この先の未来が本当に怖い。

 だけど、悪役令嬢としての人生で幕を閉じたくなんてない。だからこそ、頑張ってるんだ。

 マテオ様が馬車に乗り込み、義両親がマテオ様に声をかけてる中、私はこれからの未来をどうあるべきかを深く考えていた。


 ーーーーーーーーー

 《おまけ》

見送りして、屋敷内に入る。

 あっ、そういえば珍しくシーアさんが静かだったな。

「シーアさん?」

 小声で名前を呼ぶとシーアさんは口を開いた。

「のぉ、おやつはクッキーよりもケーキが食べたいのじゃが、最近太ってきてのぉ。ワシの代わりに食べて感想を聞かせてくれぬか?」
「さっきから黙ってたのってそれを気にして!!?」
「何を言うか!!? 大事なことじゃ!!!」

 小声で話すつもりがシーアさんの発言で思わず声を荒らげてしまったら、その場にいる全員が不思議そうに私を見ていた。

 シーアさんの姿は、オリヴァーさん以外見えてないから一人で喋ってたって思われてる!
 しかも、変な噂にもなりそう……。

 助けを求めるようにオリヴァーさんを見ると、戸惑いながらも言う。

「あっ、そういえばソフィア様。お疲れでしょう?? お休みになられたらどうでしょう?」

 うん、明らかに違和感がある。だけど侍女や義両親は心配そうに声をかけてくる。

 なんというか……過保護過ぎません? 嬉しいんだけどね。

 さっきの独り言みたいな発言にも「疲れてるから」ということにされてる。

 私は苦笑いを浮かべて休むことにした。



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