警告

藤原 柚月

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おばあちゃんのラジオ

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 ーー覚えているのは、母が泣きながら私の手を握りしめている。
 燃えて灰になった祖母を喪服姿の人達が悲しい表情で見ていた。

 当時三歳だった私は、なんでみんなが真っ黒な服を着て、悲しい顔になっているのかわからなかった。

 ーーーーーーー

 あれから二十年。

 私は二十三歳になった。

 貯金もそこそこ溜まり、念願の一人暮らしを始めようとしていた。
 一人暮らしは私の理想だったし、中学からの夢でもあった。

 それが叶うんだ。嬉しいーーっ!!

 荷物の整理をしていると、クローゼットの奥から古びたラジオを見つけた。

「? こんな古そうなラジオあったっけ」

 いつから合った物なのか、取り出して見てみるとホコリまみれで所々が錆びていた。

 ラジオを買った記憶がないから余計に不思議で仕方がない。

「ねぇ、茉依(まい)。……あら、懐かしい」

 このラジオをどうしたものかと悩んでいたら、丁度寝室に来た母に声をかけられた。

「お母さん、このラジオのこと知ってるの?」
「あんた、忘れちゃったの? 小さい頃におばあちゃんのラジオを気に入っておばあちゃんから貰ったじゃない」
「そうなの!?」

 全然覚えてない。
 そもそもおばあちゃんがどんな人なのかもわからない。

 覚えているのはお葬式の一部だけだからなぁ。

 お気に入りだったとはいえ、かなり古い。
 今ではスマホのラジオアプリがあるから、合っても.....かさばるだけだろうし。

 実家に置いていくかぁ。

 処分するのも……気が引けるし。

 私はそのラジオを元あった場所に戻した。


 ーーーーーーーーー
 《一ヶ月後》

 一人暮らしを始めて一ヶ月過ぎようとしていた。

 慣れない生活をして、自分の時間に余裕を持てない日々が続いていた。

 一ヶ月過ぎる頃には生活が安定し始め、気持ちにも余裕が生まれてきた。

 そんな、ある日の夜。

 その日は蒸し暑く、なかなか寝付けなかった。

 最近ハマりだしたアイドルのラジオ聞いていて、テンションが上がったというのも理由の一つなんだけど。

 明日は朝早いので強引にでも寝てしまおう。

 そう思い、目を閉じて、何回も寝返りをうっていた。

 静かな部屋で聞こえるのは時計の秒針音。

 ーーそのはずだった。

 ザ、ザザーー…………。

 急に聞こえ始めたこの音はなに?

 まるでノイズ音。テレビを消し忘れたのかもしれない。

 そう思って目を開けて起き上がると、テレビ画面は真っ暗だった。

 電源も入っていなかった。

 なら……、このノイズ音は? いや、そもそもなんで急にノイズ音が聞こえたの?

 未だに音が消えない。

 暗くて周りがよく見えないので、近くに置いてあるスマホを手探りで見つけ、ライトをつける。

 心臓がキュッとなった。
 テーブルの上に古いラジオがあったんだ。
 それは、実家に置いたはずのラジオ。

 ……おばあちゃんのラジオだった。

 ラジオからはノイズ音が……。

 私は、ラジオを聴いてないからノイズ音が流れるのはおかしい。そもそも……コンセントに差し込んでもいない。

 それなのに、ラジオはコンセントに差し込んであり、音が流れている。

 ザザザーー……。

 私はコンセントを抜こうと手を伸ばすと、背後から人の気配を感じた。

 一人暮らしなので、私以外は誰も居ないはずの部屋。

 それなのに気配を感じる。

 私は背筋が凍った。

 今すぐ後ろを振り向いて確かめたい! だけど、もしもこの世のものではないなにかがいたとすれば…………?

 怖くて振り向くことが出来ない。

 ラジオを消さないと。

 そう思って電源を切った後、コンセントに手を伸ばすと耳元にノイズ音と共に誰かの声が聞こえた気がした。

 老人のようなしゃがれた声で『……もう……死……』と。

 こんなことってある!? この状況をどう説明すればいい?

 もうヤダ!

 怖い! 怖い!!!

 私は泣きそうなのをグッと堪えてコンセントを抜いた瞬間、視界が真っ暗になった。

 ーーそして、目を覚ますと私はベッドで寝ていた。

 カーテンの隙間から光が差し込んでいる。

 朝なのだと、ほっとした。

 良かった。全ては夢だったんだ。

 ベッドから起き上がり、立ち上がる。

 空気を入れ替えようと窓まで歩こうとしたら“なにか”につまずいて転んでしまった。

「いったぁ~~。な……に」

 床に顔面を強打してしまい、顔を抑えて起き上がる。

 つまずいた“なにか”を見た。

「……え」

 それは、コンセントだった。

 コンセントは、テーブルにある古びたラジオに繋がっていた。

 ゾクッとした。あれは夢じゃない?

 いや、きっと私は疲れてるのかも!! だからこんなありえないことが起こってしまったと勘違いしているんだ!

 そうに違いない!!

 ラジオだって、私が持ってきたんだよね。無意識にラジオをつけてそのまま寝ちゃっただけ!!

 最近、記憶が飛ぶことがあるんだよね。

 脳が衰えてるのかな.....?

 その時は、今まで経験したことのない恐怖と、信じられない経験をしてしまい、(疲れているから)ということで自分の中で強引に納得した。

 この出来事を無かったことにしようと、これ以上は考えないことにする。

 だが、この奇妙な出来事は始まりに過ぎなかったーー。


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