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naoan

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家族とハイエナ

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「何か間違ったことを俺が言っているか?」
「何も間違ってないです」
「そうか、ちゃんと猶予を設けているだけありがたいと思ってほしいな」

想定もしていなかった。いや、想定することを意識的に避けていたのだろう。自分に不利なことについては楽観的に、長期的に考える癖をつけている僕にとっては普通のことだった。

父親の要望は単純明快。僕が三十歳になるまでに、この実家を出て行かなければ親子の縁を切るというものだった。親子の縁を切るということは、赤の他人になるという意味であっている。

海外であれば、二十歳を過ぎた子供は自分のほうから家を出て行くという習慣があるらしいがそれが日本にいるまさか自分に当てはまろうとは。

もちろん僕はそのままでいいとは思っていなかった。いつか働くだろうと思っていたし、いつか自立するだろうと考えていた。ここで問題だったのは、その期間を定めないために僕のやる気がまったくといっていいほど湧き上がらなかった点にある。

現在の貯金は数千円。仮にこの家を出て行くとなると必要な金額はその百倍ほどあれば事足りる。三ヶ月派遣に行けば手に入る金額だ。それをちゃんとためることができるならば、という話だが。

翌日、いつものように眠ることもなく朝を迎えた僕は父親が車を出す音を確認してからベッドから起き上がった。昨日までとは違う、今日から何か動かなければいけない、それがとてもしんどくてすでに眠たくなってしまうほどだった。

端末の連絡先から馴染みの相手に連絡を入れる。

「はい」
「ハイエナです。津田さん、折り入って頼みがあって、聞いてくれますか」
「お前から私に頼みごとなんて珍しいな」
「二時に中央公園でいいですか」
「ずいぶんと急ぐんだな。まあいい。待っている」

通話終了。津田さんはとても頼りがいのある相談役で、そして僕の仕事を斡旋してくれる先輩でもある。元々は変わった依頼を津田さんから頼まれて、暇つぶしにそれをこなすことで生活費をそこから調達していた。

二日ぶりに風呂に入り、髪を乾かしてひげをそり、ポロシャツとGパンをはいて外に出る。からっとしているのに気温が高くて熱気が地面に立ち込めていて、クーラーの効いた部屋に一秒でも早く帰りたい。

東屋の日陰のベンチで、長髪をいじりながらタバコをふかしているいい年をした女性、津田さんは退屈そうに待ちぼうけていた。

「遅くも早くもない時間通り、相変わらずつまらん男だな、ハイエナ」
「まあ、面白い人間になろうとしてないですが」
「それを本気で言っているなら本当に病気だ」
「はあ」

事の顛末を簡単に話し、突発的ではなく継続的に収入の得られる仕事はないかと相談をした。津田さんは特に目立った相槌も打たなかったが、ひたすら笑みを浮かべていた。僕が話し終わる前からひとつの答えを早く言いたいという雰囲気がかもし出されていて、ついにその言葉は放たれた。

「とてもうれしい話だ。私はハイエナにさっさとあの実家を出て行ってほしかったんだ。そして早くこちらの仕事に本腰になってくれないかと、いつも考えていたんだよ」
「ということは」
「安心しろ津田。手始めにひとつ仕事を請けてはくれないか」
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