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極北の魔女

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銃声。風がそれを消す。
 極北の白銀の大地はこの世で最も過酷な環境の一つに数えられる。

 『………敵航空戦力を殲滅しました。進軍可能です』

 通信機で交信するのは、魔女だ。箒にまたがり、片手には大きなライフルを持ち、背中には大きな無線機を背負っている。無線機の受話器は通話部分の外装がとれており、中身が見えていて、無線機自体にも雪が少し積もっていた。

 『…了解した、進軍援護を要請する』

 『了解しました、そちらに向かいます。通信終わり』

 極北の空でライフル片手に受話器に話し込む少女は、受話器を戻すと、左手で箒を握りしめた。速度が上がる。箒は空を滑り、味方の元へと急いだ。

 ここは、極北は、過酷な土地だ。寒く、空気は鋭く冷たい。地上も空も、過酷さは変わらない。弱きは死ぬのみである。ただ、ただこの戦場において平等なことがあるとすれば、死は常に平等に与えられるということだろう。
 それ以外に、平等なことなど何一つ存在しないのだから。

 『ザー…こ……第…2……!こち……64…中…!…ど…でも…い!応答…がう!』

 『こちら第836戦闘飛行隊、第836戦闘飛行隊』

 『こち…第642…兵中隊!第642歩兵中隊!敵大規模魔女部隊を確認!迎撃求む!早くしてくれ!このまっ、ツー ツー ツー』

 『こちら第836戦闘飛行隊、第836戦闘飛行隊、第48歩兵大隊、応答願う』

 『 ズガァンッ こちら第48歩兵大隊! ズダダダダダダダダダッ 要件をどうぞ!』

 『敵航空戦力の大規模増援を確認、迎撃に向かいます。戦死した場合の捜索は必要ありません。撤退してください』

 『了解! ズガァンッ 幸運を!』

 『ありがとうございます。では、また会えたら。通信終わり』

 今思えば、こんなにも優しい人たちに囲まれて、私は幸せだったのでしょう。軍学校で訓練もまともに受けないまま実戦に出て、勲章も名誉もないまま兵器としてこの極北の空を7年飛びましたが、こうして生きていられるのは地上で戦っている彼らのおかげですから。
 では、イきましょうか。神はいないと思いますが、願わくば祈りましょう。また会う日がありますように。

 少女は夜戦服のポケットから、薄い緑色の怪しげな液体の入った注射器を左手に取り、それを首に突き刺した。薄い緑色の液体は、急速に少女の体の中へと消えていった。液体がなくなると、少女は注射器を捨てた。

 ああ、気分が高揚する。敵だ。見つけた。殺してやる。私が、この手で、その命を刈り取ってやる。さぁ、この私が、地獄の突撃航空戦を見せてやる。

 日が昇り、風が止む。少女と箒は速度を上げる。右手にライフルを、左手には箒を固く握っている。ライフルの先には魔力を帯びた長い銃剣が付いている。銃剣の切っ先は、空を切り、今まさに敵を殺さんとしていた。

 「敵機が1機近づいてきます」

 「死にに来たのか、哀れなやつだ」

 「そうですね」

 「総員、対空爆裂射撃用意!」

 「用意良し!」

 「撃て!」

 36発の弾丸が空中で炸裂する。火と鉄が目の前を覆い隠し、何も近づかせなかった。箒と少女は火と鉄を一身に受けながら、直線にそれを抜け、笑みと共に銃口を向けた。

 「敵機止まりません!突っ込んできます!」

 「第二射よう…」

 「だめだ!この距離では我々まで被害を被る!」

 「総員散開!近せ…」

 「よし!1人だ!1人刺し殺してやったぞ!」

 少女は笑みを浮かべながら、銃剣で敵指揮官の頭を貫いた。指揮官を蹴り落とし、次の標的に銃口を向ける。

 ズガァンッ
 銃声。刹那、敵の少女の左肩が抉れ、そのまま落ちていった。

 「今度は抉ってやったぞ!そんなものか⁉︎」

 「くそっ!第3小隊銃剣突撃!我に続け!」

 「「了解!」」

 「おいバカ!やめっ」

 「突撃ぃ!」

 敵が三体突撃してくる。いいぞ。もっと来い。私が殺してやる!私が潰してやる!

 「「「うぉぉぉぉぉぉぉ!」」」

 「ふひ、ふひひ、ふはははははは!」

 少女は狂気に笑いながら突撃する三人に真正面から向かった。まずは右側の1人が心臓を貫かれた。少女はそれを蹴り落とした。

 「これで3人!」

 「反てっ…」

 少し離れた後、少女はライフルを構え、引き金を引いた。
 
 ズガァンッ
 銃声。刹那、真ん中の1人の頭が消し飛び、そのまま落ちていった。

 「おい!やったぞ!バカの頭を吹き飛ばしてやった!あははははははははは!」

 「小隊長!貴様…!死ねぇぇぇぇぇ!!!!!!」

 最後の1人が猛スピードで突っ込んでくる。だが、冷静ではなかった。少女は彼女よりも高いところに陣取っていた。太陽を背にして。

 「ばぁぁか、死ぬのは…お前だよ!!!」

 少女は太陽を背にライフルを両手で持ち、おおきく振りかぶっていた。
 振るわれたライフルの先には魔力を帯びた長い銃剣が付いている。銃剣は、最後の1人の首を跳ね飛ばした。

 「突っ込んできたバカの首を跳ね飛ばしてやった!バカめ!落ちろ!」

 「今だ!対空爆裂射撃、撃て!」

 再び火と鉄で空が覆われる。しかし、少女にとってそれは大きな壁ではなかった。少女は火と鉄を一身に受けながら、その中を直線に突っ切った。少女は笑みと共に、銃口を向けていた。

 「くそっ!奴は不死身か⁉︎散かっ…」

 「せぇぇぇぇい!」

 少女は銃剣を突き刺し、ねじった。それは首に刺さり、確実に首をもぎ取った。

 「首を捻りとってやったぞ!まだだ!もっとこい!足りないぞ!お前らの殺意はこんなものか‼︎」

 「中隊長!」

 「撤退!第1中隊は我に続け!我々が殿を務める!」

 「了解!第2中隊、第3中隊は我に続け!撤退する!」

 「第1中隊散開!近接戦を展開しろ!1人で行くな!必ず2人1組ロッテで仕掛けろ!」

 「「「「「「了解!」」」」」」

 散開した敵の少女たちが、2人1組で少女を切りつけようとする。だが、銃剣は届かない。空振り、空を切るのみだった。

 「あはははははは、そんなのが当たるか!」

 少女は笑いながら突撃してきた敵少女の片方を真っ二つにした。敵少女の片方は落ちていった。

 「どうだ⁉︎真っ二つにしてやったぞ!」

 「くそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 敵少女のもう片方が突っ込んでくる。

 「ばぁぁか!死ねぇ!」

 少女がライフルを振るう。だが、敵少女のもう片方が真っ二つになることはなかった。ライフルで受け止められていたのだ。

 「ぐぁ!わ、私ごと吹き飛ばせ!」

 「すまねぇ、貴様はここで落ちろ!撃てぇ!」

 2人の少女を火と鉄が襲う。肉の焦げる音がする。鉄片が肉を裂き、突き刺さる。煙が覆い隠していた。

 「これで、死んだか…」

 「これで死んでなかったら、正真正銘の化け物ですよ」

 「そうだな」

 だが、少女は飛び出した。丸焦げになり、ぐちゃぐちゃの死体を落とし、ライフルを構えた。その先の銃剣で敵少女を刺し殺すために。

 「あはははははははは!どうしたぁ!次の一手はないのかぁ!」

 少女は叫びながら1人を刺し殺した。銃剣は、心臓を貫いていた。

 「くそっ!くそっ!くそっ!」

 「近寄るな!こっちに来るな!」

 「死ね!死ね!死ね!死ねぇ!」

 「撃て撃て撃て撃て撃てぇ!」

 ダァン ダァン ダァン ダァン ダァン ダァン ダァン
 中口径の半自動小銃セミオートライフルの銃声がする。銃弾が少女の近くを掠めるが、当たっていない。否、当てることができない。少女の狂気の殺意から生まれる恐怖は、冷静を掻き乱し、照準を鈍らせた。

 「どうしたぁ!私には当たってないぞ!」

 少女は弾幕の中を突き抜ける。たった4人、半自動小銃セミオートライフルと言えど、その弾幕は決して薄っぺらい物ではなかった。
 だが、少女には当たらなかった。

 カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ
 「くそっ!くそっ!」

 弾幕になるほど撃てばすぐに弾は無くなるのは明白だった。弾が無くなれば最後、待っているのは近接戦闘であり血みどろの殺し合いだ。

 「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 少女の銃剣が深く捻り込まれる。心臓を貫通し、その動きを完全に止めた。

 「くっそタレがぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 敵少女が銃剣付きの半自動小銃セミオートライフルを向け、突撃する。だが、少女に届くことはなかった。少女は死体を盾にし、逆に死体を貫通させた銃剣で刺し返した。

 「ひ、ひぃ!もういや!おうちに帰して!お母さんに合わせて!神様!」

 怖気付いてその場に浮かんでいることしかできなくなった敵少女は、無慈悲にも、銃剣でその首を落とされた。彼女は幸運にも、母親に会うことが叶った。
 少女は左手に箒を握りしめ、速度を上げる。敵を追撃し、殲滅するために。
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